1:四つの敵影
迫りくるヒト型の機械たち。
並ぶ木々を越える高さながら、積もり積もった年月によるダメージか、外装が剥がれて生ける屍のようになったトルーパー。
右から迫るその内一体に、私ブリードは右手の銃剣付きハンドガン「ブリードガン」を三連。エネルギー弾で風穴を。
そして標的の機能停止を確認することなくターン。後方から迫っていた別個体へ、エネルギー刃を被せた左ブリードガンのブレードを叩き入れる。
劣化した装甲が破れて折れるトルーパーの機体へ、ダメ押しのトリガー。それが吹き飛んだメタルボディが散弾になって後続の足を鈍らせる。
「クソがッ! アイツも目覚めてやがったのかよッ!」
この忌々しげな罵声に目を向ければ、そこには四つの鋼の人型が。
先頭で地団駄を踏む大砲を担いだ巨体を、一回り小さなものが小突く。
「ヤツの介入は予想を上回る速さではあった。が、遅かれ早かれでしかなかっただろうに」
「なんだとッ?!」
「まあまあ、落ち着きなさいな。ワタシ達が来るなりにぶつかるだなんて、そこまでは誰も予想できてなかったんだから」
小さいのと、覆い被さる勢いで食ってかかるゴツいのに割って入るのは、板状の翼を備えた細身の者。
その仕草となだめる声色は柔らかながら、しかし明らかに低い。
そんなオネエを挟んで睨み合うのをよそに、一際大柄な巨体がのそりと体を揺らす。
「で? どうするんだ? この場でやっちまうのか?」
気乗りしない風な声音ながら、巨体から伸びる砲身はすでに私に向いている。後は引き金を引くだけというわけか。
このように私を敵視し狙うとなれば、ヤツらの正体は一つしかない。
「貴様ら、デモドリフトの手先か!」
「いかにも。我らは数多の世界を統べる機械王デモドリフト様に仕える忠実なる四の僕。我らが王の覇業の先駆けとしてこの地にやってきたのだ」
絶えずに迫るトルーパーを迎え撃ちながらの言葉に、もっとも小柄な機体が一歩前に踏み出しつつ答える。
その体躯に見合わぬ堂々たる態度。彼こそが四名の筆頭というわけか。
「おい、スクリーマー! 代表ヅラしやがって、いつからそんなに偉くなりやがったッ!?」
「ここは私の出番と見たまでだよ。お前に任せては荒々しさのあまりにデモドリフト様の名に泥をはねかねないだろう?」
「ハァーッ!? できますー!! オレにだってカッコつけた宣戦布告くらいできますー!!」
が、この様子を見るに早計な見立てだっただろうか?
そんな私の虚を狙って、背後からトルーパーらが射撃を。これを私はとっさのジャンプで回避。ひねりに乗せた二丁拳銃で迎撃する。
「あら、惜しい。……ハイハイ、スクリーマーもクラッシュゲイトもお止めなさいって。怨敵の前だわよ?」
和やかに同僚の間を取り持つも、私を見るゴーグルアイの光は鋭い。彼、と呼ぶべきか? ともかくあの翼付きの指揮を受けた兵隊の連携に、私はたまらず瓦礫の影へ。
滑り込みから右左と交代にブリードガンのエネルギーマガジンをチェンジ。
そこへ音と熱源で迫る砲撃を捕えた私は、別の遮蔽物へ横っ飛びに左をトルーパーへ三連、右を四幹部らへマグナムショット!
しかしマガジン半分のエネルギーを費やしたこの光弾は、半ばで散弾と正面衝突に弾け飛ぶ。
この光と音を隠れ蓑にして、私はスラスターを全開に。力任せに姿勢を御し、全力機動で地を滑る。
そして敵幹部、船舶めいた巨体の影を目印に、左銃の残エネルギーを注いだ一射を放つ。
「があッ!? やったなッ!?」
私をあぶり出そうと砲撃を放っていた大砲が吹き飛び、巨体がよろめく。
そこへさらにもう一撃を浴びせようと、私は右のブリードガンの狙いを――
「良い囮役だったぞ、レッドプール」
しかし機体の流れる先から聞こえた声に、とっさに銃口をそちらへトリガー。合わせてスラスターで強引に体を浮かす。
転がる様に空を横切った私の下には、腕の装甲で光弾を受け止めた白黒の機体が。
そうしてスクリーマーとすれ違い、着地と同時にターン。が、振り向きざまの左銃剣は鏡映しに回転の勢いを受けた警棒とかち合う。
刃と鋼のぶつかり合う火花が視界に弾ける中、私はグリップから空マガジンを射出。
これにスクリーマーが目をチカチカと瞬かせたところへ、すかさず押し込み競り合うブリードガンを振り抜く。そして体ごと押し当てながら、右ブリードガンの引き金を引く。が、それとほぼ同時に横合いから襲った衝撃が私とスクリーマーをもろともに吹き飛ばす。
私は鋼の体が軋むのを噛み殺し、スラスターと手足を振り回して次の攻撃に身構える。
案の定に機体を叩きつけた爆風に乗って間合いを取る。
「てめえ! レッドプールコラッ!? よくもオレを巻き込みやがってッ!!」
「狙いが荒くなってたか? スマンスマン。まあ平気っぽいし問題ないだろ?」
「無いわけあるかぁーッ!?」
……なんとも間の抜けた罵り合いだ。
呆れる所ではあるが、私には好都合。巻き込みをためらわず、実際に誤爆する噛み合いの悪い連携の隙を突けば、数の不利を埋めることもできる。そうして時間を稼げば援軍も。と、そんな希望的観測を抱いた私の頭を爆音と衝撃が叩き伏せる。
「ハイ残念。ワタシ達、仲良しこよしって感じじゃあないけれど、それでもただのへっぽこ四天王とかじゃないのよ?」
そう言いながら這いつくばる私の目の前に降りてきたのは翼持ちの機体だ。
その余裕ある態度を崩そうと、私は右の銃を向けようと腕を上げる。が、その動きは半ばで上から降ってきた鋼の足に踏み潰される。
「そうだとも。ブレーンが常にオーバーヒートしているような者ばかりと思われては心外だな」
「テメエら! レイダークロウも、スクリーマーも! 自分たちゃ知恵者でございってのかッ!?」
「……そういうとこだぞ」
私を踏みつけショットガンを突きつけたスクリーマーに物申しながら、残るクラッシュゲイトとレッドプールも私を取り囲み、見下ろす輪に加わる。
そしてクラッシュゲイトはそのままどけどけと私を抑えるスクリーマーを押し退けて私の上に足を乗せてくる。
スクリーマーのそれをしのぐこの重みは、私の苦悶の声ごとに鋼の体を押し潰してくる。
「とにかく! この大手柄をお前らにくれてやる気は無いからなッ!?」
「おやおやおや、人聞きの悪い。そんなことを考えるものか」
「あ? この場でやっちまうってんなら俺だって譲る気はないんだが?」
「……おお?」
「……ああ?」
そのままクラッシュゲイトとレッドプールがにらみ合いを始めた隙に、足下から脱出を試みる。が、全力で押し返しても重機めいた分厚い機体はぐらつきもしない。
そんな様子にレイダークロウは苦笑ぎみに目をチカチカとさせてから遠くを見やる。
「なんにせよ。仕留めるなら早くした方がいいわよ? 近づいてくるこの反応、このレジスタンスのお仲間のだもの」
ばれていたか。
だがだとしても、だからこそ私のやることはただ一つ。自分の体を焦がす覚悟で、クラッシュゲイトと密着したブリードガンの引き金に力を込める。が、それよりも早く私を踏みつけた足が振り抜かれてしまう。
「それじゃーしょーがねえなぁーッ!」
地を削って蹴飛ばされた私の体はだめ押しの散弾で再び地面に。
そうしてダメージに軋む体を起こそうとする私に、四つの銃口が狙いを定めた。
「ヘッ! 武器も揃ってないのに手こずらせてくれたもんだぜ。しかも不純物と混ざってるってのによーッ!」
不純物だと? こうしなければ、彼は……。
いや、彼? 「俺」、なんで? こんな、体が痛くて……それに俺の手、体……金属、に?
なんだこれ!? なんだこれ?! なんなんだよこれええええッ!?
「う、わ、あぁあああああああッ!?」
「なッ!? ん、がぁあああああッ!?」
体から、光が……溢れて、消える?!