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31:ただいま急行中

「幹部が四、アタシらの前に出てきてるのが一ってなってるならそりゃあこう言う手も使うよな! 完全に陽動に引っ掛かってたわ!」


「ルーナ、喋るなら飲み込んでからだ」


 ルーナが海鮮丼を掻き込みながら苛立ちを吐き出すのに、隣のファルがかじりついていたホットドッグを口から離して諌める。

 そう言う彼女も、両の翼に齧りかけを引っ掻けているのだが。おまけにそれが翼から飛び出た出た爪だけでは不安定なせいで取り落として、ルーナと向かいのクリスに空中でキャッチされてもいる。


「やれやれ。急行中の短い休息とはいえ、もう少し落ち着いた方がいいな」


 ファルのお礼を受けながらそう言うクリスは、言うだけあってスマートに食事を口に運んでいる。と言っても、彼女の前に並んでいるのは山盛りのコロッケとそれに劣らぬ山を作るキャベツの千切りに、ニンジン五本分はありそうな大盛ソテー。さらにはどんぶりの豚汁に、ライスとパンがどちらもどっさり。そんな見ているだけで腹が膨れそうになる量の食事だ。これでも出撃の合間を縫ってのものだから控えめにしてる。ゆっくり食べれる時にはこの倍は盛ってるのがクリスだ。

 思い出すと胸やけしそうだが、それでは俺の使ったエネルギーが補給されないので、頭から追いやっておじやをいただいていく。


「連戦同然なんだからもっと食べませんかー?」


「ああ、うん。お気づかいどうもアリアさん。でも俺の胃腸だとこれくらいかなって」


 そんな俺たちの食卓にしゅるりと寄ってきた女性に俺は自分の消化力を冷静に見立てて返す。

 クリスらのおかわりを運んできた彼女はアリア・カガチ。下半身が長い尾で出来たラミア族で、ユーレカ基地とエキドナの食堂メンバーの一人だ。


「うん? リードならブリードと一体化してるし、三タイプのイクスブリードとの合体中もマシンそのものになってる感じらしいから、振り回されるってセーブしなくてもいいんじゃないか?」


「そうね! そうよね! どう? おかわりどう?」


「あー……じゃあ漬物挟んでもう一杯、いただきます」


 こんな食べさせたがりな人だから、もっと行っても平気じゃね、なんて言われたらこうなるに決まってるじゃないか。ギラギラと熱がこもった目で迫られたら断ることもできず、もう少しだけもらうことにした。


「体が資本なんだから、しっかり食うのもアタシらの仕事の内だが、溢れて吸収し損なったんじゃあ本末転倒ってヤツだぞ?」


「うん。何でもいきなりは体を壊すだけだからね」


 そんなルーナとクリスの言葉に礼を言って、俺はアリアさんがさっそくと出してくれたおじやのおかわりと漬物をいただく。救援のために急行してる移動時間は休息に割り当てられているが、到着即戦闘になるのは見えてるからな。ちびちびと食べてもいられない。

 なにせ俺たちは襲撃を受けている最中のところへ援軍に向かってるワケだから。


「しかし襲撃の報せから即通信が絶えてしまったから、どうなってるのか分からないのは不安だな」


 とりあえず一番近くのドラードシティを目指しているのだが、まだ何の続報もない。持ちこたえているのか、危ういとこまで攻めこまれてしまっているのか。まったく報せが来ないんだよな。

 そんな俺の呟きに、クリスはうんうんとうなずいて無理もないと。


「この状況ではね。だが各都市にもバトルビークルとそれぞれ近隣のデモドリフトマシンに対処してきたスタッフがいる。そうそうに遅れはとらないよ」


「このエキドナを参考にして作ったオルトロス級飛行空母だってあるんだしな」


「それに、オリジナルマシンも私たちのだけじゃないんだ」


 そして三人娘で「持ちこたえてくれているさ」と揃って。

 確かにその通り。俺たちの所属するユーレカ基地にこそ母艦とランド、シー、スカイの三機のビークルとブリードが揃っていて、不公平なくらいに戦力が整っているように見えるかも知れない。が、そんなことはない。

 各都市にもそれぞれにブラックボックスを抱えた超文明のオリジナルマシンが置いてある。戦力が明らかに劣ると言うことはない。

 これも各都市の間にある確執……発掘品を使った交戦の歴史が絡んだ対抗意識、縄張り意識に由来している。同じ門武守機甲として協力してはいるものの、根深い敵対心もまたあるってヤツだ。

 だから大規模な基地のある都市の間には、急行するエキドナをして食事休憩を挟む余裕のある間隔が開けられてるワケで。


「案外リードくん、向こうのビークルとも合体出来てしまうかも知れないぞ?」


「たしかに。わたしたちの三機だけとしか合体出来ないと言うのは決めつけになる」


「そしたらオリジナルマシンごとユーレカに引き抜きか? うーわ、恨まれそうだな」


「基地の間の協力に影を作るのはごめんだぞ? 俺とブリードだけなら出張して回るとかそう言う手もあるわけだし」


「それで帰って来れない、とかは無しにして欲しいな」


「あり得るな。何だかんだとブリードが必要なんだって理由付けしてリードごとに引き留めたりよ」


 なんだか俺の冗談からクリスとルーナが張り積めた顔を付き合わせ始めた。そのままブリードの事実上の引き抜きを心配し始める二人に対して、ファルはコテリと首を傾げる。


「考えすぎでは? いくら基地違いでも同じ門武守機甲の間で横暴が過ぎる」


「いやいやいや。そりゃあのんきが過ぎるぜファルよ」


「ああ。私も味方を疑いたくは無いし、具体的な所は思いつきもしない。が、それでも私のような武辺者には思いもよらない手を使ってくるのが司令官と言うものだぞ」


 ファルの取り越し苦労だろうとの緩い構えに、二人は迷うこと無く首を横に振って見せる。

 そうだよなあ。今の戦力バランスだって、基地同士ばっかりじゃなくて必要な物資の取引先とか、色んな所との交渉で成り立ってるんだろうしな。考えるだけで胃が痛くなってくるってもんだ。それをやれてる人たち同士での取り合いとか、武力なり金なりがどれだけ動くのか、想像もつきゃしないって。


「でもレグルス長官見てるとなんとかなりそうな気はするんだけれど?」


 このファルのひと言にクリスとルーナは呻くように「あぁ~……」と。

 二人とも多分俺と同じで、ライエ副長官に「座ってるだけでいいの? じゃあよろしくー」なんて言ってる図を思い浮かべてるんだろうな。

 まあ怖い搦め手を使ってくるお偉方って事であの人を挙げられたら渋い顔したくなる気持ちは分かる。すごく、すごい良く分かる。

 艦長役だってライエ副長官に任せっきりだし、この前だって奥さんだって人に、あのムキムキの体を折り曲げられて折檻されてたの見ちゃったし。


「イヤしかし、今回ライエ副長官を救援に後押ししたのは長官が手を回してくれたからだしさ」


「まあ、そうだな……」


「辣腕を振るうライエ副長官の後ろや横にあの巨体がある。それだけで圧力がかかるのは間違いないからな」


 俺のフォローを受けて、クリスとファルはうなずいてくれる。と言っても、手放しの納得って感じじゃなくて、無理矢理自分に言い聞かせようとしてるって感じだけども。


「総員配置に! 交戦圏内まであと三十分!」


 そこへ響いた指令にそれまでの憩いの空気が風に飛ばされたように切り替わる。


「さあて、攻め寄せてるののケツに噛みついてやろうじゃないか」


「ああ! またいつものように蹴飛ばしてやろう!」


「空から驚かせるっていうのも悪くないか」


 冗談めかした口ぶりだけれども、出撃に向かう三人娘の声からは完全に緩みが無くなっていた。

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