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27:生身、超怖え

 えー……とワタクシ、リードは先日のファルの誘いを受けて、そちらにお出かけしておりますです。で、それがどこかと言いますと、空の上……なんですねえ。はい。

 それも飛行機に乗ってではなく、で。


「ひええ……VRと違って生身超こええ……」


「そんなにか? 風も強いと言う程でも無いはずだが……」


「そりゃあ普段から体ひとつで飛んでるそっちとは慣れが違うって……おおっと!?」


 横に並んで首を傾げるファルに返しながら、俺は崩れかけた姿勢を慌てて直す。

 俺が使ってるのがスラスター付きのグライダーで、体重移動が舵切りになるタイプのだ。素人は姿勢制御に集中してないと危ないヤツなんだよな。

 風よけになるのが身に付けたメットとかだけだから、風がダイレクトにぶつかってきて、それがまた怖いんだよ。


「大丈夫。乗せたからには責任を持って助けるから」


「それはありがたいけども、このグライダーだってタダじゃないんだから壊さない方がいいだろ?」


 俺は言いながらどうにかこうにかにグライダーのバランスを取って向かうべき方向を正面に。

 それは山の上に開けた野原。俺がこのブーストグライダーを飛ばしたスタート地点で、ゴールでもある。

 そちらへ近づけながら高度を緩やかに調節。目印である円の中へ着地する。

 機体越しに返ってくる地面の感触にはホッとした心地になる。が、いつまでも安心感に浸ってもいられない。グライダーが突風にやられないようにアンカーで固定しないと。


「上手いじゃないかリード。まるでハーピーが舞い降りるかのような着地だったぞ?」


 そうしてランディングギアを触っていたら、羽音を鳴らしてファルが降りてくる。


「ありがたいが、そりゃあちょっと褒めすぎじゃないか?」


「いやいや。リードはもう少し素直に受け止めてもいい。実機がほとんど初めてでこうまで扱えるのはなかなかいないぞ」


 ファルもクリスもちょくちょくこうやって褒めてくれるから、少しくすぐったいな。まあしかし、この成果もブリードの補助ありきだからな。それに飛んでる最中は姿勢のキープに精一杯で、空からの景色を楽しむ余裕は無かった。ここからユーレカシティを遠くに臨む景色は自然と人工物の交わりがいい案配のグラデーションを作っていて、空からならより変化を楽しめただろうに。


「兄ちゃん終わった? ならボクボク! 次はボクがやる!」


「えー! 次はアタシがやりたい! やりたいやりたい!」


「順番を決めるのにケンカをしない。他の子の事も置きざりにしないで、みんなとうらみっこなしのやり方で決めるんだ」


「こちらでクジを用意したから、これで決めましょう」


 我先にと俺の後に続こうとしたリュカとアルテル。ファルはその二人を大きな翼で通せんぼする。

 さらにアザレアが後ろから棒クジを出して手招きを。

 これに長官副長官のお子さま方は素直に従って他の子ども達といっしょにクジ持ちのアザレアを取り囲む。

 そうなんだ。このグライダーでの飛行感覚作りはファルと二人きりってワケじゃない。


「すまないリード。場所と道具を借りたいと連絡したらこんな……」


「こんなとはあんまりな言いようじゃないか。卒業生としてちょっとは後輩に構ってやっても良いだろうによ」


 ファルに割り込んで声をかけてきたのは彼女と同じ羽腕のおじさんだ。恰幅の良さから多分フクロウのヒトだろうか。


「先生……しかし、これはリードの訓練もかねてのもので」


「いや俺の事は良いって。グライダーまで借りてるし、逆に良い具合に休憩時間も取れてるってモンだよ」


「いやいや謙虚なこった! こちらの彼はもちろん、あっちじゃ仲間のお嬢さんらも子どもらの相手になってくれてるってのに、子どもたちの姉同然のファルときたら!」


 俺のフォローに被せる形で、フクロウおじさんが嘆いて翼で指す。大げさな身振りで示されたその先には、小さなハーピーを乗せて子ケンタウロスを先導するクリスエスポワール。そして別集団で牙を向いて鬼ごっこをするルーナが。

 いつものメンバーで訪ねたここは、身寄りの無いファルが育った施設の管理する土地で、子どもたちはその施設で育てられてる「きょうだい」たち、と言うわけだ。


「それにしても、ファルのヤツが男を連れてくるとはな。年頃になってもそっちの興味がまったく湧かない様子だったから心配していたが、ようやくか……」


「先生は何を言ってるんだ。男の仲間を紹介するのはこれが初めてでもないのに……」


 しみじみと羽先で涙を払う真似をするフクロウの先生に、ファルは動じた様子もなく突っ込む。すると先生はとたんにつまらなそうに顔を曲げてしまう。


「やーれやれ心配する親心の分からんヤツよ! 連れ合いが出来るのが幸せの前提ではないが、あんまりにも興味が無さすぎるぞー!」


「ひとり立ちした私の事はいいから、今見てる子達の事を気にかけてやってくれ」


「独立したのを気にかけてはいかんって事はないだろう。そもそもお前がしっかりしてるようで危なっかしいのが抜けないのが良くない」


 呆れ混じりのファルの返しだが、言われた側もまるで引かない。こりゃあ黙ってたら面倒な事になるよなぁ。


「ま、まぁまぁ! 親代わりとしちゃあ色々心配なモンでしょうが、ファルはユーレカの空のエースですから! 危なっかしいなんて程のことは無いんじゃーないですか?」


 我ながらわざとらしすぎたか?

 そんな割り込み方をしたからか、ファルもフクロウおじさんも俺の顔をきょとんと。

 しかしおじさんの方はすぐにニヤリと笑って俺の肩に翼を乗せてくる。


「いやいや、気をつかわせて悪かった。そうなんだよ、俺も良くやってるらしいってのは聞いてるんだが、雛鳥の頃の姿がいつまでも抜けなくてな!」


 そのまま羽根で俺の肩を叩くもんだから顔まで風がバッフバッフって。


「ファルの側にお前さんみたいな、コイツがエースだって信頼してくれてるのがいてくれて良かったよ。この先もよろしく頼むぜ? 聞けばお前さんも身寄りを無くしたって話だし、親の名前が必要ならこのおっちゃんを頼ってくれていいからな!」


 どうも、妙に気に入られたっぽい。

 胸に羽根を添えて親代わりをやってやるとまで宣言してくれるこの人に、礼を言う顔は強張ってなかっただろうか。

 俺はただ、俺の中の「父親」との違和感に戸惑っていただけなんだ。

 大きくて、それでいて俺のふがいなさを受け止めてくれる。けれどもこのヒトは、そこに窮屈さが足されない。外へ出歩こうが自由だと開かれた屋敷のような、そんな雰囲気なんだ。


「……なんだ?」


 そんな戸惑いを抱えた俺を他所に、ファルが不意に彼方を見やる。

 なんの異常かと慌てて視線を辿る。けれど、俺には空が広がってるようにしか……いや、妙な黒い靄みたいなのが?


「大変だー!! 大変だよー!!」


 その黒靄から逃げるみたいにこっちに突っ込んできたグライダーのアルテルは、しきりに大変だと叫び声を繰り返している。

 墜落させるような勢いで降りてくるグライダーに、ファルはとっさに羽ばたいて獅子娘を回収。遅れた俺はコントロールを失ったグライダーの前に行く……けれど勢いで出たからって通せんぼが通じるのじゃないぞ!?


「マスター!」


 しかしまごついている間に飛び出した声と縄に、俺は反射的にそれを掴んで、グライダーに絡んだのを引っ張る。周りのみんなもこれに続いてグライダーのブレーキになる。

 そうやって人力でどうにか墜落を軟着陸に変えられて、俺は胸を撫で下ろす。


「助かったよ、アザレア」


「いえ、マスターが無事で何より。それよりも……」


 ナイスフォローにお礼を言う俺だけれども、アザレアはある一点に目を。

 ああそうだ。アルテルが大変だってのはいったいなんなんだ?


「町に近づいてる飛行機がいっぱい! アレって、きっと敵のヤツだよ!」


「なんて!?」

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