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30:あといくつ難事を片付けたらいい?

「セイィヤァアアアアアッ!!」


 ファルの裂帛の気合いと共に、俺たちの爪がレイダークロウの埋まった巨体を引き裂く。


「やだもう! 破かないでよ!」


 だが裂かれたはずのメカオネエはまるで痛みを受けた風でもなく、余裕綽々の猫なで声を上げるだけ。

 そして超巨大なステルス爆撃機じみた鋼の巨体から生やした足を俺たちへ振り上げてくる。

 これにファルは羽ばたき一つ。これに従った俺の体が跳ねるようにして持ち上がる鉄の塊をかわす。もちろんただ避けるだけでなく、修復した敵のボディへ置き土産のヘッドバルカンを浴びせているのだが、その結果は先ほどの蹴りと変わらない。ものともせずの反撃が返ってくるばかりだ。

 巨体から繰り出される大質量の打撃、そして機体を構成する無数の雑兵達の武装。俺たちはこれらの合間を縫うようにしてレイダークロウとその後付けの巨体のすぐそばを飛び回る。

 

「まったく、うっとおしいったらないわねえ」


 そう。付かず離れずの位置で仕掛け続けていれば、レイダークロウもこっちを無視できない。そんなファルのプランで俺たちはこの位置をキープ。決め手にならないでも攻撃をし続けている。

 そんな俺たちでも離脱せざるをえなくなる機体全体を振り回しての反撃がある。が、そうなれば距離を取った空戦隊から、さらにエキドナや陸戦機からの対空砲やミサイルがでかい的を蜂の巣にする。


「ムダムダムダ! 多少火力を束ねた程度で落ちるワタシとオーバーボディじゃなくってよ!?」


「これでもダメか!」


 やはりバカデカなオプションをどうするにも、本体を叩くか剥がすかしないとって事か。

 そんな俺でも思いつくようなところには、当然ファルも副長官もとっくに到着してるワケで。

 問題はそれをどうやってやるか。あの耐久性と自在性を備えた巨体をいかに突破して本体にまでたどり着くかと言うことだ。


「さあて、あんた等の相手するのも飽きてきたわね。いい加減原生生物の巣を潰す仕事に入ろうかしら」


 挑発のつもりかそんなことを言って下降を始めるレイダークロウとそのオーバーボディ。

 これがたとえ罠だとして、それでも飛び込まないワケには行かない。

 そんな意思の元に俺たちは突撃。

 これに遅れて味方からも援護射撃が飛んでくる。

 対するレイダークロウは巨体を広げて急ブレーキ。射撃で削られながらも、俺たちの鼻先を塞ぐ壁を作る。しかしファルは怯むどころか逆にエンジンを全開に。援護射撃で開いた穴へ翼を折り畳んだ俺を滑り込ませる。


「セイヤァアアアアッ!!」


 すり抜けるや開いた翼を振り回したファルは勢いをそのままターゲット、オーバーボディに機体を埋めたレイダークロウへ突っ込む。


「来るわよね、ここまでは!?」


 読み通りだと、メカオネエは接合部周りから俺たちへ砲台を突き出してくる。即座に鼻先に放たれたエネルギー砲だが、俺は気にしない。ファルが俺の中ですでに体をひねり、砲口の先から俺を外してくれると知っているからだ。

 そして待ち構えていた砲撃をかわしたファルの蹴り出した俺の足がレイダークロウの接合部に突き刺さった!


「なんですってぇええッ!?」


 誘い込んだつもりで上を行かれた驚きからか、レイダークロウは目をチカチカとさせながら、雑兵を寄せ集めた機体から剥がれ落ちる。

 無防備に投げ出されたそれにトドメを刺そうと、ファルはすれ違うなりに旋回に入る。


「……なーんちゃって」


 が、制動をかける俺たちが狙う先で、レイダークロウは急に平静な声を上げて閃光に消える。

 熱センサーを誤認させるこれはフレアか! 目眩ましをして逃げ出すつもりだろうがそうは行くか!

 気持ちを同じに羽ばたくファルと共に、俺たちは追撃の爪を突きだす。

 確実に仕留めにかかったこの一撃は、しかし狙いの甘さから飛行機の翼を削り取るのみ。だがかすり当たりでもバランスは崩れた!


「逃がすものか!」


「ワタシばっかを追いかけてて良いのかしらん?」


 が、今度こそと足を構えたところでかけられた警告。そして身の毛の逆立つ警鐘に、俺たちは身をよじって背後を蹴る。

 この後ろ回し蹴りは炎の塊を蹴り砕く。蹴り払ったこれが何なのか、どこから来たのか、それは――


「デカイのの残骸が自爆ッ!?」


 核であるレイダークロウと引き離され、崩落を始めたオーバーボディ。それを構成していたデモドリフトの雑兵がそれぞれに火を吹いているのだ。

 そうしてできた火の玉の雨は程近い市街地へ向けて降り注ごうとしている。


「やられたッ!? だが!」


「これ以上はやらせん! 町の上には一つも落とさせるなよッ!? 総員対空!」


 それを悟ったファルの、そして副長官の判断は早かった。オーバーボディが生んだ炎の雨を空中で破壊するべく全力を傾けたのだ。

 空母エキドナの放つホーミングレーザーが、そして地上と空からの砲撃が火の玉の中核を次々と撃ち抜き、曲がりくねる光条の駆け回る空を走る俺たちの翼が、細かな礫になったものを払っていく。

 そうして市街地を狙って落とされた燃える機械兵の雨は、程なく門武守機甲の手によって一掃されたのだった。それはいい。それは。


「大将首には逃げられたか……」


 町への攻撃を殿しんがり役に残したレイダークロウはもう戦場にはない。見回すファルに従って俺も望遠で探すのだが、標的の姿はどこにも見えない。恐らくはもうゲートを潜って拠点に戻ってしまっていることだろう。レイダークロウといい、スクリーマーにレッドプールも、逃げ足が速くて厄介な事だ。


「まだ完全に逃がした訳ではないわ」


 だがそんな敗北感にうちひしがれた俺に、通信機から声が。コックピットにも映し出されたその通信はエキドナのブリッジから。ライエ副長官からのものだ。

 この状態で、まだとは?


「奴らのを修理した無人の偵察機。それを追跡させているわ」


 そんな俺の疑問が見えていたのか、ライエ副長官はどんな一手を打ったのかを答えてくれる。

 これまでに撃ち落としたのを共食い整備に組み上げ、新たに加わった315とアンスロタロスらの協力で中身を調整した虎の子だ。

 これまでは有人の偵察隊だけで追跡・探索させていた。だから油断しているだろうと踏んでここで使ったのか。


「偵察機の反応ロストしました!」


「まあ気付かれるだろうが。最後に反応があったのは?」


「最終反応は、ポイントD……」


 しかしアーシュラから程無く虎の子の無人偵察機の撃墜報告が。だがライエ副長官は落ち着いて手に入った情報をまとめるように指示する。


「これを奴らの拠点に攻め込む足がかりとしてやらなくてはな。では現在出撃中のチームは帰還を! 修復・救護チームは入れ替わりに!」


 いきなりにレイダークロウがデモドリフトの幹部らが拠点とする場所に移動したとはライエ副長官も思っていないようで、撃退とこのデータを成果として撤収を指示する。

 そこで警告めいた受信音がブリッジに響く。


「ドラード基地、ロンテア基地、ホウライ基地から入電! 都市付近にゲートが展開、現れたデモドリフトの軍勢と戦闘に入ったと!」


「な!? 三方同時ッ!? いや、こちらも含めれば四つに……!?」


 レイダークロウを対処している間に現れた別都市への襲撃者たち。

 この知らせにライエ副長官の耳と尾が逆立つ。そこへさらに通信が入る。が、こちらはより悪い報せを持ってきたものでは無かった。


「ほーい、副長官。話は聞いたよ。ユーレカの守りはいくらか残すのを増やしてくれたら良いからさ、エキドナとイクスブリードらで行ってやってよ」


「! 了解しました。直ちに駆けつけます!」


 ムキムキのライオンマンであるレグルス長官のこの指示に、ライエ副長官の毛並みは落ち着きを取り戻したのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 流石は幹部、手強いなー この偵察機の手柄が逆転のきっかけになるといいですね。
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