一人じゃない昼休み
僕は大変なことに気が付いた。
なんと、まだ今日が終わっていないのである。
信じられない。まだ半日しか経っていない。
この数時間で、僕はどれだけ会話した?
分からない。ただ、確信がある。
一学期の累計会話時間、既に超えた。
……大変だ。このままじゃ一週間で卒業するまでの会話時間を使い切ってしまう。
いや、そんなことはない。
どうやら僕は混乱しているらしい。
「風早、昼は弁当? 購買?」
体育の後、着替え終わって呆然としていたら声をかけられた。
「……あ、クロさん」
僕が名前を呼ぶと、彼は「ふっ」と爽やかに笑ってから言う。
「クロワッサンみたいだからやめてくれ。クロで良い」
「分かりました」
呼び捨て。愛称。
なんか良い。友達っぽい。
「それで飯は?」
「あ、えっと、弁当です」
「それは良い。俺もなんだ」
彼は黒色の弁当箱を掲げて言った。
「あの、僕は嬉しいですけど、いつも一緒に食べてる方とか、大丈夫ですか?」
「問題ない。俺は……ソロだ」
一人ってことかな?
「意外です」
「どうしてそう思う?」
「……雰囲気?」
「ふっ、カリスマが滲み出てしまったか」
面白い人だ。
ニコニコしていて楽しそう。
「さて風早、さっきの話は覚えてるな?」
「もちろん付き合うために協力──」
「正しいが、二人だけの秘密にしてくれ」
クロは素早く僕の口を塞いだ。
二人だけの秘密。なんか友達っぽい。
僕が首を縦に振ると、クロは「よし」と言って話を続ける。
「あと数分で女子が戻る。東雲は真っ先に風早の席まで来るだろう」
「そうかな?」
「間違いない。朝と同じことになるはずだ」
「……朝と、同じ」
それは大変だ。
僕はまだ準備が整っていない。
「大丈夫だ。任せてくれ」
「……クロ」
とても頼りになる言葉だ。
「具体的に、どうするの?」
「風早は、受け答えがしっかりしている」
「……ありがとうございます」
「基本俺が喋るから、合図があるまでは普通に飯を食っててくれ」
「合図?」
「そうだな……」
クロは額に手を当てて、髪をかき分けながら上を向いた。
「足を踏む」
「痛くしないでくださいね」
「安心しろ。優しくする」
……ああ、なんだろう、この感じ。
クロとは今日初めて会話するのに、安心する。なんでかな?
「えっと、合図の後は、どうすれば?」
「その時になれば分かる」
「……分かりました」
僕は神妙に頷いた。
クロは満足そうな表情を浮かべた後、隣の席の男子に声をかけた。
「なあ、机借りても良いか?」
「うん、いいよ」
「さんきゅ」
そして流れるように机を確保すると、僕の机にくっつけた。
「机、縦にしてくれ」
言われた通り、九十度回転させる。
正面から机を合わせる形になった。
「食べられるうちに食べておこう」
「……はい」
僕は感動した。
理由はふたつある。
クロが簡単に机を借りたこと。
僕には無理だ。面識の無い人に声をかけるだけでも難易度が高いのに、物を借りるなんて、もはや偉業の領域だ。その高みに至るには、どれだけの訓練が必要なのか想像もできない。
同級生と一緒にお昼ご飯を食べること。
高校生になってから初めてのことだ。友達っぽい。ワクワクする。
僕は頬が緩むのを感じながら、机に置いた弁当箱を開いた。
「それ自分で作ってるのか?」
「はい、自分で作ってます」
「女子力高いな」
……じょしりょく? ああ、助手力かな? 家事を手伝える人、みたいな。
「因みに、俺も手作りなんだ」
彼は得意げな表情を浮かべて、弁当箱を開いた。
「黒猫ですか? かわいいですね」
「……ふっ」
おにぎりかな?
ヒゲとか目とか何を使ってるんだろ?
「おっと、早くも来たようだ」
クロは少し小さな声で言った。
「……まだ誰も来てないですよ?」
「声が聴こえるだろ?」
「声?」
耳を澄ます。確かに声は聞こえるけど、ガヤガヤしているというか、特定の誰かが来ていることなんてさっぱり分からない。
……耳が良いのかな?
僕は教室の出入り口を見る。
そして、偶然にも、そのタイミングで、東雲さんが姿を現した。
……作者です。孤独です。
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