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12:まずはシミュレータで色々と

「これは……すごいな」


 ブリードになった俺は辺りに並ぶビルを眺めて思わず感動の声を上げる。

 そうして硬くて重い足音を立てて舗装路を歩く俺を狙って、建物の陰から飛び出すモノが。

 これに俺は両手で包むように握ったブリードガンを発射。三連発のエネルギー弾を撃ち込む。

 これで倒れるヒト型の陰からまた別の躍りかかって。俺の脳天を狙って落ちてくる刃物を、俺はバックステップに回避。目の前に降り立った襲撃者へ三連射を浴びせる。しかし一息つく間もなく左手から新手が。とっさに左腕をかざして刃物を持つ敵の腕をブロック。その胸元にブリードガンの銃剣を突き入れトリガー!

 しかしなにも起こらなかった。

 しまった、ブリードガンの装弾数は基本六発。リロードを……!

 このミスに乗って敵は刺されたボディを構わず押し込んで俺に刃を突き刺しに……と、同時にその体が光に包まれ弾け飛ぶ。

 至近の爆発に俺は逆らわずに吹き飛ばされる。そうして転がった先で建物に受け止められる形になる。


「す、すまないッ! 絞って撃ったのだが……こんなにも威力が上がっているのかッ?!」


「間違いないよ。ランドイクスとは繋がってるワケだし、実機のデータがダイレクトに入ってるんだから!」


「エネルギー配分の調節し直しか……本当にすまないリードくん!」


「いや、大丈夫……そもそもが俺の立ち回りがマズかったからだし……実戦というか、実機で演習してる時でなくて良かったよ」


 焦った詫びの声を投げてくるランドイクスに、俺は手を振って見せる。

 今言った通り、この鋼のボディも、援護砲撃してくれたランドイクスも、この街並みも本物じゃあない。

 その証拠だとばかりに、倒れた敵の残骸は光になって分解されていく。

 ここはVRシミュレータの中。バトルシミュレーションのために構築されたデータ上の演習場だ。


「しかし、本当にリアルだな。小突いてしまった程度の建物のダメージまで出てきてるぞ」


「これもブリードのおかげよ。実機、実戦同然のシミュレーションができるまでアップデートが出来たのは」


「はー……ブリードに入ってたデータってすごいですね。でも使えるようにした人の方を評価するべきだと思いますよ、アーシュラさん」


 頭の中に直接浮かんだメッセージ。そこに映った三対の眼を持つ美女は蜘蛛人のオペレーターであるアーシュラさんだ。

 画面外に二対の腕を伸ばした彼女はこのユーレカ基地のメインオペレーターで、エキドナに乗って戦場でのオペレーションも担当している。それで今はこのVRのバトルフィールドを管理してくれているというわけだ。

 そんな彼女は俺の頭の中の通信ウインドウで一瞬微妙な顔を見せた。が、すぐに笑顔でうなずき返してくる。


「ありがとうございます。それでは、シミュレータ上での合体と、その性能試験に移ります。まずはイクスブリード・ランドから……」


「うん? 未知数のスカイからじゃあないのか?」


 アーシュラさんがシミュレーションを進行しようとしたところで、遠目に現れた赤の飛行機といっしょにファルが通信ウインドウを開いて割り込んでくる。


「それも案としてはあったんですが、経験したランドと違って、スカイとシーには内部に合体機構のデータすら見つかっていません。なのでまずはランドから。戦闘中に計測されたデータとの差異を調べていこうと」


「そういうわけだ、ファル。ここは先手を譲ってもらうぞ?」


「そういう事情ならわかった。こちらと合体可能かどうかはちゃんと調べてくれるのだろう?」


「それはもちろん。出来るだろうで実戦でいきなりにというのはあまりにも危険ですから」


 アーシュラさんの返事にファルは納得したと引き下がる。

 最前線メンバーとして、戦力が増すなら色々期待するモノなんだろうが、どうもファルの期待はシンプルな好奇心からのような気がするな。


「ともあれ、合体か。これで先のがまぐれでございじゃシャレにならないしな」


「ハッハッハッそうはならんだろう。一度出来ているんだぞ?」


「あの時は必死の無我夢中だったからね。どうやったかなんて覚えてないんだからどうなるやらだよ」


 クリスの楽観に苦笑を返して、俺は道路の先で待ち構えるランドイクスに向けて走り出す。

 ああ言いはしたが、やる気になれば頭の中に手順が浮かんでくる。やはり気持ち悪い感覚だけれども気にしている場合じゃない。

 重々しい足音を鳴らしてのダッシュからカーモードへチェンジ。こちらへ尻を向けた巨大戦車へスラスターを吹かして飛び込む。

 展開した砲塔部後ろ。そこへ車型の俺がすぽりと。ロックされると同時にランドイクスに接続。意識が巨体に広がっていく。


「クロスライズッ!!」


 俺の中にいるクリスが腕に纏わせた操縦桿を振りかざすと、俺と一体化した巨大戦車のボディが開き出す。

 無限軌道を備えた車体部が、四つ脚の馬体に。

 鎧を纏ったそれが大地を踏みしめ立ち上がるのに合わせ、砲塔部が起き上がる。

 二本の結晶質の大砲を槍として、その基部が二本の腕に。折り畳まれたフレームが背すじを伸ばすように立ち上がり、装甲を組み換えてヒト型の上体へと変わる。

 二つの眼を輝かせたこの頭は兜を被った騎士にも似ていて、操り手であるクリスが全身鎧を着込んだ姿を巨大化させたかのようだ。

 うん。やっぱりこの形態になると不思議なほどに冷静になるな。主導権が中で構える彼女になるからだろうか?


「イクスブリード・ランド。シミュレータ上での合体完了。格納庫。シミュレータと接続した本体の様子は?」


 連動して変形していたりせず異状無し。

 アーシュラさんの確認に対する回答に、俺としては改めてホッとさせられた。

 フルダイブ状態であるとはいえ、俺の体はブリードそのものになってるワケだ。体の方がドタバタ動いて繋いでる機材を蹴散らしてたらと思うと、合体状態だのに冷や汗が溢れたような嫌な冷たさがある。


「リードくん? 行けるかい?」


「ああ、問題ないよ。いつでもやってくれ」


 クリスに声をかけられて、俺は内心慌てながらも努めていつも通りを装って返事する。

 余所事考えてたのも、合体するなり普段と違いすぎる風になっているのを見せてしまうのもマズイからな。

 それが上手く行っているのか、クリスは良しとうなずいて操縦桿を構え直す。


「というわけで、アーシュラさん。いつでもどうぞ!」


「了解。トレーニングプログラム、スタート!」


 その合図と同時に、空に赤から青に変わる信号が。これにコンマで続いたタイミングでクリスは蹄をランナーに食い込ませた!

 これに倣って動いた俺の足はシミュレータの舗装路を蹴って機体を一気に全身させる。

 この勢いに乗せてクリスが右腕を振るえば、俺の右ランスカノンが飛び出したエネミーをなぎ払う。合わせてのトリガーで、その奥から射撃を仕掛けようとしていたターゲットも打ち砕いて。


「ひとつ、ふたつ!」


 その間に現れた射撃部隊からの砲撃に、しかしクリスは振り切るではなく、その場に脚を止めて防御姿勢に。これはなるほど、町中ステージということで建物へのダメージを気にしたからか。


「イクスブリード、ダメージは確認できず」


「クリスの守りあってのモノですけれどね」


 アーシュラさんはそう言うが、装甲の厚い所を動かしての受けや、低出力弾での相殺。これらを上手く利用したクリスの技術あってのモノだ。俺自身も実際小突かれてる程度にしか感じてはいないが、実戦ではどう響くのやら。

 そんな先の事を考えている内に、クリスは町を砲撃から守りつつ、ターゲットを仕留めてみせていた。


「なるほどなるほど。防御性能にメインのランスカノンとサブバルカンの有効射程距離、基本出力はこんなものと……後は実機との比較検証として、そろそろ別の合体パターンを探って見ようかしら」


「物足りないが、そちらも大切だからね。了解したよ」


 クリスの了承を受けてイクスブリード・ランドから排出される俺。

 少し疲れた感じもあるが、まだまだやれる。そう伝えようとしたところで、俺の足元で爆発が。


「ちょ!? なにをするルーナ! 今度はわたしの番のはず!」


「温いんだよ。素人に相手にしても……いや、だからこそ甘すぎ! 気に入らないね!」


 そう言って俺を見下ろす青の潜水艦から感じる圧力は、俺を本気で押し潰そうとしてる。そんなものものしさをひしひしと感じさせてきた。

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