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25:跪く侵略者たち

「ただいまの帰還だ……と、相変わらず暗いなドクター・ウェイド」


「やかましい。無用なエネルギーは使いたく無いのだ」


 照明を絞った我が研究室。それに戻ってくるなりに居候の一人、スクリーマーは不躾なひと言を寄越してくる。

 まったく。こちらが下手に出ておれば付け上がりおってからに。


「まあまあ、お帰りなさい。それで、レジスタンスベース破壊の首尾はどうだったのかしら?」


「ふん! 単独でのご帰還だ、どうせ大敗だろうがよ!」


「まさか。クラッシュゲイト、貴様ではあるまいし。ベースはもちろん破壊してきたとも。もっとも、そのために使い捨ての手駒を使いきる羽目になった分は、ヤツらの手強さだと認めざるを得ないがね」


「なんだとぉ!?」


「それはお見事!」


「ほー、言うだけあってやるもんだな」


 のし掛かるように詰め寄るクラッシュゲイトに対して、レイダークロウもレッドプールも成功報告に拍手を。

 だがスクリーマーのヤツ、今の言葉は聞き捨てならんぞ!


「待て待て待て! 手駒を使いきったと言ったか? 私の修復改造建造をしたトルーパーを! 使い捨てにしてッ!?」


 飛び跳ねて詰め寄るこの私の勢いに、スクリーマーをはじめ、幹部衆は目をチカチカと瞬かせる。ヤツらの間で見合わし交わされたそれはしかし、私という協力者の不興を買った戸惑いではない。


「それはそれはすまなかった。言葉が過ぎたなドクター。あれらはこちらの指示に忠実に従って完璧に伏兵や殿しんがりをこなしてくれた。良い兵だったよ」


「ああ。俺の時もオーダー通りの仕上がりで、良く動いてくれたな。良い仕事してくれてるよなドクターは」


「それでも……その修復もワタシ達が差し上げた技術あってのモノだものね? 共食い修理じゃ足りなくなった分を一から作ってくれたのはありがたいけれど……」


「それをドクターがやれたのもオレたちのおかげ、だからよーお?」


 私の手業を褒め称えるモノの、それは一応程度。所詮はデモドリフトがくれてやったものなのだという主張に行き着く。

 コイツらは結局全員が、私の研究所に居座り仕事を押し付けておきながら、私を見下しきっているのだ。所詮はデモドリフトの支援が無ければうだつの上がらない醜い有機生命体だとな!


「ああ……そうだとも。感謝して、いるさ。そちらから得られた知識のおかげで、研究は大いに回ったのだからな。ゲートを限定的とはいえ、安定して開けるようにできるくらいにはな」


 しかし腹は立つが、ここは堪えて頭を下げておくしかない。私の利用価値はまだまだあるだろうが、ヤツらの気分次第で叩き潰されないとも限らない。故にここは忍従! 業腹ではあるが、忍従!!


「おうおう、殊勝な態度じゃあねーか。それじゃあオレの作戦のための兵もバッチリ揃えてもらわねえとな!」


「あら? 次に担当するのはワタシの予定だわよ? 割り込みは感心しないわ」


「ああ? 緊急のご指示があるかもしれないだろうがよ?」


 そのまま向かい合うクラッシュゲイトとレイダークロウだが、突然にカメラアイを揃って瞬かせ始める。


「じりりりりーん! じりりりりーん!」


 そしてそのままチビガキがやるようなベル音の口マネをし始めた。

 それもにらみ合いに入りかけた二体だけでなく、四体の幹部全員でだ。これは――


「はい、デモドリフト様。スクリーマー、お声を受けております」


「レイダークロウ、同じく」


「クラッシュゲイトも良好ですぜ」


「はいはい、レッドプールも問題無しで」


 跪いたコイツらを寄越した首魁、デモドリフトからの通信だ。

 四幹部は応答するなりに私をチカチカとさせた眼で睨んでくる。


「分かっている。私は外すさ」


 四幹部どもが言うには私にお声を聞かせるなどもっての他なのだと。

 向こうと交信していた時からも同じ対応であったのだから、わざわざ凄まれるまでもない。分かりきった事だ。

 そうしてわざわざに足音を鳴らして遠ざかって、研究室直付けの私室に籠る。

 薬液を満たすスリープポッド以外には分解中の機材の並んだサブ研究室同然のこの部屋で、私は壁のスイッチ群に触れていく。

 私だけが知る特定の順序でのオンオフ操作を受けたことで壁の一部がスライド。小さなモニターが顔を出す。

 手の平程の、覗き窓めいたこの隠しモニターが映すのは隣の部屋の様子だ。

 デモドリフトの手先どもが通信先の上司に頭を下げた様を盗み見れると言うわけだ。


「せいぜい私を支配出来ているとでも思っていれば良い……ここが私の住処だということも忘れてな、ク、ククク……」


 我ながらささやかな、みみっちいとさえ言えるようなケチ臭い意趣返しだ。リスクにも合わない、まったくの不合理な腹いせでしかない。が、しかしだ。たとえ大したものでなくともヤツらの秘部を暴くことになる。それを思うと口元が緩むのを抑えられん。

 そんなヒクつく唇を感じながら、音声も盗むべく備え付けのイヤホンを耳に。


「……はい、まだ足掛かり程度ですが、順調です」


「は、いえいえそんな。たしかに……現住生物がレジスタンスどもの装備をああまで活用していたのは、見立てが甘かったと認めざるを得ません」


「しかし、所詮はゲリラどもの装備の手直し。大したことは……うひぃいいい!? お、お許しをぉお!?」


「やーれやれ、一番痛い目に遭わされてるクセにデカイ口叩くから」


「我らが主にその程度が見抜けないとでも思っていたのかしらね」


 あれは、通信のための接続から内部を責められたのか?

 ともかくチャンスと許しを乞うてのたうち回るクラッシュゲイトを見下ろして、残る三体があきれ混じりに嘲笑している。

 その様子はデモドリフトの通信抜きにしても良く見るものだ。が、奇妙だ。いつも通りだからこそ、より奇妙なのだ。

 奴らはなぜ、声もしていない主君を相手に、まるで目の前にいるかのような態度をとり続けている?

 それが人間ならば、まあ通信機越しに反射で頭を下げてしまうようなものだろうとも思える。だがヤツらは個性、人格を備えているとはいえマシンだ。わざわざに音声で応答する事もあるまいに。意識とでもいうか、そんなものをつなぎ合わせればそれだけでより効率的な対話や会議が出来るだろうモノを。

 機械生命体として複雑化すると、そういうものを厭うようになるものなのか?


「いや、それも気になるが、デモドリフトの声を拾わねば」


 せっかく危険を犯しているというのに、何の成果も得られなんだでは虚しく情けないからな。そう思ってマイクの感度をいじるのだが、まったくそれらしい音は無い。

 何故だ? 声を機体の外に漏れないように受けられるのなら、何故私を閉め出す? 聴かれる心配が最初から無いのなら必要ないだろうに。蚊帳の外に追いやったからには聞こえるはず、拾えるはずだろう!

 だが限界ギリギリまでマイクの感度を上げたところで、幹部ども四体の騒ぎ声が大きく、さらにノイズがくっきりと耳に届くばかり。欲しい音声はまったく拾えない。

 この焦れったさに私は思わず歯ぎしりしてしまう。その一方でモニターの中の機械生命体どもが唐突に騒ぎを止めて見つめ合う。

 この反応に、まさかバレたかと私は顔面がじめりとするのを感じる。


「レジスタンスの支援者を確実に始末せよ……? お言葉ですが我が王よ、この先はともかく、今回は覚醒したベースを確実に破壊致しました」


「悔しいけれど、聞くかぎり今回の作戦はお見事だったと言うしか無いと思いますわよ」


「お前達がそう思うのならばそうなのだろう……って、オイオイオイ、スクリーマーさんよー? なーんかヘマやってんじゃねーですー!? ってぐわぁああーッ!?」


 調子づいたのをまたお仕置きされて黙らさせられるクラッシュゲイト。

 これに私の盗み聞きがバレたのでは無さそうだと胸を撫で下ろす気持ちになる。がしかし一方で、デモドリフトなるものの言う支援者とはいったい何を指すのか。そこのところに好奇心を刺激されてしまうのであった。

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