14:もうド素人とは名乗れないよな
「いやぁ、今日も負けたなぁ……」
「確かに結果としてはそうかも知れない! 負けかも知れない……が、着実に良くなっているぞ!」
「うん。チームとして連携が機能するようになってきているぞ!」
今日もVRシミュレータでのトレーニングを終えてブリード分離した俺に、クリスとファルからの熱烈なフォローが。
さすがに数日訓練を積んできて、初日の……いや暴走して割り込んだ初戦闘に比べれば改善もされてる事だろう。
それでもまだまだ足りないところだらけなのは自覚がある。でなければ俺が加わったチームが負けに偏るはずもない。現に足を引っ張っているのに、スカウトされたての素人なんだから、と気を使わせてしまってるのだろうから申し訳なくなるな。
「クリスにファルもありがとうな。でもまあいい加減おんぶにだっこなのは機体のサイズだけにしときたいんだけれどな……」
「それよりもアンタはまず直さなきゃならないところがあるだろうが」
二人の気づかいを無駄にするのも嫌だから素直に礼を言うと、横からトゲついた声が割り込んでくる。
長くて広いヒレ足をペタペタと鳴らしながら歩いてくるのはルーナだ。ギザ歯を剥いたシャチ娘はそのまま俺の胸に掴んだタブレットを突きつける。
「ここと、こことここ。後ここも! こんな数セットの模擬戦で、ドンだけ自爆なり特攻仕掛けてんだッ!?」
射貫くような鋭い目で俺の目を覗き込んでくるルーナ。俺はついその圧に負けてクリスとファルの方向に視線を逃がす。
すると二人は困ったように腕組み翼組みうめくばかり。どうやらこの点に関してはクリスたちもルーナと同感で、擁護不能と言うことらしい。そうして俺が孤立無援を悟ると同時に、首をぐきりと捻られて強引に正面へ。シャチ娘からは逃げられない、というわけだ。
「アンタの捨て身でチームの勝ちに傾いた事もあるとか、そういうのは言わせないよ。その一戦は良くても、それから先が無くなるって分かってんの?」
ギリギリと掴まれたアゴが軋んでる。
そうは言われても、模擬戦の間は無我夢中で、勝つために俺を切ればいいなと思ったらやっちまってたワケで。
それにもし新参の俺がいなくなっても、それは元に戻るだけなワケだし。安いもんだよなとも思うんだよな。
でもコレ、言ったら余計に怒られるよなあ。それに説明しようにも、アゴ掴まれてて喋ろうにもな……。
けれどルーナはそんな俺の考えなんてお見通しなのか、舌打ちひとつして俺の顔を放り出す。
「そんな性根のまんまじゃアタシはアンタに命を預ける気にゃならないよ! 合体だってお断りだ!」
「そうは言ってもルーナ、上から必要だって言われたらやるしかないんじゃないか?」
「ファル。だとしても、それならアタシら海戦隊で片付けた方がマシだと思うがね。勝手に自爆するしかねえって特攻かけられちゃたまんないよ。ムダ死にさせられる気は無いっての」
それはそう。だけれど合体状態では俺が動かしてるワケじゃ無いんだがな。イクスブリード・ランドではクリスの動きに従って、俺も力を合わせてる感じっていうのか? まあとにかく補助してるだけの感覚なんだよな。
まあこれを言っても、そう言う問題じゃないって叱られるだけなんだが。
ルーナはファルからもう一度俺の顔に視線を戻すと、鼻を鳴らして背を向けてしまう。
そのまま立ち去る彼女の背を見送って、クリスは悩ましげにこめかみを揉む。
「ルーナも……もう少し態度を柔らかくしてくれたらいいんだが……明日にはもう活性反応のある遺跡の調査に行かなくてはならないのに」
「すまない。俺がもっと上手くやれていたら、こんなにギスギスしなくても良かったんだろうが」
「いや、生来の気質を変えるのは難しいことさ。それでもと、得た力を私たちと皆のために使おうとしてくれるリードくんの気持ちは素晴らしいと思っているよ」
「別にそんな、大それたもんじゃあ無いさ」
そうだ。クリスはこう言ってくれるが、俺はたいした奴なんかじゃない。
行き場も無いし、だったら俺に身についた力を必要だって言ってくれる人たちに寄りかかってる。それだけの、そんな情けない奴だ。
「戦いなんて考えたことも無かったのに、力になろうとしてくれてる。それだけで充分たいしたものだよ」
けれどもクリスは変わること無く俺にフォローを。それに倣うようにファルもうんうんとうなずいて謙遜せずに胸を張るように言ってくれる。
こう言ってくれる二人のためにも、俺は俺に出来る事を尽くして報いなくちゃな。
そう思って翌日。話にあった反応のある遺跡に俺は出撃メンバーとして出発していた。そして今はブリードになってランドイクスの上に載せられている。
着水、接岸したエキドナからランドイクスが上陸。その振動に揺られながら、俺は半分海水に沈んだ機械の塔を眺める。
「辺りの様子はどうだい、ブリード」
「敵影無し。地中のスキャンでも潜伏、トラップは確認できない」
載せられてると言ってもこの通り、俺もただ運ばれてるワケじゃない。
ランドイクスの死角に潜んでいるだろう敵による奇襲の排除や、ランドイクスには不向きながら俺の小回りの良さが必要な相手に対応するためのロボサイズでのタンクデサントなんだ。
「特に水辺……水中じゃあ散々に海戦隊の伏兵にしてやられたもんなあ……」
「自分を囮に使って釣ってきたり、乗らなきゃジリ貧の状況に追い込まれたり、ルーナは本当に容赦無かったからな」
クリスですらげんなりとした声を漏らすように、シミュレータ上で合体する間も無く叩きのめされた事はもう骨身に……今はフレームにとでも言うべきか? まあとにかく染み付くほどに思い知らされてる。俺は気を抜かずにランドイクスのスキャナーの死角を埋めつつ、銃を構える。
銃、と言っても俺ことブリードが下脚部に格納してるブリードガンじゃあない。俺サイズに拵えられたアサルトライフルだ。
量産ビークル用の実弾型機銃を流用、改造したこれは威力調整こそ利かないが、ブリードガンよりもずっと弾数が多い。射程距離こそ大差ないが、ブリードガンをまだ上手く二丁同時に扱えない俺にはこっちの方が都合がいいまである。
「なんの。同時撃ちで的に当てる事は出来ているじゃないか」
「で、実戦は鴨撃ちじゃあ無いんだぞってルーナにどやされるのがいつものパターンだよな、ファル」
右にも左にも持った状態でカートリッジの交換をしたり、ブレードを使った近接への切り替えにはまだまだもたつくっていうのが俺の現実だからな。狙って引き金を引くだけの使いやすい銃を用意してもらったのはありがたい。メカマンの手間を思うと申し訳ないのだが。
「おうおう。ヒトを出汁にしたムダ話で盛り上がってるようだが、護衛がいるってこと忘れてんじゃ無いだろうね?」
もちろんだと急いでルーナに返す俺たちだが、その顔はひきつっていただろうな。
ルーナにツッコまれた通り、俺が一応警戒をしていたのはこの場に出ているのが戦力だけじゃないからだ。
俺が載っかったランドイクスの後ろ。護衛の車両に囲まれた一台の装甲車。それが今回同行を希望したゲストを乗せたものだ。
「我々のビークルも世話になっている超文明研究の権威だからな。万一の事もあってはいけないな」
クリスが気合を入れ直すほどの大人物だけあって、俺でもニュースで見たとすぐに思い出せるような有名人。それが今回のゲストDr.ウェイドだ。まあ、あの魚とカエルを合わせたみたいな顔は、一度見たらまず見間違えないだろうけれども。
しかしあの博士、ニュース以外でもどこかで見たことがあるような気がするんだけれど……まあ気のせいだろうな。こんな勘違いで戦闘メンバーを混乱させたくもない。黙って調査隊護衛の任務に集中だ。




