相談
「リリ、相談がある」
夜、食事の時間。
僕は机に箸を置いてリリに声をかけた。
「友達のことが、気になってる」
「どういうことでしょうか?」
リリも箸を置いて言った。
背筋を伸ばし、しっかりと聞く姿勢になってくれている。
心強い。僕は落ち着いた気持ちで詳細を説明した。
学園祭のこと。東雲さんに何か目的があること。
それはきっと、彼女が僕に声をかけた理由。
あの裏表の無さそうな笑顔の裏に何かがあるという証拠。
そんな風に考えてしまう自分が嫌だ。
だから僕は、とてもモヤモヤしている。
それを下手くそな言葉で伝える途中、ふと思った。
僕は、何がしたいのだろう。
リリに相談することで、何を得たいのだろう。
思い悩むこと。それは僕の悪い癖だ。
自覚している。変えたいと思っている。
「──とても、モヤモヤしてる」
だから曖昧な感情を言葉にして伝え続けた。
口を閉じることだけはしなかった。そのおかげか、やがてシンプルな言葉が出た。
「スッキリしたい」
そうだ、難しいことじゃない。
モヤモヤしているから、スッキリしたい。それだけだ。
「リリなら、どうする?」
「本人と話をします」
「……それから?」
「それだけですよ」
……それだけ、か。
「でも、もっとモヤモヤするかも」
「その時は、また話をします」
「……相手を不快にさせるかも」
「その時は、その時です」
リリは軽く目を閉じた。
長い付き合いだから、何か悩んでいるのだと分かる。
僕は何も言わず待った。
やがて彼女は目を開いて、真剣な表情で言った。
「一颯さんは、まだ高校生です」
全く予想していなかった一言。何を意図しているのだろう。僕が頭の中に疑問符を浮かべると同時に、リリは次の言葉を口にした。
「無理に友達関係を維持する必要はありません」
……なるほど、悩むわけだ。
「将来のことを、一颯さん自身のことを一番に考えてください」
きっと色々な考えが凝縮された言葉。
もしもリリの心を覗き見たならば、僕は膨大な情報量に面食らってしまうだろう。
「少し自分勝手なくらいが、一颯さんには丁度良いと思います」
「……自分勝手、か」
やっぱり、頼りになる妹だ。
僕には思い悩む癖がある。その一因は、きっと相手のことを自分よりも優先して考えてしまうからだ。リリは多分それを知っている。だからこその言葉だ。
「一颯さんには、ふたつ選択肢があります」
「ふたつ?」
「ひとつは明日にでも話をすること。もうひとつは、学園祭まで我慢することです」
「……リリ、意外とスパルタだよね」
学園祭まで待つ。
多分、リリが代わりに解決してくれるという提案だ。
その選択は、兄として避けたい。
そしてリリは僕のことを分かっている。
要するにリリは、明日にでも話をしろと言ったのだ。
「一颯さん、決意表明しましょう」
「どういうこと?」
「周囲に宣言して、後には引けない状況を作ります」
「なるほど、逃げ場を作らないわけだ」
「いいえ、一颯さんにはリリが居ます。どれだけ酷い失敗をしても、最後にはリリが残ります。安心してください」
「……分かった。ありがとう」
それから食事を再開した。
食器を片付けた後、僕は部屋へ戻る。
そして、いつものように配信を始めた。
──本人が観ているとは露程も思わず、決意表明をするために。






