39:ドラード跡地攻略戦
爆発音を伴う戦場の空気。それが足元から暴風になって吹き込んでくる。
「いくぞ、リードくん。振り落とされてくれるなよ」
「分かってるって。そのためにアンカーも着けてもらってるんだし」
バトルモードのブリードになった俺が今いるのはランドイクスの車上。もっと広く言えばエキドナの艦底部格納庫だ。
空戦機体向けの甲板と違って、ここは陸戦機、及び海戦機が主に使用している場所だ。で、今まさに大口を開けている発着口から戦場に飛び降りるところってワケだ。
直掩機とホーミングレーザー機銃による対空防御を頼りに進むエキドナの真下には、爆散するデモドリフトの雑兵と、そのために巻き起こる風が吹き荒れている。拓けた地区からの乾いた砂を含んだそれのせいで、いざ出陣って段階で俺もランドイクスも砂ぼこりだらけだ。毎度思う事だが人間みたいに鼻も口もあるブリードの顔でも、マスク無しに砂や土を浴びても何ともないのはありがたいな。
ともかく鉄火舞う地表に向けてクリスの操るランドイクスは無限軌道の音も重々しく発着口へ乗り出す。
ぶわりと持ち上げられるような浮遊感を感じながら、俺はランドイクスの上で両足を踏ん張る。そして結晶質の主砲の逆向き。つまりクリスの背後に機銃改造のライフルを向ける。
前をクリスが見ているんだから、乗っかっている俺が見るのはそれ以外だよな。
降下の間だとこっちを見つけたトルーパーの内、対空を抜けてきたのを俺は仕留めていく。そうしている内にランドイクスが底部のスラスターでブレーキ。勢いを和らげた上で着地する。
和らげてなお土くれを巻き上げるこの衝撃を堪えながら、俺は半身を失いながらも突撃してくる機械兵を撃ち落とす。
「突撃ィイーッ!!」
同時にクリスは砲撃を放ちながらランドイクスの脚を全力で回す。
そうしてエキドナの真下を抜けるや増設したエナジーミサイルを一斉射。ロックしたポイントを爆撃する。
「よし! 合体するぞッ!!」
「ああ!」
そうしてクリスが正面方向と周辺をなぎ払った事で間ができると、俺は促されるまま俺は車に変形、ランドイクスの中に飛び込む。
融合した俺を迎え入れた事でランドイクスはケンタウロス型のイクスブリード・ランドへ。クリスのギャロップに倣って動く俺の四脚は、無限軌道を圧倒する加速で戦場を駆ける。
「敵の集中点は……ここかッ!!」
エキドナ、そして空戦機の観測データを同期させたレーダーマップが頭の中に構築され、それを一瞥したクリスは気合と共に操縦桿を突き出す。
これに合わせて、俺は右槍を突き出して極太のエネルギー砲を発射。これは遠目に見える山を目指して空を焼き焦がしながら一直線に。そして巨大な爆発を巻き起こす。
「……浅いかッ!?」
だがクリスはエネミーマークがごっそりと削れたレーダーを一瞥して、苦々しげに吐き捨てて右へ体を傾ける。
この舵切りでお返しとばかりに放たれたエネルギー砲を避け、こちらからも左のランスカノンの連射で応じる。
幾条ものエネルギー砲が爆ぜた光を受けながら、俺たちの狙っていた山が蠢く。
持ち上がった幾つもの頂。そしてできた中腹の隙間。それらから雲霞の如く吐き出されたモノが、俺たちばかりでなくユーレカ隊の放つ攻撃のことごとくに割り込んでくる。
そう。あの山こそがドラードに生み出されたデモドリフトの拠点。基地はおろか都市そのものを材料にしたトルーパーの巣だ。
削れたレーダーをもう埋めてしまう勢いで吐き出され続けている雑兵、そして守将の注意をこちらに引き付け続けなくちゃならないワケだ。
「これまでにも、ここまでにも散々に叩き潰してやってきたってのに!」
「回収と再利用をしてるにしても、まだここまで大盤振る舞いができる?」
ルーナとファルの疑問ももっともだ。仮にあの山全部が兵隊に作り替えてしまえるとして、ここに攻め上るまでの戦いの消耗がまったく感じられない。いったいどういうカラクリになってると?
「考えたところでジャンク山の嵩が減るものではない! 私たちがやるのは、釘付けにした上で出来る限りに削るのみ!!」
「まあ、そりゃあそうだね!」
「仕掛けを解くのは副長官にやってもらおう」
クリスがハイパワーのランスカノンと共に放った一声に、ルーナとファルも頭を切り替えて役目に向かう。
シーイクスがアンカーで突き刺した雑兵を放り投げ、スカイイクスの高速突撃がトルーパーの塊を引き裂いていく。それをエキドナのホーミングレーザーや陸空のバトルビークルの砲撃が広げていくのに、クリスがダメ押しとばかりにランスカノンを撃ち込む!
密度の削れた雑兵の壁を穿った光条は山の如き敵の巣を抉る。
この光の槍がいい具合に刺さったらしく、着弾点辺りが内部からの爆発に膨らみ弾け飛ぶ。
このダメージに、それまでほぼほぼ兵隊を吐き出すだけだったジャンク山から対空のエネルギー弾が雨あられと吐き出される。そして俺たちイクスブリードを狙った太いエネルギー砲もまた。
「さっきも一発飛んできたこの砲撃! 覚えがあるぞ! 四幹部が一の!!」
サイドステップに着弾点から逃れつつ、ランスカノンで応じるクリス。対するデモドリフトの拠点からもまた太いエネルギー砲が飛んでくる。
俺たちが放った砲撃はもちろん、拠点からの砲撃でも、間に展開しているデモドリフトの雑兵たちは撃ち落とされていく。
「クラッシュゲイトめ! 誤射に構わずに撃ってくるかッ!?」
この部下を部下とも思わぬ重機マンのやり口に、クリスが憤りの声を上げる。
「ハンッ! 自分達から戦力を落としてくれるマヌケで助かるってもんじゃ無いか!」
ルーナがそう言って投げつけた雑兵もまた、クラッシュゲイトの迎撃砲に飲まれて消える。
ルーナが言うこともたしかではある。が、フレンドリーファイアお構い無しの攻撃というのは厄介だ。
雑兵の展開図から大砲の通り道を読めないんだから。これが、俺たちをまっすぐに狙う単純なクラッシュゲイトでなかったら、もっと厄介だったんだろうがね。
というわけでここはルーナを見習って、誘導してクラッシュゲイトに撃墜させてやるつもりで動くべきか。
「痺れを切らしたヤツの方から飛びかかってくるかも知れないけれども……ね!」
クリスが砲撃に合わせて放った、冗談めかした一言までが届いたのか否か、エネルギー砲の発射とほぼ同時に山から射出されたモノが飛んでくる。
「あークソッ! テメエらぁあーッ!! ちょこまかちょこまかと走り回りやがってからにィッ!!」
苛立ち喚きながら噴煙を尾と引いて飛んできたのは案の定、大砲担いだ二足歩行重機、クラッシュゲイトだ。
一直線に飛んでくるそれに、俺たちは誰が合図するでもなく向けられる銃口を向けて引き金を。
集中砲火に飛び込む形になったクラッシュゲイトはその目をチカチカとさせながら「やっべえ!?」と叫んで爆発に包まれる。
「これで幹部の一名討ち取った……と、いう事になってくれたらいいのだが」
そう簡単では無いのだろうな。
その予感は正しく、爆発から一瞬の間を置いて、クラッシュゲイトはまたこちらへ突っ込んできた。
「やはりしぶとい!!」
「当たり前だろがッ!? アレに反応出来ない程マヌケだと思ってんのかッ!?」
すんでに大砲で相殺したのか、クリスの動きをトレースした俺が打ち払ったクラッシュゲイトの機体に重いダメージは見えない。
熱を帯びた装甲から白煙を上げたクラッシュゲイトが地を削って構え直すのにさらにランスカノンを。しかし速射で放ったこれは重機マンの装甲を貫くには及ばない。だが守りを固めたその隙にシーイクスがアンカーを絡ませ放り投げ、クルクルと宙返りする機体をスカイイクスのバルカンが襲う。
「ここで仕留めれば!!」
着地に出来る隙を狙って、クリスが踏み込む。が――
「別動隊より入電! 敵方からの奇襲により被害甚大! 仕掛けてきた敵機はケンタウロス型! イクスブリード・ランドに酷似ッ!?」
「バカなッ!?」
あり得ない報告の割り込みに、その方向をねじ曲げさせられてしまうのであった。




