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37:化かしあい

「ギョフッ……ギョフフッ」


 我ながら気色の悪い笑みが溢れている事は自覚している。が、このドクター・ウェイドをして久しぶりにこのような笑いを呼び起こすモノに直面しているのだ。

 それほどまでに私の心をくすぐるのは、モニターに映し出されたイクスブリードの解析図。エネルギーの循環経路などの記された詳細なモノだ。更にブリードのモノも添えて!


「いやはや良くやってくれた! よーくやってくれたモノだよ! 私が喉から手が出る程に欲していたものを! ギョフフフフフッ!!」


 極まって画面に頬ずりしてしまうのも仕方がないと言うもの。何せユーレカ基地には要請してもガワとイクスビークルのみで解析した頃の既知の部分しか寄越さないのだから。

 この私が新作を作る参考にしてやろうと言うのに、情報を自分たちで独占するとは。まったくけしからん話だ。単独で囲い込んだところで量産向けに仕立てられる訳も無いだろうに。

 だがそれもユーレカに入った者たちの働きで変わった。デモドリフトに奪われた都市奪還の戦力を欲した連中が、私に直近の実験データを含めたイクスブリードのデータを流してくれたのだ。


「ギョフッ……利口なヤツらよ。頼るべきは私だと分かっているではないか。作ってやる……作ってやるぞ!!」


 大戦果を上げてきたスーパーマシン。それをベースとした新型量産機。完成すればどれほどの栄誉が私に注がれる事か! この燦然と輝いた未来図がここしばらくのつまらぬ仕事で鬱屈としていたところに火を灯してくれる。この沸き上がる意欲のまま、もらったデータを試作機に反映してくれようじゃあないか!


「ほう? それでどんな形に仕上げようと言うのだ?」


「そうだな。再現を狙った試作機には分離変形機構を残しているが、完成形には不要だな。絶対的な物理的機体強度をエネルギー循環で補っているとはいえ、複雑さは脆弱性を招く。『イクスブリード』の量産ならば無い方がいい。まあ精々が地上戦空戦、あるいは海戦への変形機構をつけるか……いや待て。分離もブリードをパイロットがある程度の戦闘力のある脱出ポッドに乗っていると見れば有用性も……」


 そこまで喋ったところで、間抜けな事に私はようやく違和感に気づいた。

 今私がいるのは私だけの秘密の研究スペース。外の連中はもちろんデモドリフトどもにも知らせていない私のシークレットスペースだ。だと言うのに、私は聞こえてきてはいけない声に対して得意になって量産型イクスブリードのプランを語ってしまっていた。

 その迂闊さに溢れだす脂汗をそのままに振り返る。すると私が背を向けていた壁にはいつの間にか切れ込みが。そしてその隙間からチカチカと光るバイザーカメラが覗き込んで来ていた。


「そうかそうかなるほど。お前の技術で作り、こちらの凡俗どもでもメンテナンス出来そうなレベルに、という想定の中ではそうなるか。いや流石だ」


「す、すすす……スクリーマー!?」


 私考案の量産型プランを褒めながら、白黒のボディが壁の裂け目をどんどんとこじ開けてくる。

 何故だ。どうやってここの事を知った?

 そもそもがデモドリフトの手先どもは占領地の管理防衛に出ていて、取り戻したオリジナルパーツに夢中になっていたはずでは?

 そんな疑問を頭の中でこね繰り回す私の目の前にはスクリーマーの硬い掌が壁のように。

 空きスペースに強引に作った隠し部屋には逃げ場などなく、そのまま私の体は壁と壁に挟み込まれるように追い詰められて鉄巨人の手中に。


「その量産型イクスブリードとやらを現住知性体どもに流して、我らとの闘争を長引かせる。そういう腹積もりか?」


 穏やかな口調ではある。が、同時に私の首から下をみしり……と締め上げた圧力は最初から拷問が始まっているのだと言外に語りかけてきている。だが、この程度で音を上げるようならば、最初から謀など……!


「ギョ、グフ……それは邪推が過ぎると言うもの……そもそもが、私は門武守機甲にも協力する、超技術解析の、権威……怪しまれずにいるには、必要な仕事だ……ギョフ……」


「なるほど? まだ我々との繋がりを暴かれる訳にはいかない。だから仕方がない、と?」


「ギョフ……いかにも」


「だが今でも……まだ、我々がお前の協力を必要としていると思っているのか? もはや我々には我々の拠点があると言うのに?」


「ギョグブッ!?」


 冷たい目の輝きと同時に体が一層に軋む。これで搾り出されそうな腹の中身をどうにか呑み込み、堪える。

 スクリーマーが言う通り、たしかにデモドリフト側に拠点が出来た以上、私の利用価値は絶対では無くなっているのだろう。だが……。


「……私の使い道が、本当に……無くなっていると? デモドリフト様が、そう言っていると?」


「なに?」


 門武守機甲で管理しているオリジナルパーツ・マシンの探索。デモドリフトの求めるこれらの情報の糸口。さらには私の研究所というヤツらの本拠との確実な接続点。

 疑わしい動きがあろうと、これらの利点はまだ手放すには惜しいだろう。ここは強気に押すだけだ。


「まだまだ貢献できる私を、早々に……無許可で切り捨てて、それでデモドリフト様の不興を買わずにいられると思っているのならばやるがいい。現地の動きを探るのも難しくなるだろうがな……!」


「……思い上がりを!」


 ほんの少し力を込めれば潰れてしまう。そんな私の言葉に、スクリーマーは苛立ちでその目をヂカヂカと。だが怒りのにじみ出た目と声とは裏腹に、私を締め上げる金属の指は徐々にほどかれていく。


「……まあ良いだろう。お前が何を企んでいようが、いつでも潰してしまえるのだからな。せいぜい怯えながらコソコソ動いていればいい」


「あ、ありがたい……懸命な判断を感謝する」


 勝った! ドクター・ウェイドの大勝利!

 そんな内心をおくびにも出さず、私は痛めつけられた体を庇いながら神妙に感謝を告げてやる。まともに立っておれんし、とても滑らかに笑えない程に痛むのは事実であるからな。

 そんな私を見下ろして、スクリーマーは不快げに目をチカチカと光らせる。


「フゥー……さて、問題の量産型イクスブリードだが、今は試作機が一機制作中だったな?」


「ギョフ……は、把握しておったか」


 ひと息間を置いて冷静さを取り戻したスクリーマーの言葉。確信を帯びた声音に私は誤魔化すこと無く肯定する。


「ではそれを使える状態に仕立て上げろ。ただし仕様は今のまま、合体変形の機構を残したコピーでだ」


「いや、それは……」


「出来ないというのか? 単純なコピーを完成形まで持っていく事が。テストのつもりで試作機を稼働状態まで持っていく程度の事が?」


 続いた命令を受け入れかねた私に、スクリーマーは挑発するような言葉を重ねてくる。

 ここまで把握されてしまっている以上、再現試作機での試験はもはやこれまでか。しかしそれはそうとして、いったい何に使うつもりだと言うのだ。


「承知した。注文には応えよう。だがどう扱うつもりかは聞かせてもらいたいな。使い道によっては仕立てようも違ってくるのでな」


 必要な装備やら所属の隠蔽やらがな。

 そんな私の要請にスクリーマーは至極当然の事だとばかりにうなずいてみせる。


「なに、そんなややこしい事はしない。実戦テストをやってやろうと思っただけさ。私が乗り込んでやってな」


「なんと!?」


「そういうつもりであるから、キチンと戦えるように仕上げてもらうぞ? つまらん不具合で蹴躓くような出来だったら……分かっているな?」


 こう圧力をかけてくるスクリーマーに、私はただうなずき返すことしか出来なかった。

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