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10:いきなりは無理だ

「やあリードくん。こんな早くからどうしたんだい。ファルにルーナも一緒で」


 見るからに早朝トレーニング中ってクリスが、首を傾げつつ聞いてくる。

 けど、どうしたって言われても俺の方が聞きたいくらいなんだよな。

 検査を受けるのもあって医務室に泊まったけれど、色々あったせいかやけに早くに目覚めてしまった。それでパーシモン先生から水割り果汁をもらって出てきた訳だけれど。

 そうして出てく時に、またパーシモン先生は息を荒くして俺を見てたけど、アレいったいなんなんだろうな。

 で、出てった時に――


「たまたま見かけたから。それだけ」


「うん? なんか詰めよって無かった? まだ引き返せるぞとかなんとか。ああ、わたしはまだリード一人じゃ道に迷いそうだから、引率」


 白黒のシャチ娘、ルーナはそっぽを向いて舌打ちを添えて。灰色のハーピー、ファルは大きな翼を持ち上げて素直に状況を語って聞かせる。

 それを聞いてクリスと彼女と並んだ兎人ラビタンの女の子がアチャーとばかりに青みを帯び始めた空を仰ぐ。


「まったく。どうしてルーナは……戦うのはまだともかくとして、リードくんが協力者としてやっていってくれると話はまとまったのに……」


「副長官の圧か、長官に必要だって持ち上げられてかのどっちかは知らないが、アレで流されて了解したヤツが、また流されないなんて言えるもんか。そんなので戦ってくれたって迷惑なんだよ」


 クリスの言葉に、ルーナは鼻を鳴らして俺の加入に反対だと言う意見を曲げない。

 しかし、彼女の言葉は耳に痛いな。

 機械と融合した感覚だった俺自身と、新発見のオリジナルマシン「ブリード」の調査。そして保護がメインだから是非に。そう門武守機甲ユーレカ基地に引き留められた俺だが、戦力として加わることにはまだ踏ん切りが付かずに保留させてもらっている。ただ飯食らいは申し訳が無いので、調査などは手伝わせてもらうつもりだが。

 レグルス長官はそれでも構わないと言ってくれた。だが、また俺自身が暴走して戦いに飛び込まないとも限らないし、そのまま戦力の一員になってくれと頼まれれば、きっと流されてしまう事だろう。身寄りも無くしてしまったのを拾ってもらった恩もあることだし、それに必要とされているんだって感覚。あれには抵抗できそうにないっていうのもあるし。


「まあ、ルーナ、さんが言うとおりにならないよ……なんてとても言えないなってのは自覚してるよ」


「分かってんならちゃんと断りなっての! あとさん付けなんかするんじゃないって、痒いったらない!」


 ギザついた歯を剥き出しに、鋭い目元をさらにつり上げて凄むルーナ。

 この迫力に俺は反射的に身を縮ませてしまう。けれど言い方は荒っぽく突き放す感じだけれど、俺みたいな素人を荒事から遠ざけようとする彼女なりの思いやり、みたいなのはあるんじゃないかな、とは思う。……思い込みかもしれないけれど。


「なんなんだい、ヘラヘラしてさ? アタシはただ気に食わない事を気に食わないって言ってるだけなんだからな?」


「まあまあ。この先がどう転ぶにせよ、これからは仲間であることに違いはないんだから……」


「そうだそうだ。みんな仲良く!」


 さらに詰めよるルーナの前に手と翼を差し込んで、クリスとファルが宥めに入ってくれる。

 しかし、クリスの言い分はともかく、ファルの言葉はなんかずれてる感じがあるな。

 そんな事を半笑いに考えていたら、右隣に気配が。そちらを振り向けば、クリスに付いていた白い兎娘の姿が。


「挨拶が遅れちゃってごめんね。私はコットン。クリスとランドイクス付きのサポーターやってるの」


「ああ、こっちこそ先に名乗るべきだったのに。知ってるかもだけれどリードだ。よろしく」


「はいはーい。よろしくねー。あのイクスブリード・ランドの事もあるから今は私たちでブリードの事も見てるし、これからも顔合わせる事が増えると思うから」


 差し出された手に釣られて反射的に握手に応じてしまったが、その手をリズミカルに上下させながらの一言はちょっと聞き流せないものだった。


「それは……仕事を増やしてしまってすまない」


「アハハそんな小さくならないでよ。新しいシステムが見つかったり、触った事ないのを見たりでわたしも他のスタッフも結構楽しんでるんだから嬉しい悲鳴って言うの?」


 コットンは大きな目を細くして、手と耳をパタパタとさせながら笑い飛ばしてくれる。

 そう言ってくれるのはありがたい。けれどもそれで甘えてしまうというのは違う。良くないな。


「それでも、俺にできることがあるなら言ってくれ。俺なんかに出来ることがあれば、だけれど」


「ありがとう。でもなんか、なんて言わないでよ。合体するにもランドイクスの合体ユニットにブリードを突っ込むだけじゃただ入ってるだけにしかならないんだし」


「そうだな。せっかく良い心がけなのに、卑屈がすぎるのは良くない」


 俺の身の程知らずな申し出にもお礼を返しながら、コットンとファルは苦笑混じりにたしなめてくる。

 そうは言われてもな。俺にブリードを動かせる事以外に何が出来るのかと思うと、なんの心当たりも無いからな。

 そんな風に困っていると、背中に軽く弾む感触が。振り仰げばキレイな金髪を揺らしたクリスの顔がある。


「ポッと身に付いた力だからね。少しずつでも自分の物にしていけたらいいさ。経緯や出どころはどうあれ、今は君の中に力があるのだから」


「ああ、ありがとう」


 気を使ってくれたことは嬉しい。けれどもそういう物なんだろうか?

 知らない内に身についてた能力を自分のだなんて思えるようになるだろうか?


「うん。あの合体でクリスを助けて、わたしたちも助けたのは間違いないんだ。そう言えばランドイクスが合体出来たと言うことは、わたしが使う同じオリジナルマシンのスカイイクスも合体してパワーアップ出来ると言うことになるのか?」


「可能性は高いと思うよ。そっちのマシンの新しいデータはまだ出てきて無いけど、同じようにエキドナから見つかったビークルなんだし。ルーナのシーイクスもね」


 コットンのこの予測に、ファルは目を輝かせる。けれども一方でルーナの顔は苦々しげだ。


「出来るとしても、アタシはゴメンだね。アタシのビークルも、命も預ける気にはならないよ」


 そして鼻をひとつ鳴らすと、羽織ったジャケットを翻して立ち去ってしまう。

 それを見送っていると、こっちを気にしろとばかりにバサバサと羽毛が襲ってくる。


「わたしは楽しみにしてるからね! どれだけパワーアップするのか、どんな変形するのかとかね。クリスのがケンタウロスになって立ち上がったから、わたしみたいになってグンと素早くなるのかもね」


「それだとスピードは上がるのかな? いや、イクスブリード・ランドもクロウラーから四足になって固く素早くもなったからな」


「だとして、イクスブリード・スカイ、になるのかな? その武器はどうなるのかな? 後付けのミサイルが強くなるとは思えないけど、エナジーバルカンだけ威力が上がるってこともないと思うけど」


 努めて明るくブリードと合体した自分の機体の性能向上について語る三人。

 この、俺が落ち込まないようにとの必死のフォローは本当にありがたい。

 こんな彼女らに人間関係でもなんでも手をかけさせてばかりではいけないよな。

 かといって、そのために今すぐ俺が出来ることとなると――


「……基本的なところから積み上げてくしかないよな」


「おお、それはいい! 確かに何をするにも基礎は大事! 基礎体力からつけていこうか!」


「え、ちょぉ!?」


 俺の呟きを聞くや、腕を掴んで馬蹄を響かせ始めるクリス。その勢いに、俺は引かれるまま必死になって足を動かす事に。


 なお、結果として俺はこのまま力尽きるまで走らされ、クリスはダウンした俺をあわてて医務室に運ぶ事に。そして担ぎ込んだ先でパーシモン先生にじっくりとお説教を食らう羽目になったのだとか。

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