新しい朝
目を覚ました時、ふと思うことがある。
これから始まるのは新しい一日か、それとも昨日の続きか、どちらなのだろう。
多分どちらも間違いではない。
きっと僕自身も日によって意見を変える。
今日は、続きなのだと思いたい。
水を熱したら沸騰するように、胸躍る今日が始まったのは、僕が行動した結果なのだと信じたい。
それなら今日も頑張れる。
もっと良い明日のために、行動できる気がする。
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僕はゆっくりと身体を起こす。
ベッドから降りようとして、目が合った。
「一颯さん、おはようございます」
リリがベッドの横に座っていた。
「おはよう。どうしたの?」
「一颯さんを見ていました」
リリはベッドの端で頬杖をついたまま、僕を見て微笑む。
「かわいい寝顔でした」
「リリこそ、かわいい寝癖が付いてるよ」
「一颯さんは爆発しています」
「そんなに?」
気になって自分の髪に触れると、リリが楽しそうに肩を揺らした。
「ところで一颯さん、まだ時間には余裕があります」
僕は壁にある時計を確認する。
短い針が、まだ六よりも前にあった。
「提案です。妹と一緒に二度寝しましょう」
「しないよ。今日は目覚めがいいんだ」
「なるほど。目覚めの悪い日であれば、良いのですね」
「リリ、何かあった?」
リリの発言はいつも通りだ。
でも、こうして朝から甘えるのは珍しい。
「一颯さんに、お友達ができました」
リリは微かに僕から目を逸らす。
そして、どこか拗ねた様子で言った。
「一颯さんの一番は、リリです」
その言葉を聞いて、思わず頬が緩む。
スッカリ大人らしい外見に成長したのに、まだまだ中身は子供のままみたいだ。
「一颯さんは、リリの二番です」
「ありがとう。因みに、一番は誰なの?」
質問すると、リリは得意げな表情をした。
「リリです。一颯さんが大事にしてくれるリリを、誰よりも大事にしています」
「そっか。それは良いことだ」
僕が笑うと、リリは少し唇を尖らせた。
「一颯さん。そこは『じゃあ僕の一番も僕自身だ』と言って、リリを喜ばせるところですよ」
「ごめん、思い付かなかった」
「リリは心配です。現役高校生は常に面白い発言が求められていると聞きます。リリすら喜ばせられないようでは、また直ぐにリリと二人きりですよ」
なるほど、と思った。
要するにリリは、僕のことが心配で仕方がないのだろう。
複雑な気持ちだ。
素直に嬉しいけど、同じくらい情けない気持ちにもなる。
「一颯さん」
名前を呼ばれ、俯いていたことに気が付いた。
僕はリリに顔を向けて、どうにか笑みを浮かべる。
「どうしたの?」
リリは僕を見て、
「お友達、いつか家に呼んでくださいね」
それはきっと、家に呼べるくらい仲良くなることを願った激励だった。
「分かった。頑張ってみるよ」
かくして、僕は妹に背中を押され、昨日の続きを始めた。
これから何が起こるのかは分からないけれど、できるだけ早く、リリに心配させないような兄になりたいと、そんなことを思った朝だった。






