配信の切り忘れ
「それでは、配信終わります。ありがとうございました。また来てくださいね」
マイクに向かって挨拶をして、脱力しながら息を吐く。
「……やっぱり、まだ慣れないな」
僕はMeTubeで配信者として活動している。
もちろん顔は出さない。
いわゆるVtuberである。
「今日の視聴者は、四十七人か。すごいな。クラスの人数より多いじゃん」
僕は人前で話すことが苦手だ。
でも、人と話をすることが好きだ。
配信は、矛盾した想いを叶えてくれた。
キャラクターの姿を借りることで、こんな僕でも多くの人と会話することができる。
「本当に嬉しいな。わざわざ僕のために時間を使ってくれるなんて」
この活動は、ただの趣味。
僕は会話が下手だ。トーク力なんて無い。同じ時間、千人以上の視聴者を集めるプロの配信が無数にある。
それでも僕を選んでくれる人が存在する。
たったそれだけのことが、この上なく嬉しい。
「そうだ、宿題やらないと」
僕は手元のマウスとキーボードを机の奥に移動させ、空いたスペースにノートと教科書を並べた。それから宿題を始めて、最初の一問目で頭を抱える。
「春高ほんとレベル高いよな」
しっかり予習復習をしても試験で平均点を取るのがやっと。きっと少しでもサボったら赤点。そのまま留年コースになるだろう。
「がんばろう」
呟いて、気合を入れる。
その後、ぶつぶつと独り言を口にしながら宿題を続けた。
──その声が全て、配信されているとも知らずに。
* * *
「おーい、気付けーw」
「え待ってイッくん高校生だったの?」
「トシシタァァァァァァ!!」
「はるこうどこ? 何県? 情報くれ」
「ググってもバレーしか出てこない」
「特定やめろ」
「配信中と素の性格一緒で安心する」
「わかる」
「むしろ素の方が強い。ずるい」
「わかる」
「素の声ちょっと低くない?」
「普段は緊張してるとかだったりして」
「張り切ってるのかもよ」
「かわいい」
「ささやく こえ やばい」
「わかる」
* * *
「……配信、終わってなかった」
全てに気が付いたのは、宿題が終わった後だった。
僕はいつもの四倍くらい増えたコメントを読みながら、独り言の多い自分を呪った。
「……身バレとか、大丈夫、だよね?」
インターネットは恐ろしい世界。
もしも個人情報が漏れたなら、そこが人生の墓場だと妹から教わっている。
涙を堪えてコメントを読む。
どうやら僕が「はるこう」の生徒だとバレてしまったようだ。でも「はるこう」なんて無数にある。これだけで何か特定されることは無いはずだ。
「……大丈夫そう、かな?」
──結論だけ言うと大丈夫じゃなかった。
このミスをきっかけに、僕の高校生活が大きく変わることになる。