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35:思惑ってのはそれぞれにあるよな

 現状は最悪……とまではいかないまでもかなり悪い。少なくとも最悪に向かっていっているように見える。

 何がそんなに悪いかって言ったらそれは――


「大勢で押し寄せたって、ユーレカには入れさせるかってんだ!」


 至近で弾けたエネルギー弾に追われる形で転がり出た俺の前。そこにズラリと並んだ機械兵士の群れだ。

 ブレードバレル付きブリードガンで弾が続く限りに仕留めようが、まるで減る気配が無い。

 だがこの無尽蔵に思える攻め手だって最悪に向かう要素のひとつでしかない。

 ドラード、そしてホウライ、ロンテアの三都市同時陥落。そこから脱出できた生存者は俺たちのユーレカはもちろん、各地で少ないながらも保護できた。

 それはいい。

 問題は陥落させられた三都市がデモドリフトの機械兵を近隣の都市に向けて吐き出し始めた事だ。

 三都市は陥落から即座に、跡地に機械巨人兵の生産装置を置かれ、デモドリフト機械兵、破損した門武守機甲のビークル、さらには倒壊した建物。それらの残骸を貪るようにして新たな兵隊の生産を開始。資源を再活用したこの行動のおかげと言っては何だが、残骸まみれにされていた跡地はきれいな更地にされていた。

 これだけだったなら「一からの再建をやりやすくしてくれてありがとう」と皮肉を添えた感謝状くらい送りつけてやっても良かったというのがライエ副長官のコメントだ。が、当然これだけなワケが無い。そうやってされてきたのが、俺たち向けの尖兵として銃を向けてきてるんだからな。

 こんな事になるのなら追い払ったドラード跡地は死守すべきだったのかも知れない。が、保護した生存者を抱えて、二方向からの攻め手が寄せていたエキドナにはユーレカの撤収しか道がなかった。


「次から次へと……来るだけなら撃てば良いだけって言ったってな……!」


 いかんせん数が多い。多すぎる。食い止めるので手一杯にさせられてしまうくらいに波状攻撃を仕掛けて来るんだ。三都市のどれかの奪還作戦どころか、各々後方の都市との連携でどうにかこうにか保たせてるって感じだ。そりゃあブリード率いるレジスタンスも磨り潰されるってもんだよ。


「リードくん! 交替だ!」


「わかった! せいぜい大きく削って楽にしといてやろう!」


 大砲で押し寄せるのを吹き飛ばしながら、迎えに来てくれたクリスのランドイクス。俺は地面を削りながら滑り込んできたそれに飛び乗ると、そのまま巨大戦車の中へ潜り込んでケンタウロス形態へ合体変形。ランスカノンをなぎ払うようにぶっ放すと、交替のバトルビークルにこの場を任せて走り去る。

 こうやって代わる代わるに押し寄せるのを迎撃して、ユーレカへの侵略を防いでるワケだ。だがこれだけならジリ貧なだけでまだマシだって言える。踏ん張ってる間に反撃の準備を整えてくれたら良いだけなんだからな。

 問題になるのは――


「ええい! いつまでこんな……防戦ばかりをしているつもりなのだ!」


 これだ。防衛ラインを時間一杯に守りきって帰還した俺たちの前でこんな風に騒いでる人たちだ。


「いつまでと言われれば、もちろん反撃の準備が整い次第に、としか」


「それが手ぬるいと言っているのだ! 機を窺っているにしても、こちらからも防衛線を押し上げても良いだろうに!」


 冷静に応対するライエ副長官になおも詰め寄るのは毛深い猿人の男性だ。

 門武守機甲の制服を来た彼は、脱出してきたのを俺たちが保護したホウライの人。いわゆる落ち延び組って人たちの代表だ。


「焦るのは分かるがね」


 分離してコットンらサポートスタッフに愛機を預けたクリスがこぼすのにブリードに寄りかかった俺もうなずく。

 自分たちが守ってた拠点が占領されて、しかもそれが敵を吐き出し続けて周辺地域の脅威になってるんだ。そりゃあ早よ取り戻さにゃってなるさ。実際にせっつかれてるだろうしさ。おまけに一兵卒じゃなくて、副長官みたいな上の人で。俺がその立場ならプレッシャーで胃袋ぶっ壊してるって。

 でもだからって無茶を言われてもやられても遠回りになるだけなんだよな。連携しなきゃってのに足並みが狂ってちゃグダグダになるだけなんだよな。俺らが合体するだけでもタイミングを合わせて合流しなきゃ囲まれて叩かれる事になりかねないんだから。


「そちらが動かせんと言うなら我々だけで構わん! こちらに回す予定のビークルを前倒しにしてくれたならこちらの精鋭が奇襲をかけて奪い返してくれる!」


「無茶な……それではこちらが都市防衛に戦力の不足した状態で臨まなくてはならなくなります」


「そこは我らの精鋭が電撃的に奪還すれば良い! なんならば回すビークルをそちらの保有するオリジナルマシンらにしてもらえれば勝率も増す!」


「うわぁ……めっちゃくちゃ言いやがんな」


「勝率よりも喪失の可能性の方が高いように思えるんだが?」


 イクスビークルらを無心するその言い分に、いつの間にか来ていたルーナとファルもドン引きの顔だ。

 それが聞こえているのかいないのか、猿人のお偉いさんは俺たちをチラリと見やる。


「いや、オリジナルマシンの性能の高さは勿論、それらを預かるユーレカの精鋭の力が高いこともその勝率から知っている。勿論だとも。だが……」


 そこでお偉いさんはもう一度俺を見やって軽く鼻を鳴らして見せる。


「あの新参のブランク……彼は良くないな。彼が使っているマシンならば我が方の精鋭の方がよほど上手く使いこなせるだろう」


 あからさまなまでの挑発に続いたそのひと言。これにクリスが強く地面を踏み鳴らす。


「言わせておけば!!」


「面白い事言うおっさんじゃないか」


「そうか? あんまりに下品で笑えないぞ?」


 怒りを露にするクリスたちを、俺は前に出てなだめる。

 腹が立たないのか。そんな風に三人の目が尋ねて来るけど、俺が素人上がりの新参者で、空白ブランクなんて呼ばれる種族なのは事実だしな。まあ不快なことは不快でもあるけれども。


「リードは良くやっています。戦いに無縁な生活から、あのオリジナルマシンへの適正があるからといきなりにこちらに抱えられた身の上でありながら……」


「それは聞いているとも。事情には同情し、努力は認める。だがだとしても、重要なのは現在の実力ではありませんかな?」


 ああ、正しい。まったく正しいよ。俺のフォローに入ってくれたライエ副長官に向けたその言葉は正論だ。

 より使いこなせる人がブリードを動かした方が犠牲は減るに決まってるんだから。俺にこだわる必要はどこにもない。


「動かせるかどうか、試してみてもらっても良いんじゃ無いですか」


 だから俺は猿人のお偉いさんの言葉を後押しして見せた。

 これに仲間たちは呆れたように顔を歪めて、俺の能力を疑問視した当人であるお偉いさんも面食らった顔を隠し損ねた。


「……それはそれは、まさかキミ自身からそんな提案が出るとはね……自分以外には動かせるはずはないとタカをくくっているのかね?」


「まさかまさか。そもそもが俺の完全専用機状態なのが良いわけが無いと思ってるんですよ。他のイクスビークルみたいに代理の乗り手になるのもいないってのは危なすぎるでしょう」


 事実だ。実際問題として俺がバテただけでブリードが、つまりはイクスブリードが使えなくなる。俺ひとりのコンディションに戦力が左右され過ぎてる現状は不安定がすぎる。

 独占パイロットとしての立場に、能天気にあぐらかいてもいられないんだ。

 こんな感じに俺なりの考えを伝えたなら、聞いていた人たちは揃ってうめき声をもらす。

 そこへ手を打ち鳴らす音が。空気を叩き割るようなその音に皆が揃って振り向けば、そこには巨体の獅子人、レグルス長官の姿が。


「リードの言うように広い候補の中からブリードを動かせるのを探すのは良いことだ。それはそれとして、今ここでユーレカを落とされないようにせんといかんよな」


 怒鳴るでもなく、しかし良く響く大音声。これを受けて、ルーナやファルたちは次の出撃へ。それ以外の各々も今この時にやるべき事へと向かっていくのだった。

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