Side:同盟結成(前)
こんにちは、幻中花音です。
幻中という苗字は、響きが「まもなく」に似ています。
はい、そうです。
まもなく私は処刑されます。
い"や"ぁ"あ"あ"あ"!!
説明しましょう。
あの女──東雲心音に捕まった後、言われました。
「放課後、一人で体育館の裏に来て」
い"ぎ"だ"く"な"ぃ"い"い""~!
どうなるの!? どうなるのこれ!?
──あたいの男にオモシレェ文読ませてクレやがったなぁ?
こんな感じでボッコボコにされるパターンかしら!?
──じゃあ皆、そいつ、よろしくね。
それとも屈強な運動部がニヤニヤしているパターンかしら!?
どっちもい"や"ぁ"あ"あ"あ"!!
許して! 酷いことしないでください! お願いします! 何でもします!
無視して帰りたい。でもダメです。逃げたら次は教室まで来るパターンです。
──あのさ、昨日なんで来なかったの?
──はぁ、傷付いた。どうしようかな。
──あんたが悪いんだよ?
──今日からあたしの玩具として、壊れるまで愉しませてね。
終わりです。どう足掻いても絶望です。
イベントが発生した瞬間にバッドエンドが確定しているパターンです。
……この角の、先に。
私は今、体育館の側面に居ります。
この角を曲がった先が目的地です。
……人影は?
気分はFPS。壁と一体化し、瞳半分だけ出して戦地を見る。
……まだ、誰も居ないみたいね。
どうしましょう。このまま「行ったけど誰も居なかった」ということにして帰りましょうか? いいえ、そんな姑息な手は問題を先延ばしにするだけ。
引けど進めど待つのは地獄。
ならば私は──逃げましょう。やっぱり。
ええそうよ。限界まで先延ばしにするの。
大丈夫。政治家だって数兆円規模の問題を先延ばしにしてるもの。それに比べたらギャルの呼び出しを卒業まで先延ばしにするくらい簡単よ。
はい決まりです。私の決意は揺らぎません。
さっさと帰宅して趣味の執筆活動に勤しむのです。
「ごめん、遅れちゃった」
……
「急に呼び出してごめんね。どうしても聞きたいことあってさ」
……ホラー映画かしら? 安心したところでドーンってなるアレかしら?
「てか、ここ思ったより耳キーンってなるね。ちょっと移動しよっか」
蛇に睨まれた蛙。
あるいは、ギャルに睨まれた陰キャ。
全ての意思決定能力を奪われた私は、黙って彼女の提案に頷いた。