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もやもや


「あらためまして、超人気ウェブ作家、もなきゃのん先生です! ぱちぱち~!」


 図書室に戻った東雲さんは、机の隣に立ち、拍手しながら言った。その隣で幻中さんは腰に手を当て耳まで真っ赤にして胸を張る。どこか吹っ切れたような雰囲気だ。


「かののんが書く! 風早くんが読む! これで勝てるぅ~!」


 東雲さんが嬉しそうに言った。

 それを聞いて山根さんが机を叩いて大笑いする。


 一方で僕は、自分でも不思議な程に冷静だった。

 その原因はきっと、山根さんから聞いた言葉だ。


 ──シノにとって、この学園祭は遊びじゃない。


 僕は用意周到な東雲さんを見て、それが彼女の普通なのだと思った。だけど、山根さんの言葉から察するに、今回は特別なのだろうと思い直した。


 色々な疑問が解決した。

 見当違いかもしれないけれど辻褄は合う。


 例えば東雲さんは声が好きみたいだ。

 だから音声作品というアイデアを出した。


 でも教材ではライバルが多い。過去実績も無い。

 だから他のアイデアを用意した。多分、いくつも考えていた。


 ……それが、僕なんかに声をかけた理由なのかな。


 その発想に至り、チクリと胸が痛む。

 僕は友達ができたことに舞い上がっていた。奇跡のような出来事だと思っていた。


 理由があった。当たり前のことを理解した。

 その途端、東雲さんの裏表の無さそうな笑顔が、どこか打算的なモノに見えた。


 もちろん全て僕の想像だ。

 山根さんが噓を吐いているかもしれない。


 だから……東雲さんを疑うようなことを考えてしまう自分が嫌で、胸が痛かった。


「風早くん、どしたの? 難しい顔してるよ?」

「……あっ、えっと、その」


 言えるワケが無い。

 僕が口を閉じると、東雲さんは目を細める。

 

「ゆかりん、何か余計なこと言った?」

「べっつにー?」

「いや絶対なんか言ったじゃん。このふりかけチビすけ」

「……はぁぁぁぁ?」


 チクリと棘のある東雲さんの言葉。

 山根さんは席を立ち、東雲さんを睨み返した。


 相変わらず会話のテンポが速い。

 それを見て僕は……いやいや、これ止めないと!


「あの、二人とも喧嘩は」

「「黙ってて」」

「……はい」


 僕は無力だ。救いを求めて幻中さんに目を向けると、そっと逸らされた。親近感。


「ふりかけ言うなって言ったばっかだろ? 脳みそ鳩ポッポか?」

「はいバーカ。鳥類メッチャ記憶力良いですぅ」

「うるさい。あとチビじゃねぇし。平均だし」

「あたしより小さいからチビですぅ」


 鼻先が触れるくらいの至近距離。

 僕は睨み合う二人を見て必死に言葉を探す。


「あのっ!」

「「なに!?」」


 どうしよう、考える前に声が出ちゃった。


「えっと、あの、山根さんの、話、ですけど」

「黙れ。余計なこと言うな」

「いいよいいよ風早くん、正直に言って!」


 圧が強い……っ!

 ここは東雲さんが言う通り正直に話すべき。そう思うけど、さっき考えたようなことは流石に──


 瞬間、閃きと同時に全身が痺れた。

 そうだ、大丈夫、多分この話なら!


「山根さん、東雲さんが大好きって言ってました」

「「……」」


 ぽかんとした表情を見せる二人。

 僕は軽く息を吸って、次の言葉を口にする。


「だから、その、仲良くしましょう!」


 ほとんどヤケクソで叫ぶ。

 ギュッと目を閉じて、暫くしてからそっと開く。


 目に映ったのは、俯く山根さんと、彼女の肩に手を回した東雲さんの姿だった。


「ふーん、そっか~、へ~?」

「……うるさい。違う。言ってない。触んな」

「もぉ~、照れないでよぉ~」

「風早! なんとかしろ!」


 そんなこんなで、どうにか喧嘩はおさまり、やがて勉強会が再開した。

 幻中さんはメキメキと成績を伸ばして、日曜日が終わる頃には全教科で赤点を回避できると確信できる程度の学力を身につけた。


 楽しかった。心から思う。

 だけど同じくらい疑問が残った。


 ……遊びじゃない、か。


 どういう意味なのだろう。

 分からない。直接聞くしかない。


 でも……と、うだうだ悩む間にも時間は過ぎる。

 休日が終わり、試験が始まり、何も聞けないまま一日が終わった。


「……あー、ダメだ。集中できない」


 試験一日目の夜。

 机で試験勉強していた僕は、頭を抱えて言った。


「相談しよう」


 そして、頼れる妹の元へ向かった。

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