超高難易度ミッション(会話)
「こちら風早くん。人間国宝です」
東雲さんが不思議な紹介をすると、三人がそれぞれ少し個性のある反応で僕を見た。
……ど、どうしよう。
予想外の出来事に心が追い付かない。
しかし時間は待ってくれない。東雲さんは他の三人に手を向け、順番に名前を呼んだ。
「ゆかりん、さとりん、まつりんだよ」
「四人合わせて!」
大きな声を出したのは真ん中の人。
何か決め台詞でもあるのだろうか?
しかし僕以外も疑問に思ったようで、皆が揃って不思議そうな表情をした。でも彼女は構わず続ける。
「りんりんりんね!」
「古いわ。ダサいからやめて」
「えー、二百億くらい売れそうじゃない?」
「採用。バンド組んだらそれで」
返事をしたのは、右の人。僕には意味が分からないけれど、東雲さんが笑っているから何か面白いことだったのだろう。
「いえーい、初絡みー」
「……あ、はい、どうもです」
左の人が眠そうな声で言った。とりあえず会釈すると、彼女は満足そうな笑みを浮かべて、スマホを弄り始めた。
「んで、シノなに? それ狙ってんの?」
「それじゃなくて風早くん」
「あっそう」
右の人が退屈そうな目で僕を見る。
「あんたの声帯ホルマリン漬けにされるよ」
「しないし。変なこと言うな」
「あやしい!」
口を挟んだのは真ん中の人。
東雲さんは目を細めて言う。
「ノート見せるのやめるよ?」
「まつりんのばーか!」
「んじゃ、こっちは昼飯出すわよ」
二人からジトっとした目で見られ、真ん中の人は口の前でバッテンを作った。
……会話が、とてもハイテンポだ。
四人が次々と声を出す。
目の前に居るのに、誰が誰に喋っているのか油断すると分からなくなりそうだった。
僕は意識を集中させる。
現実世界にログは無いから聞き逃せない。
しばらく四人が会話を続けた後、右の人が僕を見て言った。
「んで、風早、何くんだっけ?」
「……あっ、えっと、一颯です」
彼女は僕の名前を聞くと、何やら楽しげな様子で東雲さんを一瞥してから言った。
「イッくんって呼んでもいい?」
「……いや、それはちょっと」
「なら普通に一颯くん。どうかな?」
「……それなら、はい」
僕は困惑した。
だって、すごい猫撫で声だった。
「あはははは!」
そう思った直後、彼女が急に高笑いした。
「シノより先に名前呼びしてやったわよ! どう!? 悔しい!?」
なぜ東雲さんを煽ったのだろう。どうして僕は東雲さんに睨まれているのだろう。
「気にしないでいいよ。あいつのウザ絡み、いつものことだから」
左の人がスマホを弄りながら僕に言った。
「紫それ聞こえてんだけど」
「……めんどくさー」
もしかして、あまり仲が良くないのかな?
「風早くん」
「……はいっ」
名前を呼ばれ背筋を伸ばす。
ちょうどそこで、チャイムが鳴った。
「んじゃ、またねー」
「ばいばーい」
左の人と右の人が言って、無言の真ん中の人と一緒に解散した。
東雲さんだけは数秒残り、
「 」
結局、何も言わず席に戻った。
……良かった。何事も無く終わった。
僕はこっそり安堵の息を吐く。
その直後に教師が現れ授業が始まった。
授業中、一番前の席に座る東雲さんの姿がチラチラと目に入る。その度に僕は、彼女は何を言いかけたのだろうと考えていた。