顔合わせ
「この四人で、伝説を作るぞー! おー!」
放課後の空き教室。
東雲さんの声が響き渡る。
「あはは、誰も乗らない。はっず」
その後、彼女はお腹を抱えて言った。相変わらず楽しそうだ。
現在、空き教室には四人の生徒が居る。
僕と東雲さん。それから──
「いぇーい、初絡みー」
「……ぁ……ぇ……ぉ」
ゆかりんこと山根さんと、図書室で会った人。
「紹介します!」
東雲さんが図書室の人の背後に立って言う。
「二組の幻中花音さんです!」
紹介を受けると、彼女は何度も会釈をした。何だか少し親近感を覚える態度だ。
「んじゃ、マモちゃんだね。よろー」
「……ぁぃ……ぁ」
「緊張してる?」
「……ぃぁ……ぅ」
「うへへ、おもしろ」
図書室の人──幻中さんが、山根さんに絡まれている。
それを見て僕は更なる親近感を覚えた。人見知りと言ってしまえばそれまでだけど、なんというか、東雲さん達は距離感を詰めるのが速過ぎる。
……大丈夫、良い人達だよ。
ここでフォローに入れれば良いのだけど、そんなスキルは持っていない。だから、何も言えない代わりに念を送り続けた。
「んで? どうしてマモちゃんと組むわけ? 仲良かったの?」
「魂、共鳴しちゃったんだよね」
「へー、マモちゃん声フェチなのか」
「あはは、なんで伝わったし。受ける」
二人が騒ぐ程、間に挟まれた幻中さんが肩を小さくする。
唇をキュッと結び俯く姿は、それはもう親近感を覚えるもので……
「東雲さん」
「ん? なに?」
「……あ、いや、えっと」
慌てて言葉を探す。
まさか自分が声を発するとは思わなかった。
「何から、始めます?」
口を突いて出たのは短い一言。
東雲さんは一瞬ハッとした表情を見せて、思い出したかのように言う。
「皆、試験大丈夫だよね?」
「私よゆー」
直ぐに山根さんが両手でピースしながら言った。
東雲さんが質問した理由は分かる。学園祭は定期試験の後に予定されており、赤点を取った場合は補習で参加できない。そして春高の赤点ラインは常に六十点である。
六十点。
春高においては決して低くはないハードルだ。
例えば、教科書の試験範囲を丸暗記しても五十点しか取れない。残り五十点は授業を聞くか関連する資料を読み漁ることでしか得られない。
「風早くんは平均くらいだったよね?」
「はい。赤点は大丈夫だと思います」
「うし。それじゃ、えっと、幻中さんは?」
三人の視線が集中する。
彼女はビクリと肩を震わせた後、震える右手で指を二本立てた。
「よっしゃ! 試験クリア!」
東雲さんが嬉しそうに言うと、幻中さんは慌てた様子で口をパクパクさせた。
「え、違う? どういうこと?」
「……ぁ……ぅ」
「……ま?」
会話が成立している……のかな?
「シノ、マモちゃんなんだって?」
「……ふたつ、だって」
「あー、さっきのピースじゃなかったかー」
正直、最初はピンと来なかった。
だけど流石に三人の雰囲気で悟った。
ふたつ。
多分、赤点の数だ。
「試験まで、あと何日だっけ?」
「週明け直ぐじゃなかった?」
東雲さんはゆっくりと天井を見上げ、
「今回、行けそう?」
「……」
幻中さんが弱々しく首を横に振ると、東雲さんは困ったような表情で苦笑した。
しかし数秒後、彼女は何か思い付いた様子でいつもの笑顔を見せた。
「任せて!」
何を思い付いたのだろう?
分からないけど、東雲さんの笑顔を見ると安心感がある。
彼女は真っ直ぐに僕を見て、
「協力、してくれるかな?」
「……もちろん?」
何か少し違和感のある態度。
だけど提案を断る理由は無くて、僕は素直に頷いた。






