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お空きれい

 春高の生徒は授業に対して様々な表現を使う。


「シノ何やってんの? 次のコマ体育だよ」


 例えば、何故か勝ち誇った様子で東雲さんを連れ出した右の人(まつりん)は「コマ」と表現した。


「やっと終わった。一限から英語とかマジだるかったわ」

「それな。どうせAIが言語の壁壊すべ?」


 一方で、隣の男子は「限」と表現した。

 他に「時間目」と表現されることもある。


 僕は理由を知らない。

 これはきっと会話の種になる。


 ──題して、会話攻略大作戦オフライン


 僕は会話が下手だ。

 理由はきっと経験不足である。


 ならば対策は勉強と同じだ。

 大切なのは継続的な予習と復習。より具体的には、自分の取り組みを可視化するのが一番である。計画を立て、実行し、反省して次のアクションを決める。これを繰り返すことで、圧倒的な成長を得られる……と、賢そうな本に書いてあった。


 実践しようと思う。

 いつから? もちろん既に始めている。


 先程の授業中、二冊のノートを作った。

 ドキドキした。先生に怒られたら恥ずかしいなんてレベルじゃない。


 とても怖い。だけど偉い人は言った。

 リスクを取らずに得られる成功など無い。

 

 良い言葉だ。

 僕はリスクを取ることにした。


 ……結局、一行しか書けなかったけど。


 いや、ここは誇ることにしよう。

 ゼロとイチは違う。世間一般から見れば一歩でも、僕の中では大きな一歩だ。


 偉い人は言った。

 未来を予測する最良の方法は自作自演。


 良い言葉だ。

 だから僕は作ることにした。


 必ず、会話が得意な自分になる。

 一年後……遅くとも、卒業までに!


 ……リリ、兄さん、頑張ってるよ。


 心の中で胸を張る。

 

 ……着替えるか。



 *  *  *



 時刻は午前十時頃。天気は快晴。

 今日これから運動場で行われる種目はソフトボール。


 ああ、風が心地よい。

 なんて爽やかな日なのだろう。


「よし、まずは二人組作れ。キャッチボールやるぞ」


 僕は世界が憎い。

 思わずハリウッド映画の悪役みたいな感情が頭を過るくらいに、この言葉が憎い。


 ペアを作る必要が、どこにあるのだろう?

 非効率だ。出席番号順に並べて組ませればいいじゃないか。


 僕は心の中で教師を睨み付けた。

 その間、周囲は次々とペアを作る。


 僕は心を無にした。

 ここから先は慣れている。僕は余り物として、世界から隔絶されたような劣等感を胸に、近くて遠い誰かと束の間の友情を育むのだ。


「風早、組まないか」


 お空を見ていたら声をかけられた。

 組まないか、ということは先生だろうか。


 気を遣った表現をされて逆に胸が痛い。

 中途半端な優しさを見せるくらいなら最初から出席番号で良いじゃないか。


「はい、分かりました」


 もちろん文句なんか言えない。

 僕は素直に返事をしながら目を向けた。


 結論だけ言う。

 先生じゃ、なかった。


「……どうした?」


 背の高い彼をポカンと見上げる。

 もちろん、過去に話したことは一度も無い。


「……なぜ?」


 思わず素の言葉が口から出た。

 僕はハッとして両手で口元を隠す。


「難しい質問だ」


 彼は額に手を当て、髪をかき分けながら上の方を見た。

 そして数秒後、とても爽やかな笑顔で言った。


「ぶっちゃけ下心だ」


 彼は何を言っているのだろう。


「キャッチボールしながら話そうか」


 彼は先生の方を一瞥してから言った。

 色々と気になることはあるけれど、断る選択肢は無い。


 僕は頷いて、彼とのキャッチボールを始めた。

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