学園祭に向けて 1
「音声作品ってこと?」
「そうそれ!」
山根さんの質問を受け、東雲さんはパチっと指を鳴らした。
「春高のブランドって、やっぱ学力じゃん? 聞くだけで効果ある教材とか中高生に受けると思うんだよね」
僕は素直に頷いた。
今日まで何も考えていなかったけれど、言われてみれば納得感しかないアイデアだ。
「でもそれ競合多くね?」
山根さんが自然な指摘をした。
それを聞いて、僕はまた自然と頷いた。
教材を売る。きっと多くの生徒が同じことを考える。結果、お客さんを奪い合うことになる。
「良い質問です」
東雲さんは突然先生みたいな口調で言う。
「こちらのデータをご覧ください」
まるで質問を予測していたかのように、東雲さんはポスターを捲った。どうやら複数の用紙が重なっているようだ。
「過去五年間における教材の出品数は平均して七点でした。音声作品に限れば二点です」
「結果は?」
山根さんの質問を聞き、東雲さんはニヤりと笑う。
「一位を取った例は過去一度も無いですね」
「ダメじゃん」
山根さんが容赦のない指摘をした。
東雲さんは存在しないメガネをクイっとして、得意気に言う。
「あたしが無策だとでも?」
「おー? ハードル上げ上げだぞ?」
東雲さんが不敵に笑う。
どうやら勝算があるらしい。
……やっぱり、凄いなあ。
今日の勉強会、僕は勉強することしか考えていなかった。でも東雲さんは既に学園祭のことを見据えていたようだ。
本当に同じ高校生なのだろうか?
少なくとも半年は同じ授業を受けたはずなのに、何だか劣等感を覚えてしまう。
「我々だけが持つ武器! それがこちら!」
ナヨナヨした思考を中断して顔を上げる。
東雲さんは僕と幻中さんの間に身体を向けて、大きく両腕を広げた。
……どちら?
僕と幻中さんの間にあるのは勉強道具だけ。もっと先にも本棚しかない。
本当に何だろう?
首を傾げると、彼女は笑いながら言った。
「風早くん達のことだよ?」
「僕ですか?」
「じゃん!」
東雲さんは時代劇みたいにスマホを僕に突き付ける。その直後、聞き覚えのある音声が流れた。
「録音してたんですね」
「そう! てか意外。もっと大袈裟な反応すると思ってた。自分の声って、なんか恥ずくない?」
言っていることは分かる。喋っている時の声と機械から聞こえる声は別物だ。僕も最初は戸惑った。
「聞き慣れているので」
「何それ詳しく! いや、やっぱ待って、今はダメ。また今度お願い!」
心底悔しそうな表情。
べつに大した内容じゃないから今話しても良いけど……。
「てかシノ、本当に風早の声好きだね」
「マジそれ。超ツボ」
僕があれこれ考えていると、微妙に背中が痒くなる会話が始まった。
なんとなく二人から目を逸らして、そこで妙にそわそわしている幻中さんの姿に気が付いた。
「あの、風早くん、達、というのは?」
しばらく更新ペース落ちます。許して。許して。