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18:ぶちかませ、イクスブリード・シー!

「んなぁッ!?」


 俺の勝手な動きか、それとほぼ同時に足元を突き破って仕掛けてきた攻撃にか、クリスがすっとんきょうな声を上げる。

 しかし驚くこちらに敵は遠慮してはくれない。当然チャンスだとばかりに足元をめくり上げて俺を吹き飛ばしに。

 これに俺はスラスターを全開にして急速退避。しかし合わせて我に返ったクリスが槍を挟んで、柱のようなムカデの胴を受け流す。


「ありがとうリードくん!」


「こちらこそ!」


 言葉にして伝えもせず機体側の勝手な判断で動いた事を責められるかも。そうは思ったが、クリスから送られたのは感謝のひと言だ。

 しかし安心してもいられない。

 地面に潜って砲撃をしのいだオオムカデがすぐ側で巨体をうねらせているからだ。

 鎌首もたげた蛇のようにこちらをにらむ敵へ、クリスは踏ん張り直す間も惜しいと砲撃を見舞う。が、グソクムカデはずるりとその巨体を地中へ巻き戻してこれをかわす。


「厄介な!」


 また足元から襲いかかってくるだろう大物に、クリスは歯噛みする。

 まったくだ。こちらも必殺のつもりで組んだ待ち伏せの集中砲火だったのに、地中に逃げて奇襲まで仕掛けてくるとは。

 だけれどもさっきの一瞬で見えただけでも、ヤツのダメージは浅くない。それに来ると分かっているなら足下に集中していればいい。同じ手は食うか。

 そうして構えていれば、舗装路が割れて盛り上がる。あからさまなまでに見せたこの動きを、クリスは慌てて追いかける。


「狙いは博士か!?」


 退避した護衛チームに向かう動き。見せびらかしてくるからには、何か別の狙いもあるのかもしれない。だとしてもこれを放置はできない。してはいけないものだ。

 襲撃の足を止めるべく、前と俺たちとでの挟み撃ちの射撃。対してこれにグソクムカデが飛び出したのはこちら。そう、イクスブリード・ランドへ食いつきに来たんだ。

 クリスは誘いに備えて構えていた槍に、迫る大アゴを食いつかせて逆のランスカノンを突き入れトリガー!

 だけれども鋼のムカデはこのダメージにも噛みついたアゴを緩めず、切り離した後ろ半身の爆発を後押しにして俺たちを押し込んでくる。

 その行き先は海。敵の幹部が泳いでいて、しかもグソクムシ要素もあるこの敵の土俵でもある水中だ!


「そうは、させるか!」


 まずいと警告を鳴らす俺に対して、クリスの判断は早かった。

 押し込まれまいと踏ん張っていた四つ足で逆にジャンプ。

 そしてグンと上体が海方向へ持っていかれるのに合わせてスラスターで宙返り。蹴りと槍を叩き込んで、水中への押し込みを受け流す。

 巴投げの要領でグソクムカデだけを海に放ったクリスと共に、俺は機体をコントロール。四つ足で砂を巻き上げ着地。そこから照準も合わせずにランスカノンの連射を見舞う。

 沖で高々と上がる水飛沫にはやったか、と言いたくなる。が、多分持ちこたえているだろう。アレのしぶとさはもう嫌と言うほど思い知らされてるからな。

 そんな思いで残心緩めぬクリス身構えていれば案の定、細かな水柱を上げた飛翔体が。

 俺たち目掛けて迫るそれに、クリスは波打ち際に沿って走りながらランスカノンを連射モードで対空射撃。俺たちと陸地へのダメージを抑えようとする。

 その間にも海中のグソクムカデは、時おり水面に背中を出してはそこからおかわりのミサイルを寄越してくる。


「ええい! チマチマと!」


 その攻め口に、クリスは浮かび上がったミサイル発射口へランスカノンを放つ。が、グソクムカデはこちらの反撃を無視して悠々と泳ぎながらミサイルを降らせ続けている。


「やはり水中の相手にエネルギーカノンは難しいか……ッ!」


 悔しげに歯噛みしながらも、クリスは降り注ぐものを迎え撃ち、海中の敵へ光の槍を放ち続ける。だがやはり牽制以上のものにはならず、ミサイルの雨を止ませる事は出来ない。


「ルーナ! ここはシーイクスとブリードでの合体を! このままでは被害が広がる一方だわ!」


 母艦エキドナからの叫ぶような指示にあるように、海中で抑えにかかっている海戦隊にもダメージを負うものが。このままグソクムカデを仕留められずにいては、大きな犠牲が出ることになるのは火を見るより明らかだ。


「……ええい! 了解だ! 色々と気に入らないが、賭けるしかないか!!」


 不満を振り切る叫びと共に、レーダーマップには海中からこちらへ突っ込んでくる味方機の反応が。


「おいおい。合体なんかさせるなよ」


 水面を割って機体の上部を露にしたシーイクスの動きに、レッドプールの指示を受けたオオムカデがさせじと機体をうねらせる。


「ルーナの姐さんを守れ!」


「邪魔をさせてたまるかっての!!」


「お前ら、無理はするんじゃない! アタシに構わなくていい!」


 もちろんエースを守ろうって、海戦隊のメンバーも大物を阻もうとする。

 けれども激しく波を立たせたグソクムカデの動きに鈍りは無い。

 俺たちも黙ってお迎えを待ちだなんて、とてもいられない。だけれども水の上からのエネルギー砲じゃあやっぱりたいした援護にはなってない。

 どうするべきか。なにをすればちゃんとした援護になるのか。

 それを考えていると、不意に俺の体がケンタウロスのものから折りたたまれた車へ。それに戸惑う内に大きな戦車の上へと吐き出されていた。


「私が援護する。だからいくぞリードくん!」


「あ……ああ、わかった!」


 手足と頭を伸ばすや否やのこの台詞に、俺は反射的にうなずくしか無くて。直後に襲いかかる加速をとっさに車体の突起を掴むことで堪える羽目に。

 その一方で海戦隊の支援を突破していたグソクムカデの反応が、後ろからシーイクスに接触を。レーダー上のこの動きに俺が一瞬思い浮かべたのは最悪の状況だ。が、その直後には味方の反応が吹き飛ばされるみたいに海上方向へ。

 走ってくるそれに、俺はランドイクスを飛び降りダッシュ!

 すると飛沫を上げて飛び出したのは、装甲のあちこちを歪ませたシーイクスの巨体だ。

 飛沫と濡れた土を巻き上げて波打ち際を滑る潜水艇に、俺は追いつこうとスラスターと脚を動かす。一方でまた巨大な海蛇めいた機械のムカデが、打ち上げた鋼の鯨に確実なトドメをとばかりに海上に鎌首をもたげる。


「やらせるものかぁあッ!!」


 立ち上がったそれに空陸海の三方から攻撃が殺到する。が、その巨体は構わずにシーイクスへその大アゴを振り下ろしてきて。だから俺はその間に割り込むようにしてシーイクスに飛びつく。すると俺の機体は光に包まれて――いや、俺だけじゃない。シーイクスと俺とで合わせて光の中にいるんだ。

 そんな俺の思考を置き去りにしてブリードの機体は車の形に。そしてシーイクスが開けてくれたジョイントに飛び込めば、俺はまた大きな身体に意識を広げる事に。


「ハンッ! まったく、さんざんにやってくれたじゃあないかよッ!」


 そんな俺の中では、鋭い歯を剥き出しにしたルーナが重たげに腕を振り上げる。

 これに合わせて俺が腕を持ち上げれば、オオムカデのアゴを受けた潜水艇モードの機首部、大盾を着けたかのような腕が上がる。

 グソクムカデが大アゴを軋ませて、その重量を押し込むようにしてくる。けれども俺はびくともしない。まるでダメージを感じないのだ。


「覚悟は出来てんだろうな、このデカブツのスクラップが!!」


 鬱憤を込めてルーナが振るった逆の拳がオオムカデの顔面をその大アゴもろともに打ち砕く。

 大盾めいた腕の付け根は比較的細身な人の上半身で、しなやかに伸びた魚型の下半身と合わせて人魚めいた印象だ。が、そのパワーはランドにも劣らない。むしろ単純な膂力なら勝っている。


「ぶちかますぞ、リードぉ!!」


 イエス、マム!

 反射的にそう返してしまうような迫力で、ルーナはコックピットでドルフィンキック。水に満たされたコックピットでのこの動作に、俺もまた推進力の塊である下半身のパワーを全開。体当たりにグソクムカデを海中へ押し込む。

 そこからすかさずの魚雷連射。嵐のように放たれたそれはムカデの巨体を爆発とそれに伴う海流とでもみくちゃに。一方で魚雷嵐を巻き起こしたルーナと俺は乱れた流れをものともせずに敵の回りを泳ぎ回る。そして流されたグソクムカデが悶えるようにうねらせた巨体には、俺の両腕から伸びたアンカーチェーンが絡まっていて。

 この姿にルーナは不敵に笑うや身体をひと捌き。ぎゅんと伝わったパワーは長大な鋼のボディを振り回して渦を作る。そして振り回すのから解放してやれば、渦潮を山のように伸ばす形で海上へ。

 水中を土俵としながらも海水に囚われたその巨体を目掛けて、ルーナは力強いドルフィンキック。合わせて俺は巨大な腕を噛み合わせて突き出しながら敵へ突っ込む。

 わずかな抵抗だけを手応えに突き破った敵機を後方に確認すれば、そこには風穴からねじれて爆散する様が。


「よっしよーし、どうよ!? ざまあみろってんだ!!」


 大物を仕止めたことにガッツポーズを取るルーナ。これには動きを重ねる俺も、あがってくるものがあった。

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