100:俺たちにはこれからがある
およそ千二百年前。それから中断していた侵略を再開したデモドリフトと、これに対応して復活したレジスタンス、ブリードを加えた防衛隊「門武守機甲」との激突。
惑星デモドリフトへの遠征戦からしばらく。新たなゲートの発生は確認されておらず、世の人々は勝利からの復興に沸いていた。
デモドリフトの侵略、加えてそれに呼応してしまった人間の過ち。これがいくつもの都市が滅ぼし、そこに生きていた人々の命もまた奪っていった。そうして失われたモノを埋めて行こうというように、生き残った者たちは壊れたマシンが横たわる大地の上で住処の再建をはじめ、精力的に働いていた。
「おーいブリードの兄さん! こいつも頼むわ!」
「ああ、任せてくれ!」
その復興に俺ことリードももちろん、一体化したブリードの体をおおいに活用してる。
瓦礫やら建材やら。それを重機よりも柔軟に運んだり組み立てたり、デカイ人型である事をフル活用だ。
最後の戦いでイクスブリード・ドラゴンを構成してたイクスビークルは無くしたけれども、この俺のもう一つの機体が残せて良かったよ。おかげで門武守機甲での俺の仕事もまだまだあるからな。
ああ。門武守機甲は存続してる。デモドリフトを討ち取ったのだから、この侵略に対する防衛チームはもう必要無いという意見はたしかにあった。侵略をはね除けた、超文明の遺産に由来する武力が新たな火種にならないとも限らないとね。
だけれどもこの星にはまだデモドリフト由来の遺跡が眠っている可能性がある。それに世界の壁を越えてやってくる侵略者も、デモドリフトが存在した以上あれが唯一無二だとは限らない。
そして俺たちのユーレカをはじめとして、門武守機甲自身も戦いで多くを失ってはいるものの、復興を支える力になることに変わりはない。
だから終戦即座にの解体ではなく、こうして投げられた仕事に勤しんでるってワケだ。
しかし門武守機甲がこのまま存続するはずはなく、いずれ規模を縮めるなどして別の形で再編される事になるだろう。っていうのがライエ副長官やレグルス長官の見立てだけれども。
それはそれで自然な事だ。組織だって何だっていつまでも変わらずに存続し続けることの方が不自然だ。使命を果たして、小さくても継承される形になるなら終わり方としてはずいぶんとマシな部類だろう。
そこに所属してた人間の今後の人生。それをを路頭をさ迷わせたものにしない受け皿になってくれるんだろうから。
今後のって言えば、長官と副長官は復興の目処が立ち次第に役職を辞する事になるらしい。
これは成層圏のゲート装置が俺たちの帰還の際に壊れた責任を問われてって訳じゃあない。最初はそのタイミングでドラゴンで壊してしまえって計画だったけれども、実際には決着がついた時の余波で潰れてしまったんだから。ただの流れであり、事故でしかない。それでも、と言い掛かりをつけようとしてくるお偉いさんはいたけれども、魚人博士の遺産にであるゲート破壊の件は不問って事に落ち着いた。なら何が辞職の要因になったかと言えば、対デモドリフト戦におけるユーレカ基地全体の独断とその被害の……って事になるんだとか。
それが結果として侵略者を退ける大金星に届いたのに。とは思うが、もしももっと上手くやれていたら、なんて後出しのたらればでケチをつけられるのはままあることで、実際には一つの基地の戦力と手柄独占に対する調整と言う名のやっかみなのだろうって。
レグルス長官本人は「打ち消しあっても功績のが大きいし、これで早めの楽隠居ができる」なんてあくび混じりに言っていた。さらにライエ副長官もそんな上司に呆れつつも、「我慢させてきた息子との時間がしばらくぶりに取れそうだ」なんて棚ぼたな長めの休暇と受け止めていた。
本人とその家族たちに不満が無いなら、俺たちからは何も言うことは無い。これまで世話になった分、この先は俺たちが助けになれば良いんだから。
解析研究の部署に残るアザレアたちアンスロタロスの面々や、パーシモン先生みたいな医療チームとしての仕事の尽きない仲間たちだっているんだから。
そんな事を考えながら荷物を担ぎ背負って歩いていたら、後ろから残骸と荒れ地を踏み締めながら追い抜いてくる巨体が。
「おーいリードくん。乗って行かないか? あいにくと合体は出来ない機体だが」
「合体できたとしてどうする気なのかってなるけれどな」
「違いない」と、通信ウインドウの中で笑うクリス。彼女が緩く軽やかに蹄を響かせて無限軌道を走らせるのはコンテナを引いたランドタイプの量産ビークルだ。最後の戦いで失ったランドイクスに代わって彼女の愛機を勤めているチューンドモデルになる。
そう。何よりもこのもっとも近くで戦い抜いてきた戦友たちがいる。彼女たちと共にあるのならこれから先、何が起きてもなんとかなる。取りこぼしたく無いモノを失わずに進んでいける。そんな気がするんだ。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「うん。リードくんには細かな解体組み立ての作業があるんだから、運搬は私に任せてくれていいさ」
「ああっと。それなら私だって空から吊るして行けるんだから」
「うーん海の上や中での作業ならアタシこそって手を上げるトコなんだが、陸の上じゃあ分が悪いやね」
コンテナに荷を載せ、俺自身も機上に乗り掛かったところで待った待ったと集まってくるのは最高の戦友達の残る二人と、彼女らの新たな愛機だ。
本来の愛機であるオリジナルのイクスビークルを捨てる形にはなったものの、全員でこうして未来に向かって働けるのは何よりの事だ。
「ルーナの言うとおり、今日は内陸の都市部での作業なんだから、私とコンビを組ませてくれないか?」
「ええー……復興作業のいるところって大体そうじゃない?」
「たしかになぁ。アタシは港湾部やら海中ならドンと来いやってなるけど、ファルってかスカイタイプでなきゃってなるとそんなに……」
「でしょ!? こんなの不公平でしょ!? 私だってリードに恩返ししたいのに!!」
「ありがたい……が、弱ったな」
俺を囲んでの競うような相方役の立候補に、俺の口からは正直な感想が。
戦友として固い絆で結ばれている彼女達が、深刻な争いを始めるような事はない。が、それでも自分を巡って仲の良いメンバーが、となるとな。
いや、分かってる。そもそもが俺の優柔不断さが、大事が片付いているのに選ぶことの出来ない意思の弱さが元凶だってのは。
「ええっとファル。ここは持ち回りで、私が今現場でコンビを組んだ分、今日のプライベート時間で……」
「ううん……ゴネていても仕方がないし、それで……」
「そうそう。ビークル使った作業以外は引き離すとかそんなこと無いんだしさ。アタシらで上手いこと割り振りしていこうって、今後のためにもさぁ」
そのせいで三人娘からはもう三人で囲んだままでいる方向にシフトし始めている。クリスたちがそれでもいいなら、なんて甘えてしまいたくなってる自分には呆れてしまう。
「私たち三人とも分かっているから」
「リードが抱えたものを手放せない性質だっていうのはね」
「そこも含めて、アタシらはアンタとやってくつもりなんだから気にすんなっての」
「……責任重大だな」
三人には重苦しそうに返したが、口に出したほど重い気分じゃあない。
こんな贅沢な悩みを抱えていられるのも、こうして生きていられる時間が拓けたからだ。俺を必要としてくれる、俺が居たいと思える居場所を勝ち取る事が出来たから。
だからこれまでも、これからの事もきっと俺にとっては必要だった、正解だったんだ。
そう思いながら俺はクリスたち三人と同じ方向へ進んでいく。




