33:どこまで奪っていくつもりなのか
「貴様ッ! 我々の命も、機体までも奪っていくなど……どこまでッ!?」
周囲を取り囲む雑兵からの砲撃。俺たちはそれをジグザグな走りで振り切りながらクラッシュゲイトへランスカノンを放つ。
対するクラッシュゲイトは雨あられと降るエネルギー弾をその装甲で弾きながら俺たちからの砲撃に応射してくる。
「ああ!? 原生生物ごときの命程度がなんだってんだ! 弱いから死ぬ、奪われる。その程度の道理だろうが!」
「おのれッ!!」
折り畳みキャノンの砲撃からすかさずの体当たりをクリスの操る結晶質の馬上槍が迎え撃つ。ぶちかまされる重みに俺の全身が軋む、だがクリスはその重みをはねのけるように四つの足を踏ん張り、腕を突き出して人型重機を押し返す。
これにクラッシュゲイトは「良いパワーじゃねえの」と余裕を崩すこと無く後退を。ここで俺たちも追撃を、と構えるが、これは周りの雑兵からの援護射撃に断念させられてしまう。
「しっかし機体までもと言ったか? まさかお前ら、こっちに残ってるの全部がレジスタンスどもの、お前らの合体バリエーションになると思ってたのか?」
「なんだとッ!?」
「実際は、接続を断たれて動かなくなったオレたち側のが多いんだよ! ブリードが合体に使ってたのは、お前らの三機がせいぜいってところだ!」
嘲るような声と共に迫った砲撃に、俺たちもまた応射をぶつけながら離脱。雑兵からの砲撃の中を突っ切る事にもなるが、それはバリアで強行する。
しかしまさか、門武守機甲が使うオリジナルマシンの中にデモドリフト側のが。
いや、ブリードの知識を冷静に見返してみればクラッシュゲイトの言い分が道理だっていうのが分かる。
ブリードはあくまでも侵略を行う大勢力の中に生じた反抗勢力に過ぎない。戦力比としても30分の1以下でしかない。それがこの世界への侵攻作戦中に捨て身の攻撃を行った結果が現在だ。侵攻軍に絞ったとしてもデモドリフト側のが多く出土して当たり前なのが理屈だろう。
「分かるか、イクスブリードに乗った原生生物!? お前らはオレたちの落とし物を盗んでオレたちにぶつけようとしてたって事なんだよ!?」
「我々の世界へ土足で踏み入り、乗っ取ろうとする連中がよくも言うッ!?」
だがだとしても続いたクラッシュゲイトの言い分は盗人猛々しいというもの。クリスはそれをかき消そうと怒鳴り声と共にランスカノンを一番大きな敵反応のところへ。
この怒りを乗せたエネルギー砲は、将の前に出て弾丸と機体の壁を作ろうとしていた雑兵たちを飲み込んで爆炎に変える。
それと同時に俺たちの周囲に光が降り注いだ。
視界を焼き尽くす暴力的な光の雨。だがそれが焼き貫くのは俺たちじゃあない。敵だけを、デモドリフトの手下だけを選んで撃ち抜いているのだ。
「来てくれたか!?」
「お待たせ! クリス、リード!」
「強行偵察かーらーの、で派手にやってるじゃないか!」
上空を横切るスカイイクスとゆったりと進むシーイクス。それらを従えた飛行空母エキドナの船体を見上げて、クリスが喝采を上げる。
母艦からのホーミングレーザー機銃に、直掩役だろうシーの落とす爆弾。スカイからのバルカンとミサイルが俺たちを取り囲むデモドリフトのマシンを焼き払っていく。
この味方の合流で一息入れた俺たちも、掃討に遅れまいと機体に巡るエネルギーを加速させる。
「おおっと? 母艦と味方の到着か。こりゃあ大物だ」
「クラッシュゲイト!? 逃がすものか!」
その力のぶつけどころにおあつらえ向きな敵将の声が遠退くのに、クリスはエナジーミサイルをばら撒きながら踏み込む。
力強い馬蹄の音を響かせて爆発を振り切った俺たちはそのまま壁を背にしたクラッシュゲイトに向けてランスチャージをしかけ――
「逃げる? どこに逃げる必要があるってーの?」
鋭利な結晶質の槍を前に、ゆったりと目を点滅させて見せる人型の重機。ヒトならばにやけ笑いを浮かべているのだろうその顔面が不意に消えて無くなる。
狙いを違えて金属の壁に槍をぶちこんだ俺たちは、深々と突き刺さったそれに釣られるようにして持ち上げられてしまう。
「なあッ!? 何がッ!?」
「もらったぜぇ!?」
何が起こったのかと確認する間もなく降ってきた声に、クリスはとっさにランスカノンのトリガーを。その爆発でぶちこんだ槍を引き抜いた直後、極太のエネルギー砲が前を通り過ぎる。
掠めただけ。にも拘らず装甲を炙る威力を受けながら俺たちは上を。そこにはせり上がりゆく鉄の壁の上から俺たちを見下ろして大砲を向けたクラッシュゲイトが。
ダメ押しのもう一発とばかりに砲口に光を灯したヤツに、クリスはお返しのランスカノンを。俺は地面との接触を四つ足のアブソーバを全開に。そしてすぐさまにダッシュ。クリスのギャロップのままに足を回してクラッシュゲイトの落としたエネルギー砲の先から逃れる。
当然外したままでは終わらず、かわした俺たちを追いたてるように光の柱が地面を焼き焦がしながら迫ってくる。
「チッ! アレで反応して避けるかよ! それでちょこまかと逃げやがる!」
舌打ちしながら俺たちを砲撃で追い立てているのはもちろんクラッシュゲイトだ。それはいい。問題はその足場。ヤツが踏みつけている巨大な機械だ。
つい先程俺たちが空けたのを別にしても焦げと風穴だらけの外装。元は滑らかな曲線や、ブリードの俺が走り回れるほどの広い平面で構成されていたのだろうボディはベコベコに歪んでしまっている。だが歪められていてもその大まかなシルエットには覚えがある。正確にはよく似た物を俺たちは知っている。
「オルトロス級飛行空母ッ!? その残骸か!?」
「よく分かったな、おい? 原生生物の作った模造品にしちゃあよく出来てるが、こんなもんレジスタンスのがいくつ堕ちたか、今さら数えきれや……うわらば!?」
轟沈したエキドナのコピー艦艇。その上でふんぞり返るクラッシュゲイトの嘲りに、無数の光とそれによる爆発が被さる。
その出どころは当然俺たち。母艦と空戦海戦のイクスビークルを含めての一斉放火だ。
それも一撃だけでは終わらない。爆炎が散る前に更なる炎を咲かせ、声を上げる隙間さえ与えない。
が、その一方で轟沈したオルトロスの残骸がその機銃座を動かし始める。これに警告を出すや、生きていた機銃座からレーザーが放たれる。
エキドナのと違い、ホーミング性を備えていないそれは、銃身が焼けつくような勢いで光を放ち続ける。
これをクリスは槍で払い、ランスカノンを返しながら駆け足で振り切りに。
「クッソ! 好き放題やってくれやがって!!」
やがて反撃の対処で緩んだ砲撃の中からバリアに包まれたクラッシュゲイトが姿を現す。アレは操ったオルトロス級の残りエネルギーを利用しているのか。
「好き放題やっているのはどっちだッ!?」
どこまでも利用し尽くそうというその扱いにクリスはランスカノンを突き出す。一呼吸のチャージを挟んだそれはしかし、ショートチャージだけとは思えぬほどのエネルギーを吐き出してエネルギー膜に包まれたクラッシュゲイトへ。
これに人型重機もまた担いだキャノン砲を発射。真っ向からぶつかった二つのエネルギー砲がスパークを起こす。だがその拮抗もつかの間。クリスの怒りを乗せた砲撃はクラッシュゲイトの攻撃を押し返し始める。
「クッソがあああッ?!」
そしてクラッシュゲイトが苛立ち任せに喚く中、俺たちのランスカノンが敵を飲み込む。同時にヤツの操っていたオルトロス級の残骸も爆散。嵐のような衝撃波を辺りに撒き散らした。それを四つ足を踏ん張って耐え抜いた後には、大きくえぐれた爆心地跡だけが残されているのであった。




