29:振り落とせ! 振り切れ!
「あらあらあら? それはちょっとやけっぱちが過ぎるんじゃなーい?」
俺の抱えたレイダークロウが柔らかに嗜めてくる。
確かに、ここはエキドナの甲板上とはいえ空中で、ヤツ自身は空戦機。そして俺はブーストジャンプが精々の陸戦機。余裕綽々な口振りにはカチンとくるが、実際ヤツの土俵に自分から上がったようなモンだ。
「ヤケだけで出来るかよ!」
ビビリの俺が、ただただ捨て身のタックルに乗り出すワケが無いだろうが。
内心で吐き捨てながら俺はブリードガンの銃口をメカオネエの背中に押し当てる。
「それが通じるのはクラッシュゲイトくらいだわよ?」
が、俺が引き金を引くよりも早く、機体を衝撃が突き抜ける。これに強引に引き剥がされた俺は、甲板を転がるようにして受け身を。
足と甲板の間に火花を散らしながら銃を向けた俺だが、照準の先にレイダークロウの姿は無い。
「遅いわよ」
そんな猫なで声に続いて背中に衝撃が。蹴飛ばされたと気付いた俺は追撃を避けるべく、着地点から宙返りに照準をつけに。
そして視界に捉えたレイダークロウは、飛行形態で甲板スレスレを走って。その後ろにはホーミングレーザーが。
「ブリード、今のうちに立て直しを! とにかく時間を稼いで!」
「了解! 助かった!」
エキドナからの援護と指示。俺はこれに手短に返すと、ブリードガンにブレードバレルアタッチメントと新しいカートリッジをセット。スラスターを噴かして破られた格納庫前に陣取りに。
「なかなか楽しませてくれるじゃないの」
そんな俺に、飛行機型のレイダークロウからエネルギーミサイルが。
「自分もホーミングに追いかけられてて!」
これをエネルギー弾とロングブレードで打ち落とし、エキドナのホーミング機銃から逃げるレイダークロウの鼻先を塞ぐようにブレードバレルのマグナムショットを!
だけれどレイダークロウはロール回転しながらの変形で急制動。ホーミングレーザーと俺のマグナム弾をやり過ごしてみせる。
ならばともう一度狙いを定めようとして、これをキャンセル。かわすなりすぐさま変形・加速したレイダークロウがまたエネルギーミサイルをばらまいたからだ。
ロックする間もなかったからか、その軌道は俺へ殺到するものじゃなかった。
あるものはエキドナの機銃に向かって打ち落とされ、あるものは俺の目の前で爆散する。しかしそのうちの一発は俺の脇をすり抜けて後ろへ。俺が守ろうとしていた格納庫に飛び込みに。
「いかすかッ!!」
俺はそれをとっさに手で握り潰す。当然大爆発を起こしたエネルギーの塊は俺の体を容赦なく吹き飛ばす。
「ちょっと、マジ!?」
だが逆にそれがレイダークロウにも予想外だったようで、偶然にもヤツの飛行コースに割り込む事になった。
「これは、手を焼いた甲斐があった、かな?」
固い音を立てての接触と同時に、俺は爆発で麻痺していない腕を飛行機モードのメカオネエに絡ませる。
バレル装着で撃てないまでも、このままバランスを崩させてしまえば。そう思った俺に突き刺すようなダメージが。
ああ、そうか。味方のホーミングレーザー機銃にだって、俺が敵に絡まるのは想定外じゃあないか。
「あら? あらまあ!? がむしゃらにやって結局は味方に射たれて落ちるだなんて、あっけないわねえ!?」
俺はそんな嘲りの声を聞きながら、不思議な納得とやらかしの悔しさを抱えて重力に従う。
だがそんな俺を拾い上げようとするかのように、赤い影が真下に滑り込んで。その正体が何かと確かめるよりも早く、俺の機体は光と格納スペースに包まれる。
車に変形した機体が固定され、さらに巨大な体に意識が広がりと流されるまま、気が付けば俺は両腕を翼と広げた鋼の鳥人となっていた。
「合体成功! 間に合って良かった!」
俺の中、広々としたコックピットで得意気に鼻を鳴らすのはファルだ。
彼女の羽ばたきと脚の振りに従って、俺もまた彼女のそれそっくりに変わったしなやかな翼と、エンジンブロックが変形したクローレッグを操り空を翔る。
そして機首の変形した頭部のエネルギーバルカンで牽制。その勢いを乗せた蹴りを敵へ繰り出す。
「速い!?」
シミュレータでも繰り返した、ファルの馴染みの動きの再現。しかしレイダークロウは驚きつつもこれを掠める程度に押さえて離脱。その置き土産のエネルギーミサイルから、俺たちも羽ばたき打って逃れる。
互いに舌を巻きながら、俺たちは音を置き去りにしたスピードで空を走り回る。
「まったく!? その形でなんて加速なの!?」
「ヒト型でもほとんど速度を落とさないそっちが言うか?!」
オープンな通信に乗ったメカオネエのぼやきに、ファルもまた律儀に同じ通信に叫び返しながらヤツの仕掛けを避けて、こちらの好位置を取ろうと翼を操る。
イクスブリード・スカイになった俺は、変形前よりも明らかに空気抵抗の増した形である。が逆に、その速度は大幅に上がっている。しかもファルの動きにダイレクトに追従しているおかげで、さらに複雑かつしなやかな軌道を描いてだ。
その不思議のタネは今機体に引っかけた雑兵を一方的に切り裂いたもの。バリアだ。
その他イクスブリードでもそうだが、合体によって機体を巡るエネルギーが大幅に増加する。これが機体そのものを強固に支え、同時に空気の抵抗を、それどころか帯びたエネルギーの弱い側を破断する程の強力なバリアとなっている。
というワケで、タネと言うほどのものでもない。増幅したエネルギーによるただの力業だ。
「だがこのパワーが!」
チャンスを見たファルは俺に漲るこの力を敵に叩きつけてやろうと、一際大きな羽ばたきをして突撃。その勢いはレイダークロウとの間にいる機械兵を当たる端から切り裂いていく。そして壁にもならない雑兵の奥に飛ぶ大将首へ、ファルと俺は蹴爪を――。
「あら怖ーい!」
だが繰り出したその瞬間にレイダークロウとの間に壁が生まれる。
狙いを違って半端に突き入れてしまった蹴爪は食い込むままに捕らわれて、質量の流れに機体ごと流されてしまう。
これにファルは俺が警告をするよりも早く足を引いて離脱。俺たちに引かれるようにして周囲を取り囲んでいたマシンの残骸を翼で切り飛ばしながら包囲を抜ける。
「何が!? 何をやった!?」
唐突な割り込みと、それに合わせた障害物の取り囲み。
敵大将の仕業だと断じたファルはレーダーと目視とでターゲットの姿を探す。
「オーホッホッホ! どこを見てるの? ここよここよ!」
そんな高笑いと共に俺たちに迫る鉄の壁。これに俺たちは空を蹴るようにして急速離脱する。
そのおかげで見失ってたものを見つける事はできた。
「向こうも合体を!?」
ファルがたまらずに声を上げた通り、レイダークロウの姿は巨大な機体と繋がっていた。
ボディそのものが翼になっているかのようなシルエットの飛行機。その機首部に下半身を埋めるような形で。巨体を構成しているのは俺たちが蹴散らした残骸の寄せ集めなのだろう。割れたりひしゃげたりした機体が圧縮されているのが見える。
「合体はあんた達の専売特許じゃなくってよ!?」
「そんなジャンク山そのものでよくも!」
さっきの繰り返しなんだろう。繋がった機体の一部を伸ばしてくるレイダークロウ。
これにファルは叫び返して回避軌道へ。
「全員距離を取って援護に集中! これはわたしたちで仕留める!」
発光信号と通信で空戦隊に指示を飛ばすと、ファルはレイダークロウからの機体突き出しとエネルギーミサイルを避けて機首を翻した。




