表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/49

友達の定義

 僕の通学手段は徒歩である。

 移動時間は十分くらい。その間、普段は心を無にしている。でも今日の僕は、ふと友達の定義について考えていた。


 友達とは、何なのだろう。

 例えば「友達になろう」と申し込み、それを相手が受け入れた瞬間から「友達関係」が成立するのだろうか?


 違和感がある。

 例えば僕がイメージする友達は、体育などで自然とペアになったり、休み時間に話をしたり、休日に会って遊んだりと、そういう気の置けない関係のことである。


 全くイメージできない。

 東雲さんと休み時間に話をしたり、何かの授業でペアを組んだり……しないと思う。


 ならば、僕と彼女の関係はこれまで通りのクラスメイトであり、何も変わっていないのではないだろうか。


 ……どうしよう。


 きっと会話が不足している。

 もっと沢山の会話をすることで、一般的な友達関係に近付けるはずだ。


 しかし、何を話せばいいのだろう?

 ……少しシミュレーションしてみようか。


「こんにちは!」


 と僕が声をかける。

 きっと東雲さんは挨拶を返してくれる。


「今日は良い天気ですね!」


 と僕が言葉を続ける。

 きっと東雲さんは何かしらの反応をしてくれる。


「…………」


 終わりだ。会話終了だ。

 ここから会話を続ける方法が浮かばない。


 そもそも、いつも友達と一緒な東雲さんと会話する機会なんて、あるのだろうか?


 大変だ。これは非常に良くない。

 何か考えなければ、僕は空気のままだ。


 ……でも、どうすれば?


 頭が真っ白になりそうだ。

 しかし諦めるわけにはいかない。僕はリリを安心させられる兄になりたい。


 ……普通の高校生って、どうやって友達と会話してるんだろう。


 あれこれ考えながら歩く時間は一瞬で、気が付けば学校に到着していた。


 ……他の人を、参考に。


 校門から昇降口へ向かう途中、チラチラと周囲を見た。そこで僕は、ほとんどの人達が二人以上で行動していることに気が付いた。


 ……おかしくないか?


 教室で会うなら分かる。でも学校に着いた時点で一人じゃないってどういうことだ?


 ……同じ家に住んでる、とか?


 いや、それはない。

 一組二組ならともかく、この数は異常だ。


「お、風早くんじゃん。やっほー」

「おはようございます」


 ならば他の可能性……

 ダメだ、皆目見当が付かない。


「なんか難しい顔してんね。どしたの?」

「友達と一緒に登校している人達は、どこで会っているのかなと」

「電車とか待ち合わせとかじゃね?」


 そうか、電車だ。駅で一緒になったのだと考えれば違和感は無い。


「ありがとうございます。おかげで……」

「ん? おかげで、なに?」


 すぐ隣。とても見覚えのある人物。

 微笑みを浮かべ首を傾けた姿を見て、僕は思わず叫んだ。


「東雲さん!?」

「あはは、リアクションでっか。おっそ」


 お腹を抱え楽しそうに笑っている。

 ひとしきり笑った後、彼女は「はー」と息を吐いてから僕に言った。


「もしかして気付いてなかった?」

「それは、その……考え事をしていたので」

「そっか。なら良かった。メッチャ塩対応でマジ焦ったし」

「……すみません」

「いいよいいよ。てか早く教室行こ」


 そう言って彼女は僕に背中を向けた。


 ……嵐のような人だ。


 僕は上履きに履き替えて、教室を目指す。


「風早くん、いつもこの時間?」

「はい、大体この時間ですね」


 それにしても驚いた。まさか向こうから声をかけてくるとは思わなかった。


「風早くん、また何か考えてる?」

「はい、そうですね」


 僕は足を止めた。

 そして、いつの間にか隣を歩いていた人物の姿に気が付いた。


「「東雲さん!?」」


 真似しないでください!


「あはは、おもしろ」


 心底楽しそうに笑う姿を見て、無性に背中が痒くなる。

 

「てかガン無視とか酷くない? 泣きそうになったんですけど」

「無視……?」

「絶対一緒に教室行く流れだったじゃん」

「……そうだったんですか?」


 正直に返事をすると彼女は目を丸くした。


「あはは、風早くんガチじゃん。おもしろ」


 ガチとは、何を意味する言葉なのだろう。

 さっぱり分からないけれど、僕の何かが彼女のツボに入ったらしい。


「今度は何を考えてたの?」


 もう次の会話!?

 どうしよう、考える暇が無い。


 ここはあえて沈黙することで時間を……


「当ててあげようか?」


 沈黙さえも許されない!?


「あたしのことでしょ」

「……正解です」

「マ? 何それ、どんなこと?」


 僕は唇を噛み、教室へ向かう。

 完全に彼女のペースで、なんというか、心の整理をする時間が欲しかった。要するに僕は逃げ出した。


「んー、何かなー? 気になるなー?」


 しかし、回り込まれてしまった。

 彼女は僕の隣を歩きながら、とても楽しそうな様子で問いかけてくる。


「ねー、いいじゃん。教えてよ」


 僕はそっぽを向いて彼女を無視した。

 我ながら失礼な反応だ。しかし、それがまた面白いようで、彼女は楽しそうな様子で声をかけ続けてくる。


 ……あと十秒くらい。


 教室は目と鼻の先。

 そこまで耐えれば、きっと東雲さんは他の友達を優先する。


 短いようで長い時間。

 僕は、どうにか自分の席に辿り着いた。


「そろそろ教えてよー」


 どうして目の前に!? 

 そこ東雲さんの席じゃないですよ!?

 

「あれ、シノ? またそれと絡んでんの?」


 ……あ、終わった。


「最近仲いいよね」

「珍しい」


 いつもクラスの中心で騒いでいる四人が、僕の机を取り囲む。


 ……どうする? こんなの、想定してないぞ。


 背中に冷や汗が滲む。

 朝の会が始まるまで、恐らく残り十分くらい。


 僕は、とても困難な状況に陥ったことを理解した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼この作者の別作品▼

新着更新順

 人気順 



▼代表作▼

42fae60ej8kg3k8odcs87egd32wd_7r8_m6_xc_4mlt.jpg.580.jpg c5kgxawi1tl3ry8lv4va0vs4c8b_2n4_v9_1ae_1lsfl.png.580.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ