13:決闘の仮想空間
「決闘まがいのを仕掛けると!? そんなことが認められるものかッ!」
ルーナの宣言を跳ね返そうと動き出すクリスのランドイクス。
しかしその鼻先にミサイルが通せんぼに降り注ぐ。
見ればファルのスカイイクス側にも大量のミサイルが殺到している。
「海戦隊からの?! VRに勝手に乗り込んできて!?」
「ルーナ! 独断専行が過ぎるわ! 副司令からは基本と合体連携を主眼とした訓練を第一にって……」
「アンタらがどう言おうが、アタシは納得出来ないね! ド素人を戦いに駆り出そうってのに、こんなぬるいトレーニングじゃ身につく前に死んじまうだろうに!?」
そう言うが早いか、ルーナの駆るシーイクスが、俺に向かって突っ込んできた!
目の前に迫ってきた青い壁に、慌てて横っ飛び。建物の陰に滑り入る。
背中を叩く破片の勢いから、体当たりの威力が良く分かる。
「これ、本気かよ!?」
「あったり前だろう、が!!」
叫びを掻き消すような爆発が、俺の尻を炙って顔面を正面の建物に押しつけさせる。
魚雷でも溢したのかよ。デタラメな!
殺意まで感じる本気度合いの攻撃に舌を巻きながら、俺はまだ使ってないブリードガンを抜いてマグナムショット建物を吹き飛ばして逃げ道を作る。
「ライエ副長官! ルーナを止めて下さい。こんなの訓練ではありません!」
「処分なら後にしてくんな! この程度の模擬戦で尻尾巻いて逃げるなら、その方がコイツのためってもんさ!!」
「模擬戦の必要は認めるが、割り込むようなマネは認め……」
「いや、やりますよ。このまま、模擬戦」
「リードくん!?」
止めに入ってくれるライエ副長官をはじめ、みんなには悪いけど、ここはこのままやらせてもらう。
「これ、ルーナに味方してるの皆が納得してないんでしょ? ならここで止めたって、結局また爆発しますって」
先送りにして、もっとひどいタイミングで爆発したら目も当てられない。ならここは流れに乗っておく方がまだマシだ。
俺がホントにトラウマ抱えたところで、結局素人の手が無くなるだけなんだし。
「リードくん……」
「……流されて適当に返事しやがって……そういうところが気に食わないんだよッ!!」
そんな俺の内心を見透かしてか、ルーナは鋭い顔を獰猛に歪める。
その憤りの度合いは俺に迫る破壊音からもバッチリ伝わってくる。
さてやると決めたからには真面目にやらなきゃだ。
ルーナの乗ってるシーイクスはブリードの俺よりもずっとデカイ。ランドイクスと同じくらいはあるか? その分当然パワーも堅さも何もかもが向こうの方が上だ。だから小回りが利いて、盾に出来るモノが多いって事を活かして立ち回る。これしかないだろ。
模擬戦を受ける返事と合わせて出していたカートリッジ。この備えを片手に俺は建物の隙間からシーイクスへマグナムショット!
カートリッジの残りエネルギーを費やしたこの弾丸は、しかしシーイクスに届く前に瓦礫とぶつかって散らされてしまう。
「そこかぁ!!」
その結果を見て俺が大急ぎで身を隠すと、俺が狙撃に立っていた場所な何かが突き刺さる。
アンカー……錨か?
リロードしながら振り向き見たそれは、太く頑丈そうなワイヤーに繋がれた鉄杭だ。
そのワイヤーがビンと張ったかと思いきや、突き刺さった地面が膨れ上がる。
ヤバイと思ったのも束の間、俺の足元にまで亀裂が走って持ち上げられた。
「うおおおおッ!?」
転がるようにして逃げ出そうとするも、あえなく足元ごと巻き上げられて宙へ持っていかれてしまう。
宙返りさせられた中、スラスターでどうにかバランスを取り戻した頃にはすでにシーイクスの巨体がすぐ目の前に。
これに俺は向けていた銃を乱射。六発全部を吐き出して我に返った瞬間には、弾丸を跳ね返した青い装甲に撥ね飛ばされていた。
うめき声をこぼして宙に流された俺に、また重い衝撃が叩きつけてくる。頭の中で建築物との衝突と推定とか出てくる。けどそんなの次の衝撃といっしょにノイズに飲まれて意味が無い。一際大きなダメージを締めにラッシュが止まった時には、俺は路面のアスファルトに埋め込まれてしまっていた。
「無理に立ち上がろうなんて考えんじゃないよ。これはシミュレータだからその程度だけれど、マジの戦いになったらこんなもんじゃないんだ」
上空から俺を見下ろすシーイクスがギブアップギブアップを勧めてくる。
ああ、アンカーの先に付いてる瓦礫。アレでしこたまに殴られたのか。
ああまったく。なんでこんなに冷静に見れるのか。この痛みも、決着の一撃を控えた相手の姿も、まるっきり他人事みたいで。らしくないな。それとも、こういう時は俺みたいなのでも案外に頭が冷えるもんなのか。
「もう分かっただろ? ほんの数秒良いのをもらっただけでこんなんなんだ。死に急ぐこったないっての」
俺の打ちのめされぶりを空気も読めずに飛び込んだ素人のだと評しながら、冷徹な口ぶりを装ったその言葉の奥には優しさがあって。それが見えるくらいに冷えた頭になってる俺だから、見えたものがある。
「……ハハッ……やっぱ、優しいんだな、ルーナは……」
「ああッ?! 舐めた口きいてんじゃないっての!!」
シーイクス越しにルーナが凄む。けれどギブアップ待ちの姿勢に変わりはない。
だから俺は降参せずに飛び出した。
「それで不意打ちしたつもりかっての!!」
それに合わせてルーナは重石を着けたアンカーを振り回して迎え撃ちに。それは当然狙い済ましたかのように直撃コースだ。それはそう。俺の降参待ちでも油断なく構えてたルーナなんだから、そうなるさ。
だから俺は迫る凶器を逆らわずに受ける。
けれど、逆らわないのは受けるところまでだ。
殴り飛ばそうとしてくる瓦礫のハンマーに機体を引っかけた俺は、振り子の要領でそのままシーイクスの上へ。そこでスラスターを全開に青い船体に飛び乗る。
「そんな!? アンタにそんな捨て身のマネが!?」
だよね。まさか俺がダメージ覚悟でやるなんて思ってなかったよね。
「ああ、こんなこと思いついてもやるだなんて、俺だってビックリだ」
まあでも、お前には無理だから下がってろっていう優しさには、逆らってみたくなっちゃったからさ。仕方ないよな!
そんな思いをぶつけるように、俺はブリードガンの銃剣をシーイクスの装甲へ突き立てる。当然普通にやっては刺さらないだろう。けれど満タンのカートリッジを間に挟んだらどうかな?
エネルギー弾六発分のパワー。それが俺とシーイクスとの間で暴れる。この威力に俺の機体は弾き飛ばされてまたふわりと。だけれどそんな浮遊感はほんの一瞬。重たい衝撃が俺の体を吹き飛ばす。そして固いものにめり込んだ俺を、もっと重いのがダメ押しに押し潰してきた。
崩れる建物を貫いて飛んだ俺は、また硬い硬い舗装路に投げ出される。そんな俺の顔の横に、また鋭いものが突き刺さった。それはシーイクスのアンカーの先端。凶器を掴んで殴り付けてくるルーナの腕だ。
「……正直アンタを見くびってた。そこんトコは認める。だけどね、安直に自爆をやってるようならそこまで。そんな覚悟で出てこられちゃこっちは迷惑なんだよ。アンタの捨て鉢に誰かを巻き込むんじゃないっての」
「……ははは……まさか。そんな事出来るはず無いじゃないか。これもVRだからやれただけで、こんなの本番じゃ人や貴重な機体を潰すのが怖くて出来やしないって」
ちょっとくらいは緩まないかな。それくらいは期待して冗談っぽく言ってみた。けれどシーイクスの中のルーナは俺の返しに口ごもると、舌打ちだけを残してVRフィールドからいなくなる。
「リードくん! 大丈夫か!?」
「あんなにボコボコにされて、目を回していないか?」
そこへ海戦隊の足止めを抜けたのか、クリスとファルの機体が俺のそばに。
二人を心配させるワケにはいかないから、俺はすぐに立ち上がって手を振って見せる。
「見た目ほどは酷くないよ。ルーナも手加減してくれてたみたいでさ」
「それなら良いが……」
大事じゃないってアピールに、ランドイクスとスカイイクスからホッとした雰囲気が。だけれどそれに続いて、不安そうな空気も。
「……なあ、さっきのは本気で言っているのか?」
「何か潰してはいけないモノが抜けてはいないか?」
二人にしてはやけに歯切れが悪い聞き方をする。その事に首を傾げながら、俺は大事なモノが抜けていた事に気がついた。
「ああ、そうだな。町とか守らなきゃならないもの、巻き込んじゃいけないよな」
だけれどこの答えはお気に召さなかったようで、二人とも黙り込んでしまった。
何がいけなかったんだろうな。




