15:スペース的には適材かもだけれど
起動していた機械兵十機足らず。
それが俺たちが遺跡内部に到着するまでに排除した敵の数だ。
「妙に少ない、よな?」
「いや、従来なら大規模ゲートの発生でもなければこんなものだよ。今回のような予兆が出た程度の反応ならね」
「ブリードは大事になったのしか知らないからな」
「なーるほど。これで従来どおり、ね」
妙と言うような事はない。そう言うクリスとファルに返しながら、俺はランドイクスから降りて破られた検問をまたぐ。
「もっとも、あんな侵略勢力の幹部なんていうのが出てきていて、機械兵も今までに無い統率された動きをしてる。これまでの感覚が通じるはずは無いけれども」
「そりゃあそうだ」
後ろで遺跡の外を警戒しながらのクリスの言葉に、俺はうなずきながら暗くなった機械遺跡の中へライフルと目の光を向ける。
「そんなワケだから、アタシたち海戦隊で海側を見張る。気を抜くんじゃないよ」
「ああ、ありがとうルーナも気をつけて」
「ハンッ! 自爆クセ持ちのド新人に心配されるこっちゃないさ。生き残るにはビビリなくらいでちょうどいいんだ」
ルーナが軽口を残して通信を終えたのを受けて、俺は改めて遺跡の中へ踏み込む。
金属で覆われた壁に囲まれた通路は、遺跡そのものが傾いているのか、緩い下り坂になっている。そんな空間の中には、機械兵の暴れた後なのか、破壊された機械が散乱している。しかしそれ以外には何もなく、火花の弾ける音が響くほどに静まり返っている。とりあえず近くにまだ潜んでいるということは無さそうだ。
「避難はすでに終わっているって話だったよな?」
「ああ、最初にゲートの活性反応が観測された段階からすでに常在の調査員は退避を初めて、機械兵が起動したのを確認したのは外部からだからね」
生存者を探す必要も無し。一段気構えを解く事実を確認しながら、俺は後ろへ合図を送る。すると護衛対象とそれを前後でサンドイッチにした小型の戦車が入ってくる。
そしてわずかな光の灯った壁に横付けになると、真ん中の車からべたりとした足音を立てて降りる者が。
「ふむ。暴走しているとはいえ、もう少し無駄な損傷を出さずにはおれんものか……」
ずんぐりとした人影、護衛対象であるDr.ウェイドはぼやきながら壁に手持ちの機械を繋ぐと、画面の上でにツイツイタプタプと指を動かしていく。やがて吸い出したデータを立体ホログラフとして映し出す。
「ちと破損していたが、どうにかなったか。さて、観測地点は……なるほどこれか」
博士が水かきのある手で指さしたのはホログラフマップの下部だ。上の方に出ているマーカーが現在地だとするなら、相当奥の方になるな。
やたらに質問するのもどうかな。しかし、俺どころか調査補助や護衛メンバーの命にも関わる事だし。ここは意を決して。
「そこには何があるのですか?」
「んん? お、おお、さすがに現物、現場を見てみない事には何ともな……何かしらエネルギーを発する物の暴走、ではないかと予想はするが」
しゃがみこんで問い掛ける俺を見上げて、博士はその巨大な目玉をさらに見開きながら推測を答えてくれる。
しまった。驚かせちゃったよな。今の俺、いくら姿勢を下げてもデカイんだもんな。ゆっくりと後退りに距離を開けて立ち上がる。
「では、調べに行かないとですね。安全を確保しながら進みますから、ナビをお願いします」
「うむ、承知した。マップに出されていない異常もあるかも知れんが、そこは容赦願うぞ」
「もちろんです。では、安全確認出来たら合図を送りますから、そちらからも必要があったら待ったの合図を」
そう言って俺はそそくさと遺跡の奥に続く道を進む。驚かせたのが気まずかったというのはもちろんある。だけれど、俺を見上げてくるギョロギョロした目がなんとなく居心地悪くて、それからすぐにでも逃げたかったんだ。
なんというか、俺の事を探ってるみたいな?
中身はどうなってるのか。それも融合状態で分解したらどうなってるのか。それを知りたくてたまらないって風な。そんな目から。
そりゃあまあ、超文明の解析実用化の権威なんだから、俺……っていうかブリードみたいな実例をみたら好奇心が刺激されるのは自然なことだし。だからこそってところもあるだろ。でもなあ「お前を、解剖……いやいや分解したい」みたいな目で見られる側としちゃたまったもんじゃないって。
「縦穴か」
そんな風に内心でぼやきながらもクリアリングを続けて進んでいたら、大きな縦穴に行き着いた。まあ、遺跡の傾きのせいで完璧な直角じゃあ無いんだけれども。
「ここを降りないと行けないのか」
「うむ。他のルートは潰れてしまっていたからな。復旧できるまではここを使うしかあるまい」
そんな時間は無いんだよな。
ゲート生成を誘発してるのが何かを調査して、それに対処するために来たんだからさ。それに……。
「こちらエキドナ。またいつゲートが開くか分からない状態で工事をするのは無理があります。ここはブリードと博士で降りて頂きたいと思いますが、よろしいですか?」
まあそうなるよね。暴走機械にいつ襲われるかも分からない。それじゃあ埒があかないってもんだ。こういう判断をするよ。
現場からの意見を聞くんじゃなく上の判断の確認って感じのこの通信に、俺は一応改めて縦穴を覗いてみる。
スキャンしてみた感じ、俺の中のブリードの部分は行けるって言ってきてるな。
「計算上は無事に降りれますよ。まあトラブル無しならですが」
「行けるのなら行くしか無いだろう。ではよろしく頼むよ」
俺の言うことにウェイド博士はやれやれって感じで、移動用の車から俺のところまでぺったんぺったんと。
そんな博士を片腕に抱えた俺は護衛車両から命綱になるワイヤーアンカーの先端を受け取る。
あーあ。こりゃあ責任重大だぞ……っと、おどけでもしなきゃやってらんないよな。
なんて意を決して飛び降りた俺はスラスターを噴かして勢いを殺しつつ穴を下へ下へ。やがて対面の壁にぶつかると、それを急傾斜の坂道として足をかけて滑り降りる。
そうして縦穴を滑走しきった先の目的地。俺の正面には光を灯した機械が。
「おお、これか」
今すぐ取りついて調べたいと手を伸ばすウェイド博士に、俺は手早く周囲のクリアリングを済ませる。
着地の瞬間を外した以上は待ち伏せはいない。そうも思うが、そこの油断を狙ってないとも限らない。要人を抱えているからには確実に。と、気を抜かずの安全確認を終えてから片膝をついて博士を下ろそうと――したのだが、当の博士はそれすらももどかしいとばかりにジャンプ。べたりと手足を着くなりに光る機械へ跳ぶ。
そのまま機械に張り付くようにして調べ出した博士を置いておいて、俺は辺りの警戒を続ける。
「それで、それがゲートを作る装置なんです?」
「いやこれ事態にはそんな機能は無さそうだ。向こうから干渉するためのポイントになっている、というのが実際のところだろうな」
俺の質問に博士は早口に解説をしてくれる。なるほど、その外からも見えているパーツがゲート向こうからの目印になってるってことか。
「ならその部品を外して機械を止めたら良いと思っていいんですか?」
「だろうな。まあこの機械そのものが遺跡の重大なパーツということもない。外して止めてしまうに問題は無いだろう。持ち帰って調べればまた何か分かるかもしれん」
博士はそう言うが、俺としてはいっそ破壊してしまった方が良いと思うのだけれど。素人の俺にはそれがどれほど貴重なものなのかは分からない。が、侵略者の足がかりを残すほどの価値があるのか?
そんな抱えたライフルを構えたくなる衝動を抑えていると、不意に頭の中に警告音が!
「ブリード逃げろ! 敵幹部の水中型が来てる!」
続いてルーナの通信が届くが早いか、俺の立つ足場が爆音に揺さぶられたんだ。




