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26:新入りたちがやってきて

「ほいほーい、じゃあ左前の裏ぼりもホリホリやってくからねー」


「ああ、頼むよコットン」


「はー……鮮やかなもんだなー」


 俺ことリードは、自主トレで汗だくになった首回りを拭きながら、クリスの蹄鉄交換の様子を眺めてる。

 ウサギのような長耳をパタパタさせながらゴツイ道具を動かすコットンの手は軽快で、それでいながらクリスの大切な蹄を傷つけない繊細さもある。

 そんな上げた左脚を弄られてるクリスもまた、弾む息を整えながら汗を拭っているように、さっきまで彼女と合同のトレーニングをやっていたんだ。それがクリスの蹄鉄が外れた事でトレーニングを中断。予定していた月一の蹄鉄交換を繰り上がりに休息を入れることにしたってワケだ。


「ふふん? まあコレもわたしの担当だからね。手慣れたモノよ」


 俺の呆けたひと言に気を良くして、ぷすぷすと鼻を鳴らしてのドヤ顔を見せる。が、作業する手はまったく狂いも淀みもない。いや手慣れていると自分で言うだけあって大したものだ。ホントに。


「いやまあ? それほどでもあるけどもね。何せクリスとは門武守機甲入り前からの付き合いだけど、蹄はずっと私がやってたモンね」


「自分で出来たのなら、コットンももっと色々手を出せたのだろうけれど、ケンタウロスの体の作りがね」


「足の爪切りを自分じゃ出来ない、か。そりゃあ不便と言えば不便だよな」


「だからわたしがいるんでしょうに。言っとくけど、わたしは楽しんでやってるからね?」


 言いながらコットンは、特殊合金製の新しい蹄鉄を取り付けてしまって次の後ろ足へ。そんな飛び跳ねるように足回りを動き回る友人に、クリスは微笑と感謝を向ける。


「なんのなんの! クリスが使うのに手入れするのは補佐役のわたしがやりたくてやってる仕事なんだし! ホントはクリスが使ってるランドイクスの整備にだってもっと手をかけたいんだけど、今は……ね」


 言いながら俺をチラリと見やるコットンの目に圧はない。だけれども俺は拭いたはずの汗を噴き出させて顔を背けてしまった。

 だって、コットンがクリスに尽くしたくても尽くしきれずにいる原因、それは――。


「マスター。ボディの点検、整いました。しかし有機ボディに疲労を確認」


「あ、ああ、ありがとうアザレア」


 滑るようにして俺のそばにやってきた、ピンク髪にメイド姿の彼女、アザレアはそのまま俺の拭き残した汗を拭い始める。


「いや、その……そんな俺の世話なんか良いから、もっと他の人の、他に忙しくしてる人を手伝った方が良いんじゃないか?」


「いいえ。そちらには他の315チームがいますので」


 ヘッドドレス風のや耳のメカパーツ。そして彼女自身が言ったとおり、このアザレアはレジスタンスベース315から保護した機械人アンスロタロスの一人なんだ。

 で、俺をレジスタンスリーダーであるブリードの一部と見て、世話係みたいな事をやってくれてるってワケだ。

 まあ、その世話の範囲はイクスブリードになるビークル達、そして母艦のエキドナ、さらにはユーレカの基地にまで広がっていて。だからアザレアの仲間達の手が入ってない場所は、もう基地の中の何処にもないんじゃないかって勢いなんだ。


「いやあ、さすがの手際だ。これではどちらが保護されてるのか分かったモノじゃないな」


「だよねー。起き出すなり基地の残骸から使えるパーツを回収して、どんどん動きを良くしちゃうんだもん」


 クリスとコットンが感服したようにうなずき合うとおり、アザレアたちの働きは凄まじかった。脱出ポッドに備えられていたものを含めて、315が残したものを可能なかぎり俺たちに、ブリードに託すために。

 ちなみに315自身はポッドに分散してた人格がユーレカ基地のデータベースに住み着いている。こっちもデータ処理の補助やらで働いてくれている。まったく働き者揃いだよ。


「あーあ。この調子だとわたしももっと手が空いちゃうのかな。ランドイクスだってアザレアたちの手が入ってから調子が全然違うし……」


「なにを、滅多なことは言わないで欲しいな」


「そうだな。今まで専用に調整してきた経験ってモンがあるんだからさ」


 長い耳をハの字に下ろして落ち込むコットンに、クリスと俺とですかさずフォローに入る。

 クリスにとっては腕も心意気も信頼する友人なんだぞ。コットンの不在で、クリスの調子にれだけの陰が落ちるか。付き合いのまだ短い俺にだってそれくらいは察せられるぞ。

 だからそっちからもフォロー入れて!

 そんな内心冷や汗ぐっしょりにアザレアに目配せをする。と、彼女はその透き通った紫の目を瞬かせてコットンを正面に。


「現地知的生命との融和を目指してデザインされた我々ですが、出来るのは機材を万全に保つ程度です。操るヒトの事については、それほど出来ることは多くありません」


 アザレアは言いながら、増量した俺の汗を拭き取り、程々に冷やした手でクーリングしてくれる。その手際に、コットンはアザレアのフォローに疑わしげな目さえ向ける。

 しかしそこへ上空から落ちてくるモノが。


「ふぅ……危なかった……」


「ファル!? いったい何が……」


 何事かと尋ねた俺たちだが、皆まで言うまでなくおよそのとこは分かった。

 頑張り羽ばたくその足が掴まえているのは、アザレアと同じくメイド姿のアンスロタロスだ。


「ファルさんのトレーニングのターゲットを勤めようとしたのですが、単独での限界高度を超越した上にコントロールを喪失。墜落仕掛けたのを救助されての現状です」


 宙吊りで頭頂部を危うい程に地面に近づけた彼女は、言いながら自分でも体重を支えるべくスカートを抑えていた手のひとつを地につける。

 片手逆立ちになった事でファルはホッと息を吐いて掴んでいた足を放す。

 アンスロタロスさん達、見た目よりも重いもんな。俺くらいなら掴んで飛んでいけるファルでも厳しいもんは厳しいよな。

 そうして重荷を放したファルはスイーッと俺の横に着地。酷使した翼回りの筋骨をほぐす。

 俺がそんな彼女に目をやっている一方で、墜落を危うく救われたメイドはもう姿勢を正していて、ファルに頭を下げて感謝を述べる。

 そしてアザレアはそんな同胞を見て、改めてクリス達に顔を向ける。


「ね?」


「いや、ね? って言われても」


「無茶が利くからって、あんまりやるもんじゃないからね」


「そもそもがメイド服を着たままジャンプとブースターだけで、高さだけでもハーピーを追いかけれてるってのがとんでもないし……」


「? 何にせよ、私たちだけではサポートの手が行き届かないところが少なくはないのが事実だと証明されただけでは?」


 本気で意味が分からないという風なアザレアの態度に、俺たちは顔を見合わせる。それは揃って困惑の色濃い顔だ。

 そう言えばクリスたちのこの顔良く見るな。そう、俺が浮わつかずに自分の能力を評価した時とかに。


「だとしても、そんなの俺には逆立ちしたって出来やしないって。ブリードと一体化してやっとってところだよ」


「それは、そうなんだろうけれども……」


「リードのこれはホントに……」


「マスターのこちらのボディにはホバーもスラスターも備わっていませんからね。二つの……いえ、イクスブリードの各形態を含めた身体機能を混同せず、正確に動作させられているのは素晴らしい事かと」


 ほらね。事実を言っただけだって言うのに、クリスもコットンもアチャーって感じでさ。その点、アザレアは素直にうなずいてくれる。まあ、ブリードの一部扱いだからか、過大評価がすごいけども。


「……なるほど、これは手強い……クリスエスポワールらの抱えてきた課題を理解しました」


 でも口に出したらこれだもんなぁ。各形態での身体機能を混同しないったって、そんなのイクスブリード側でやってる事だし。それに三つの形態の最後のひとつ、スカイについてはまだVRでしか試せてないってのに。

 そんな内心を覗き込むかのように、ファルの顔がうつむいた俺の前に。


「うん? リードはまだ実際に空を飛ぶ感じを掴めて無いのが不安なのか?」


「まあ、それはそう……だな」


「ならわたしに付き合ってくれ。連れていきたい所がある」


「はぁ!?」


 そして出てきたハヤブサハーピーのひと言に、俺たちは揃ってすっとんきょうな声を上げたのだった。

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