表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/49

一番聞きたくない言葉

「ん? どゆこと?」


 東雲さんはきょとんと首を傾けた。

 それはとても温度差のある反応に思えた。


 僕の方は息苦しい程の緊張感を覚えているのに、彼女の様子は普段と変わらない。


 これが当たり前なのだと思う。

 彼女ではなく僕がおかしいのだ。


「……人と、話すことが、苦手です」


 声を出すことが怖い。

 理由は、ただの思い込み。


 分かっているのに治らない。

 気が付けば、妹か、画面の向こうの人達としかまともに会話できなくなっていた。


「……東雲さんは、いつも、堂々として、憧れます」


 ぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。

 決して考えて喋っているわけではない。なぜか自然と声が出る。だから、これが僕の本音なのだと思う。自分の声を聞きながら、どこか他人事のように僕は思った。


「どうやったら、そんな風になれますか?」


 もう一度、問いかけた。

 その瞬間、身体が熱くなる。なぜか消えていた緊張感が一気に溢れ出て、背中に嫌な汗が滲む。さらに息が苦しくなった。


 ……変なこと、言ってないよな?


 強烈な不安を覚えながら返事を待つ。

 東雲さんは目を閉じて、考え込むようにして俯いた。


「……待って。ちょっと、待ってね」


 短い言葉。

 それから彼女は深呼吸を繰り返す。


 ……東雲さん?


 意外な反応だった。

 彼女のことだから、きっぱりと返事をするのかと思っていた。


「……っば、ダメそ。声、良っ。無理」


 何か呪文のような声が聴こえた。

 意味は分からない。僕は口を閉じたまま続きを待つ。


「よっしゃ、おっけ、言います」


 東雲さんは顔を上げると、真っ直ぐな目で僕を見て言う。


「ぶっちゃけ声が良過ぎて全ッ然話が頭に入りませんでした! もっかいおなしゃす!」

「……はい?」


 思わず聞き返す。

 彼女は軽く息を吸って、もう一度言った。


「声が良過ぎて話が頭に入りませんでした! もっかいおなしゃす!」


 僕は言葉の意味を考える。

 いや、難しいことは言っていないはずだ。でも頭に入ってこない。


 彼女は何を言っているのだろう?

 それを考える程に混乱して、やがて、謎の笑いが込み上げた。


「……東雲さん、本当に声が好きなんですね」

「超好き! 特に君の声マジつぼ! 身体あっつい!」


 よく分からないけど、褒められてるのかな?

 僕がきょとんとしていると、彼女は真面目な顔をして説明してくれた。


「あたし鼓膜が性感帯なんだよね」


 意味は分からなかった。


「風早くん、絶対もっと喋った方が良いよ。その声マジやばいから」

「……やばい、とは?」

「んー? 全身を優しく包まれる、みたいな? ガンッ、じゃなくて、ママみがあるんだよね。空気に溶けるというか、むしろ空気そのものって感じ!」


 きっと悪意は無い。

 でもそれは、一番聞きたくない言葉だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼この作者の別作品▼

新着更新順

 人気順 



▼代表作▼

42fae60ej8kg3k8odcs87egd32wd_7r8_m6_xc_4mlt.jpg.580.jpg c5kgxawi1tl3ry8lv4va0vs4c8b_2n4_v9_1ae_1lsfl.png.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ