学園祭開始
午前10時。
街中に響き渡る校内放送が学園祭開始を告げた。
「んはー、やば、緊張してきた!」
東雲さんが元気な声を出すと、他の人達もざわつき始めた。
場所は教室。壁に沿うようにして「コの字」に販売スペースが有り全部で6チームが商品を並べている。僕達の販売スペースは出入口の隣。黒板の前という位置。
「ゆーて今日はシノ偵察じゃん」
「それでも緊張する。売上アプリ毎秒開いちゃうかも」
「いや変わんねぇから」
二人が会話しているように、平日は店番と偵察を交代で行うことにした。これは「平日に来るお客さん身内だけっしょ」という東雲さんの予想に基いた作戦である。
平日に情報収集。そして土日に勝負。
以上が僕達の作戦。シンプルだけど、とても効率が良いように思える。
「じゃ、二人とも店番よろしくね。カノノン、行くべ!」
というわけで、初日の店番は僕と山根さん。
シフトは僕と幻中さんが別々になるようにジャンケンをして決めた。シンプルに、コミュニケーション能力を加味した結果である。山根さんと東雲さん。どちらか一方は売り場に居た方が良いということで全員の意見が一致した。
「「……」」
狭いスペース。
机に商品を並べ、椅子に座って待つ。
二人の間に会話は無い。
僕はそわそわしながら他のチームを順番に見た。
オリジナルの漫画やイラスト、似顔絵サービスのようにクリエイティブな商品を出しているチームもあれば、僕達と同じように教材を出品しているチームもある。
……皆、凄い。
僕は次々とアイデアを出す東雲さんを尊敬するばかりだったけど、他のチームも、きっと僕達と同じような話し合いをしていたのだろう。
同じ高校生。同じ学年。
それでも、自分達でアイデアを出し合って商品を用意できる人が、これだけ居る。それはもう、凄いというか、刺激を受けるというか、とにかく圧倒された。
「風早、あいつらのこと何か聞いてる?」
「えっと、クロ達のことですか?」
僕が質問を返すと、彼女は軽く頷いた。
言われてみれば教室内にクロ達の姿は無い。
「別の場所、ですかね?」
学園祭のルールとして、同じクラスだけでチームを作る必要は無い。
また、教室を使う権利は、そのクラスに所属する人が優先的に得る。だから教室内には見知った顔が多いけれど、知らない人もチラホラ居る。
「めんど。風早調べて」
「……はい、分かりました」
一応、どのチームがどこで出店するのかは、パンフレットとホームページに記されている。ホームページには各チームの情報も記されているので、調べれば分からなくはない。
僕は各チームに支給されているノートパソコンを使って、ホームページを開いた。
「ああ、これ個人の名前でも検索できるんですね」
入力フォームにクロのフルネームを入れて検索すると、直ぐに結果が出た。
「早いじゃん。パソコン得意なんだ」
遠目に見ていた彼女がパソコン画面に顔を近付ける。
僕は身体を横にズラして彼女に正面の位置を譲った。
そして情報を確認した山根さんは、
「……やー、そう来たかぁ」
と、いろいろな感情が入り混じったような声色で言った。






