学園祭
春高の学園祭は、ビジネス研修とも呼ばれている。
ルールはシンプル。
生徒が十人以下のチームを作り、一ヶ月の準備期間の後に行われる三日間のイベントで何らかのサービスを売り出すこと。チームを作る条件は、同じ学年であること。だから、別のクラスの人と組むことも許されている。
イベント終了後、各学年の売上トップに賞品が与えられる。
一年生の場合、修学旅行の行き先を決める権利が得られるらしい。因みに、予算は学園祭で得られた一年生の利益となるそうだ。
もちろん、去年まで中学生だった一年生に十分な利益を作る能力なんて無い。でも上級生達は違う。先生曰く、毎年、百万円以上の利益を出すチームが現れるらしい。
当然、それ相応の集客がある。
一年生は、そのおこぼれを得る形で旅費を稼ぐというわけだ。
春高独自のイベントは他にもいくつかあるけれど、お金という生々しいモノをテーマにしたイベントは、学園祭だけである。
僕は憂鬱だった。
友達がいなかったからだ。
でも今は違う。
東雲さん達……もしくはクロと一緒に活動できるかもしれない。
だからワクワクしている。
僕は今日、弾む足取りで登校していた。
学校まで残り角みっつのところ。
普段は僕しか通らない場所に人の姿。
「うぃー」
「おはようございます」
もしかして、という予感はあった。
東雲さん。日を跨ぐ度に角ひとつ近付いている。
「風早くん、そっちの角から来たね」
「はい、そうですね」
自分でも驚いているけれど、慣れた。
この調子で接近が続けば、そのうち家の前まで来るかもしれない。
まあ、それも、ありかな。
そんな風に思う僕は、多分浮かれている。
「行こっか」
いつものように楽しそうな笑みを浮かべて、東雲さんは歩き始めた。その半歩後ろで、彼女の横顔を見る。
「今日は体調大丈夫そうですね」
「あはは、昨日はごめんね。てかさ、あれだよね。そろそろ学園祭じゃん?」
一人で歩く時よりも少し遅い足取り。
東雲さんは、いきなり僕の話したかったことを話題に出してくれた。
「風早くん、誰と組むか決めた?」
「いえ、まだ何も」
「じゃあ組もうよ」
期待はしていた。
でも、その上で、嬉しい言葉だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「よっしゃ。あとはいつメン集めて終わりかな」
いつめん……?
イケメンの亜種かな? クロとか?
「てか風早くん聞いて。ここ来る途中で猫に会ってさー?」
そこから学校に着くまでの時間、僕は東雲さんの話を聞いていた。
内容は、特に意味の無いもの。
でも楽しそうに話す姿を見ていると、僕も楽しい気持ちになった。それから、どうして話題が尽きないのだろうと不思議だった。
……何か、テクニックがあるのかな?
そんなことを考えていたら、あっという間に教室だった。
東雲さんはいつもの三人に挨拶をして、学園祭の話をした。
すると──
「は? シノと組むわけないじゃん」
予想外の返事で、一瞬、場が凍り付いた。