32:暴虐の電撃戦
今俺は中にいるクリスと同じに馬蹄を響かせて地を走っている。
イクスブリード・ランドで先行して戦場を偵察。必要ならそのまま先遣戦力としてデモドリフトの戦力を叩くこと。それが俺たちに任された任務だ。
速度という面で、ファルからスカイの方が適任ではという意見も上がった。が、ランドは火力、速力、耐久性が三形態で最も高水準にまとまっている。戦場が陸地という条件下なら単独での強行偵察にはまさにうってつけだ。
「煙がどんどん……急がなくては!」
前をひたむきに見据えて走るクリスがつぶやくとおり、戦地から上がっているのだろう黒煙は刻一刻とその色を濃くしている。
ドラードの苦戦、いやそれ以上の苦境の気配を届ける狼煙に、彼女の足がそのピッチを上げる。
回転は速いが、いつものストライドの縮んだ焦りが先行した馬蹄の響き。これに俺はランスカノンの使用を提案する。
敵影は未だ見えず、戦況も不確かだ。が、当てる必要はどこにもない。別方向からの襲撃を知らせてやれば、敵もこちらに意識を割くだろう。
「なるほど、リードくんいい案だ!」
この俺の提案にクリスも光明を見いだしたかのように瞳のぶれが消える。
まっすぐに戦地を見据えたクリスは、その足を伸びの良さとピッチの速さを両立させたギャロップに。
「敵に当ててやれば味方の士気も上がるはず!」
足は最高速。しかし狙いは最大望遠で標的を探す彼女に対して、俺は足回りに注意を。こけてしまったり、蹴散らすべきでないのを蹴散らしてしまったり。そんな事が無いようにするためにだ。
クリスがこんな普段はやらないような操縦をするのも、急いでいるのもあるが、俺が意識の向いてない方を担当すると当てにしての事なんだろう。マシンとはいえ、ケンタウロスのもう一つの心臓といって過言でない足回りを預けられたのはなんとも重たくのし掛かるものがある。が、任されたからには精一杯にやらなきゃだよな。
「定めたなら、我が槍で撃ち抜くのみ!」
その内にクリスはターゲットを正面に。ロックオン可能になる距離の外から、両腕の操縦桿を突き出す。
俺の両腕が放った極太の光。これはターゲットである機械兵の集団を吹き飛ばして突き進み、大型の機体にぶち当たる。
ロックオン無しにも関わらず、狙い違わずに敵を打ち倒すこの一撃。クリスの腕前に舌を巻いていると、余波で倒れた雑兵達が一斉に俺たちを見る。そして一瞬の間、これでこっちが敵だと確信したのか、一糸乱れぬ動きで弾幕を作る。
「そうだ! 私たちの方に来い!!」
こちらもまた狙いどおりに注意を引けた事に、クリスは瞳に闘志を燃やして真っ向から弾幕へ。
正面へ拡散式に放ったランスカノン。そして正面のバリアを頼りに迎撃弾の壁を強行突破。そのまま二枚三枚と蹴散らして、デモドリフトの集団へ突っ込む!
クリス自身と俺を鼓舞するように声を張り上げながら、どんどんと敵雑兵を撥ね飛ばしていく。敵陣の半ばで止まり囲まれる愚を犯さぬよう蹴散らしたのの機能停止を確認せぬまま、ただ真一文字に断ち切るべくまっすぐに。
それでもフレンドリーファイアに構わぬエネルギー弾の追撃が放たれるが、クリスとシンクロした俺の四つ足はそれを振り切る。
「そんな!」
そして敵陣をぶち抜いた先にあった光景に、クリスは絶句する。そこにあったのは一面の機械の残骸。味方のバトルビークルと敵の雑兵。その破壊された残骸が折り重なって作られた惨たらしい有り様だ。
その無惨な光景はさらに遠く、都市部にまで届いている。黒煙の下にある街並みの中には半ばで折れたビルや、破れたドーム。崩れた工場などが望遠をするまでもなく見える。
「そんな……ドラードが全滅? どうして?」
戦闘部隊はおろか、都市部まで蹂躙されたドラードシティの変わり果てた姿に、さしものクリスも動きが鈍る。
それを俺が補って、馬蹄の勢いを緩めること無くエネルギー弾の追撃から逃れ続ける。
俺だって凄惨な戦闘痕には胸が冷える思いを感じてないでもない。だがイクスブリードへの合体のお陰か、俺の内側でより強いショックを受ける彼女の姿を見ているお陰か。冷静に補助に入る事ができた。
「すまないリードくん! そうだな、今はこの惨状を味方に伝える事が第一か!」
「それと、生き残りが本当にいないのかを探すこともだよな」
「ああ! その通りだ!!」
我に帰ったクリスはいつもの勇ましさを再びその目に燃やして操縦桿を振るう。
この動きに乗って放たれたランスカノンからの砲撃は、こちらを追いかけるエネルギー弾ごとに敵集団を焼き払う。
「味方のいないだろう位置にならッ!!」
張り上げた声に合わせてのトリガー。これに従って俺の機体に備え付けられたポッドが展開。そこに収まっていた光の玉が飛び出していく。飛び出た光弾は放物線を描いて雑兵の群れに突っ込み爆発の山脈を作る。
これがブレードバレルに続いてレジスタンスベースから回収された追加武装、エナジーミサイルポッドだ。威力はもちろん、合体による変形でもまったく干渉を起こさない辺りはさすがの純正品というところか。
「うん! この威力!!」
敵の軍団を吹き飛ばす新武装の性能にクリスは喝采を上げながら、俺の視界の様子をエキドナへ送信し始める。エナジーミサイルの爆発を望遠で見ているかも知れないが、強行偵察役としては現場の目をやらなきゃな。
これで上役に偵察の結果を伝えた以上、後合流までにやるべき事は限られている。
いざとクリスと共に手足に力を込めたところで、右手から急速に突っ込んでくるのが!
「何がッ!?」
この横やりに対するアラームに、クリスは聞き取るとほぼ同時に槍をそちらへ。
「ほーう? やるじゃあねえかよ」
「クラッシュゲイト!? その姿は!?」
槍にぶつかった大ぶりな鉄拳。それから繋がる重機めいたゴツい機体と声は間違いなくクラッシュゲイトだ。
だがその体からは見覚えの無い部品が、具体的には折り畳み式の大砲の先端に掘削バケットを取り付けたかのような武装が追加されている。
「ああ? ああこいつか。オレたちの探し物の一つだよ。原生生物どもの巣を滅ぼしに来たら向かって来たんでな。ついでに取り返しといたんだよ」
「バカな!? それはドラードに配備されたオリジナルマシンの!? プリムは!? プリムローズはどうした!?」
飛び退きながら答えるクラッシュゲイトを中心に走りながら、クリスは敵の一部として取り込まれたマシンの乗り手について問い詰める。が、クラッシュゲイトは味方でも背筋の震えるような声を受けても悠々とカメラアイを明滅させて見せる。
「ああん? ああ、乗っかってた生き物か? さーてな。取り返した時にでもぺしゃんこになったんじゃねえの?」
「貴様ッ!?」
羽虫の行方でも答えるかのような口ぶりに、クリスは激する心のままにランスカノンをフルパワーで放つ。
爆発的な光に飲み込まれる重機めいた鋼の巨体。だがその直後、その光を押し返すように俺たちを狙った太いエネルギーが壁になって迫ってくる。
これに俺とクリスは強い踏み込みとランスカノンの反動で押し返しから逃れる。
「おーおーやるやる。ここの連中が手応え無さすぎて拍子抜けしてたところだったからな。せいぜい楽しませてくれよ? なにせせっかく取り戻した武器も、ちょいと試し撃ちして遊んだだけで終わっちまったもんだからよー」
折り畳み式のキャノンを構えて余裕たっぷりにこっちを見るクラッシュゲイト。その親指が指す先には二つに割れて炎上する飛行空母の姿が。
そうやって散った仲間を愚弄する言葉への怒りに、クリスはギリリと歯噛みして両手の槍を構え直すのだ。




