学園祭に向けて 2
「当然、カノノンっしょ!」
かの……幻中さんかな?
それとなしに彼女を見る。どうやら打ち合わせはしていないようで、面白いくらい目をパチパチしていた。
「シノ最後にンって付けるの好きだよね」
「響き良くない?」
「分からん」
「分かれ」
「じゃあ風早は?」
「もちろんイッ──」
ギリギリのところ。
東雲さんはパチっと音がする勢いで両手を使って口を塞いだ。それから少し焦った様子で僕を一瞥して、ごまかすような笑顔を山根さんに向ける。
「まだ考え中!」
「ふーん? まあいいけど」
含みのある笑み。
僕はやぶ蛇を避けるため口を閉じる。
「んで、マモちゃん特技とかあんの?」
「こちらの資料をご覧ください」
また新しいポスターだ。
どれだけ準備してあるのだろう。
「とある小説投稿サイトのデータを示した図です。正確なユーザー数は不明ですが、こちらの値からアクティブユーザーは数は一万人以上と考えられます」
図のタイトルには「お気に入り登録数」または「評価数」とある。縦軸を見ると「一週間あたりの平均値」とあり、横軸には日付が記されている。
この値からユーザー数を算出したのかな?
……東雲さん、統計も得意なんだ。凄い。
僕が感心する間も説明が続く。
まず小説投稿サイトの規模についてデータが示された。
「ここからは作者のデータです」
彼女が口を開いた直後、悲鳴が聞こえた。
わー、という女性の声。
最初、僕は誰の声か分からなかった。
多分それは東雲さん達も同じ。
だから三人とも不思議な顔をして、揃って声の発信源に目を向けた。
その視線の動きと交差するようにして、僕の目に白い影が映った。
それは東雲さんからポスターを奪い取り、大事そうに抱えた。
そして影の正体──幻中さんは言う。
「愚か者ぉ!!」
……こんな大きな声、出るんだ。
「照れないでよー」
幻中さんは見るからに怒っている。
しかし東雲さんは笑顔を崩さない。
「へー、マモちゃん小説書くんだね」
と山根さん。
幻中さんがビクりと身体を震わせ、何故と表情で訴えかける。
「下の方に書いてあったぞ」
楽しそうな声。
幻中さんは絶望的な表情を浮かべる。でも次の瞬間、ギュッと唇を結び席を立った。
それから素早く東雲さんの背後まで移動して、その手を強く引いた。
「ちょ、何? 打ち合わせしたっしょ?」
「ッ! ッ~!」
幻中さんは無言で手を引く。
しかし見た目よりも力が入っていないのか東雲さんは全く動じていない。
「分かった。分かったから」
やがて苦笑を浮かべ腰を上げると、僕達に向けてひらひらと手を振りながら図書室の外へと連れられて行った。
……打ち合わせ?
ひとつ、疑問が残った。
僕が考え込む一方で、山根さんはお腹を抱えて笑っている。
何が面白かったのだろう?
目を向けると、ちょうど彼女も僕を見た。
しかし何か言うわけではなく、机に頬杖をつき、ただ無言で笑みを浮かべた。
「……あの、えっと、何か?」
妙にそわそわして、僕の方から質問した。
彼女は人差し指を唇に当て、何か考え事をするような表情で僕を見た。
緊張して背筋を伸ばす。
何を考えているのだろう。
やがて彼女はイタズラを思い付いた子供のような笑みを浮かべ、口を開いた。
「風早さぁ、ぶっちゃけぇ、シノとぉ、どこまで行ったの?」






