23:怒涛の情報に追いつけないのですが!?
「な、ん? なんだって?」
突然浴びせられた意味不明な情報に、俺が返せたのは疑問符だけだった。
だが見ず知らずの相手、それも顔だけのホログラフからの再会の挨拶なんてされてもどうすれば良いって言うんだ?!
動転したまま子どもたちを抱えて後退りする俺に、315と名乗ったホログラフはノイズを挟んで訝しげに変わった顔を見せる。
そしていきなり俺に部屋のそこかしこからのビームを浴びせてくる。
不意打ちに子どもたちを包むので精一杯だった。が、俺には何の苦痛も無かった。
どうやら扉の認証と同じスキャンビームだったらしい。
おそるおそると頭を上げる俺に対して、ホログラフの顔は難しげに歪んだまま。
その顔は本当に分からないのかって、ならなんでここに来たって俺を責めてるみたいで。
そんなこと言われても俺が知るか! いつの間にか機械と一体化なんて出来るようになっただけの俺が分かるワケが……いや、分かるな。俺は知らないけれどブリードが知ってる。そういう類いの情報だ。
「ああ……いや、そのひどい態度だったよな……すまない315。だが、これには事情があって、俺は君の知るマスター・ブリードじゃあ……」
「推測もありますが把握しました。マスターのボディから不純物を検出。現住有機知性体の生命保存のため、ボディを共有、意識の主導を現住有機知性体が有している状況である、と」
「ああ、それで間違いないよ」
間違いじゃあないが、乗っ取ってる不純物呼ばわりは……ちょいとへこむな。だがちょっと待て、流しておけないひと言があったぞ。
「生命保存って言うのは? 俺……ボディを共有してる現住知性体がブリードのおかげで生かされてるって事か?」
「スキャンした結果はその通りです。ボディを共有することで損傷した心肺などの機能を補っています」
「じゃあつまりは俺は本当は死んでたも同然で、そこをブリードの慈悲でギリギリに生きてるって?」
「その瞬間のマスターの判断については明言出来ませんが、おおむね正しい見解です」
どうして誰も教えてくれなかったんだ。体を調べた事で分からなかったのか?
いや。先生も他のみんなも、悪意があって黙ってる事はないだろ。俺がショックを受けると思って、言わずにおいただけなのかもしれない。多分。
しかしなんにせよ、それを嘆いていたって俺の体が元通りになるワケじゃない。ショックはショックだが、脇に置いておこう。
「まあそんなワケで、俺はブリードとしては怪しいんだが、子どもたちを使ってまで呼び寄せた用件ってのは?」
「子どもたちを?」
俺の質問にレジスタンス315は要領を得ていない様子を見せる。が、そんな彼、彼か? とにかくホログラフの顔にアルテルとリュカが「レジ」と呼びかければ、納得の顔に変わる。
「助かりましたお二人とも。おかげで私もきちんと起動することができました」
感謝を受けて喜び合う二人だが、合わせて俺に送られた無音声のメッセージによれば、アルテルとリュカをメッセンジャーにしてしまったのは単なる偶然。半端に起動した際のメッセージと返答を居合わせた二人に拾われただけ、というのが真相なようだ。
そこのところを二人に知られないようにする辺り、この315っての設備管理プログラムどころじゃない空気読み力だ。
同時に俺の質問に対する答え、ブリードを呼び寄せた理由についての説明も合わせて送信されてきていた。
しかしそれについて話を進めようとしたところで、この部屋に警報が鳴り響く。
「……デモドリフトの反応を検知しました」
「リード!? あなたが今いる地点がデモドリフトに囲まれてるわ!」
天井を見上げた315と、それに遅れてユーレカ基地からの通信が敵の襲来を教えてくれる。
315の示した立体地図によれば、この遺跡を埋めた山、朽ちたトンネルの周囲にデモドリフトの兵隊が現れたようだ。このままでは俺を、というかお子さまらを追跡してくれてたチームが危ない。それにトンネルからここまで侵入されてしまう事だって。
「すまない、俺も迎撃に出る! ここでこの子達を匿ってやってくれないか!?」
守るべき対象を一箇所に固めるため、315にお子さま二人を任せよう。
「それには及びません」
しかし俺の判断に315はこのひと言を返すやノイズを強め始める。これと連動するかのように俺の立つ足場……遺跡そのものが揺れ始める。
「に、兄ちゃん!」
「なにを!? なにをするつもりなんだ!?」
「し、しし、し……心配する、る……事は、な……ない、いい……」
俺はすがり付く子どもたちをしっかと抱き留め膝をついて問いかける。するとこれに315は震えを強くしながら俺の頭にメッセージを。
「砲撃を!? 本気でか!?」
そしてついに一際大きな振動が足下から突き上げると、部屋のそこここに映像の窓が浮かぶ。
片手の指で足りる数のそれが映すのは外の景色だ。デモドリフトの機械兵とスカイの量産機が戦火を交えている光景だった。
「稼動可能なエネルギー砲……22%。ターゲット、デモドリフトに限定してロック……ファイア!」
その景色の中に光が走ったかと思いきや、デモドリフトの機械兵たちが爆散する。
この強引に地上に顔を出した315の遺跡による攻撃に、デモドリフト側の包囲にほつれが生じる。が、その直後に俺たちを激しい振動が襲うのだ。
「防壁の出力が不足……エネルギー砲、二基を損失。エネルギー配分を再構築」
「無茶は止せ! こんな状態で敵の前に出たところでまともな戦闘になるはずが無いだろう!?」
俺が子どもたちを抱えた頭上で淡々と読み上げられる現状に思わず叫んでしまう。
顔を出すなりの砲撃は、モニターの上では大戦果だった。だけれどもそもそもキャッチ出来ている映像がそれだけだからだ。実際のところは包囲網を幾分か削った程度でしかない。埋まっていた遺跡が起き抜けにやったにしては金星だろうが、これ以上はとても通じるはずがない。
「……マスター・ブリード。こちらを」
対してノイズを強めた315は床の一部を開いて筒状のものを押し上げさせる。
「なにこれ?」
「剣? 鉄砲?」
アルテルたちが首を傾げる通り、その筒に収まっていたのはどちらとも言い難いモノだ。
片刃の刃でありながら、その峰にあたる部位は強固に保護された銃身のよう。しかし握り手らしいパーツはなにもない。
それもそのはずだ。
俺は頭の中に浮かんだマニュアルに従って右手のブリードガンを筒に近づける。すると筒の中から飛び出したパーツは銃剣つき拳銃の先端に接続される。
「このブレードバレルを渡すため。その為だけに俺を呼び寄せて、こんな……?」
「まさか。お渡ししなくてはならないものはまだまだ。しかし、確実に欠けなく譲っている時間もありません」
振動により315が一層ノイズを強めると、突然の浮遊感が襲ってくる。このアンスロタロスのカプセルの並ぶ部屋そのものを脱出ポッドにして飛ばしたのか!?
「やるならやると言って……」
着地のショックから子どもたちを庇って、手荒い手段への抗議をしようとしたが、それは半ばで飲み込む事に。
空間に浮かんでいた315の顔、そしてモニターの数々が完全に消えてしまっていたからだ。
まさか、自分を囮に!?
その予感に俺は子どもたちをアンスロタロスの眠る脱出ポッドに置いて外へ。するとこちらにも手を伸ばしていたデモドリフト機械兵と鉢合わせに。
「何をするつもりだっ!!」
俺は目の前をふさいだ敵を一太刀。さらに近くに迫っていたモノを強力化した射撃で吹き飛ばす。
アルテルとリュカも、アイツが逃がした人たちも、コイツらに手出しされてたまるものかよ!




