仲間割れ
まつりんこと北条茉莉さんの言葉は、僕に少なからぬ衝撃を与えた。あの四人はいつも一緒だから、学園祭もだと勝手に思い込んでいた。
「シノと一緒とか無い。ありえない」
「何それ。酷くない?」
「あーし金が絡む時はガチだから」
「そういうことなら秘策があるよ」
「どーせ声が云々っしょ? TAMしょぼすぎ」
「しょぼくないし!」
……ど、どうしよう。止めた方がいいのかな?
でも僕にできることなんて、何も思い付かない。
「面白いことになったな」
あたふたしていると後ろから声をかけられた。
クロである。彼は不思議と楽しそうな表情をしていた。
「風早は、どっちに付く?」
「どっち?」
「東雲か、北条か、それとも俺と二人とか?」
クロと二人……それも面白そう。でも、
「ごめん、もう東雲さんと約束してて……」
「そうか。やるな」
「クロはどうするの?」
「今それを考えてる」
短い返事をして、クロは真剣な目で東雲さん達を見た。
……クロ、あの三人の誰かと仲良くなりたいんだっけ。
誰なんだろう?
疑問に思いながらも、僕は成り行きを見守ることにした。
「そこまで言うなら、勝負しよう」
「乗った。負けた方が一日いいなりってことで」
「あー、良いのかなそんな条件出して?」
「当然。あーしが負ける要素ゼロだし」
……これ、本当に止めなくて大丈夫なのかな?
何かこう、上手く言えないけど、すっごいバチバチしてる。
「二人は?」
東雲さんが他の二人に向かって言った。
「智はウチで貰うから」
「え!?」
「さとりん、そうなの?」
「ええっと……」
さとりんこと三木智さんが二人に詰められ肩を小さくする。
「ゆかりん! どっち!?」
三木さんは必死な様子で言った。
「別に、私はどっちでも」
しかし、ゆかりんこと山根紫さんは眠そうな返事をした。あまり関心が無いのかもしれない。
「決まりね。あーしと智、シノとふりかけ」
「ふりかけ言うな!!」
突然の大声。
僕は最初、それが山根さんの出した声だと分からなかった。
……いつも眠そうだけど、あんな声も出せるのか。
「シノ、絶対に勝つよ」
「当然っしょ!」
どうやら山根さんはやる気になったようだ。
あまり話したことは無いけれど、普段と目付きが違う。
「智、今回は猫被んなくて良いからね」
「……あはは、困った困った」
三木さんは苦笑いだ。
北条さんが猫を被るって言ったような気がするけど、どういう意味なのだろう?
「……決めた」
隣でクロが呟いた。
なんとなく目を向けると、彼は東雲さん達の方へ歩き出した。
「ちょっと良いか?」
……すごい。あの四人に話かけるなんて。
「風早は東雲のところに入るらしい。だから俺を北条のところに入れてくれないか? このままじゃボッチなんだ」
「は? いらないけど? てか自業自得っしょ?」
……北条さん、やっぱりちょっと怖いかも。
「いや、俺は役に立つ」
「ならプレゼンしてみなさいよ」
……クロ、すごい。全然引かない。
僕が感心しながら見守っていると、クロは北条さんに何か耳打ちした。
すると北条さんは目を見開いて、クロが顔を遠ざけた後で彼を見て言った。
「あんた……マジ?」
「もちろんだ。こんな噓を吐く理由が無い」
北条さんと、それから東雲さんも驚いたような顔をしている。
……何を言ったのかな? 気になる。後で聞いてみよう。
「気に入った!」
北条さんは急に笑みを浮かべると、クロの肩を叩いた。
──かくして、チームはふたつに分かれたのだった。
※東雲さんは一般的な人類を超越した極めて特殊な聴力を持っています