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1-6 ギルド訪問

 昨日は暗くてわからなかったが、小さな村ではなく、街であった。

 襲撃を受けたのは街の一部の地区のみらしい。


 門を通って、俺は街の中に入った。


 おお、まさに想像通りの異世界の街並みだ!


 赤茶色、薄黄色、白と色彩が統一された街並みが続く。

 道の途中で、ザックザック歩く冒険者チームとすれ違う。


 あれは魔法使い? あれは戦士なのか?


――カンカンカンカン


 昨晩の修理だろうか、金槌の音が、午前中の晴れ空の下に響き渡る。修理をしているのは犬の顔をした人だ。屋根の上で、長い口に釘を咥え、家を修理している。


 獣人もいるのか? すげえ嬉しい。


 電車の通勤時間に、異世界ラノベで現実逃避していたが、ほんとにこっちに来たんだ!


 年甲斐もなく、喜んだのがバレバレだったのか、ナツキさんは、微笑んで俺を見ている。


 街に入って感動していたので、最初はわからなかったが、周りの視線が突き刺さる。

 そりゃそうか。周りは長袖なのに、ナツキさん、下半身のスーツの上着以外、ほぼ布切れで裸足だもんな。


「あそこのリンゴのマークのお店がギルドです」


 ギルドが見えてきた。

 ギルドと言えば、酒場を兼ねていて、荒くれ者の冒険者達が集まっているのが定番だ。

 何よりも、美人受付嬢がいる!


 ああ、ワクワクするな。

 どんな冒険者が集まっているのだろうか?

 どんな受付嬢が働いているのだろうか?


――カラン


 ナツキさんがギルドのドアを開ける。

 俺は心躍らせながら、彼女の後に付いて入った。


 入ると、すぐ目の前にカウンターがあった。狭っ!

 そして、そのカウンターには、食堂のおばちゃんみたいな、恰幅のある中年女性がいた。

 彼女は、立って何かの帳簿をつけている。


 俺はこの光景に見覚えがある……

 スーツを出していた近所のクリーニング店だ……


 もちろん、こんな狭いところに冒険者はいない。思ってたのと違う……


 すぐに俺たちに気付いた中年女性はナツキさんに声をかけた。


「あら、ナツキちゃん、いらっしゃい。昨日のゴブリン襲撃、大丈夫だった? って、その様子だと大丈夫じゃなかったみたいだね」


「危なかったです。でも、この人に助けてもらいました。彼もギルドで冒険者登録をしたいそうで、ギルマス、お願いできますか?」


 この人が、ギルドマスターなのか。


「あ、お願いします。名前はまだなくて」

「名無しさんね。ちょっと待ってて」


 彼女は奥の部屋に向かった。何かの準備をしているようだ。俺は小声で、


「登録料とか必要あります? お金持ってないです」


 と、ナツキさんに尋ねた。


「必要ないですよ」


 ナツキさんはニコッと微笑んで答えた。ひとまずはよかった。


 しばらくすると、ギルマスが戻ってきた。


「ちょっと、こっち来てちょうだい。今から、鑑定するから」


 奥の部屋に通される。


「体調は問題ない?」

「あっ、はい」


 昨日、転生したばかりだしな。鑑定魔法は体調が悪いと正確なステータスがでないらしい。健康診断かな。


 鑑定魔法紙で鑑定された。特に前とステータスは変わってない。


「職業、虫とり? あなたー、ちょっと来てー」


 奥からコックの恰好をした大柄の厳つい男性が出てきた。


「虫とり? 聞いたことないぞ。スキル魔導線? 一応、魔法が使えるのか?」


 魔法がまともに使える人は1割にも満たないとのこと。

 ナツキさん、エリートに入るのか。


「しっかし、レベルが低いな。異世界人か? どっから来た?」


 初対面でもズケズケと言ってくる。ちょっと苦手だ。

 しかし、こっちは情報弱者だ。我慢、我慢。


「ビッグバンユニバースと言われるところです」

「ナツキちゃんと同じとこか。どうせ地球という星の日本区だろ? 神のお気に入りか最近多いんだよな、そこから来る異世界人。

 そこじゃあ、魔法がなくて、肉体が死んだら、魂がユニバースから追い出され復活できねえと聞いている。あと、そこに転生しても、知識も何も引き継げねえって転生の意味ねえじゃねえか。つまんなそう」


 我が故郷に結構辛辣。当たってるのもあるけど。


「あと笑えるのは、ビッグバンというすんげえ小さい点からマップが始まって、そこからずーとマップが拡張してるらしい。しかも、最速が光らしいけど、それ以上の速さでマップが拡張しているわけわからん仕様っていうじゃねえか。

 あそこのユニバースの設計やった神、頭大丈夫か? まともな俺らの神に感謝だぜ」


 あの胡散臭い女神、一応感謝されてるのか。


「登録申請終わり。虫とりということだけど、装備品はどうする?」


 ギルマスがギルマス夫の話を切り上げ気味に訊いてきた。


「お金がないです」

「うちで借金すればいいよ。少額なら貸すよ」


 異世界で借金なんて考えてなかった。ナツキ先輩に相談しないと。


「ちょっとナツキさんに訊いてみます」


 ギルド内の掲示板を見ていたナツキさんに相談してみた。


「借金ですか? 初めはする人多いですよ。私もしましたし」


 そういえば、冒険者って事業みたいなものだしな。借りるかな?


「今なら、100キロバイトまで利息月6%でいいよ」


 えっ、お金の単位がバイト? 記憶装置だ。しかも100キロバイトとは。昔に使われていたフロッピー以下。安く見えるけど。


「ナツキさん、日本だとどれくらいの感覚ですか?」

「10万円ですね。商品にもよりますが大体1バイトは1円とみていいです。月6%も新人冒険者には妥当ですよ」

「年換算だと日本の法定上限金利を大幅に超えてないですか? めちゃくちゃ高いじゃないですか?」

「確か年換算で100%ぐらいです。担保がない場合、インフレとか回収率とか費用とか加味しても、1年で返す人と返さない人が半々で、元取れるくらいでしょうか。勝手にいなくなる人が多いこの業界で、実績がない新人冒険者には妥当だと思います。トイチを取るとこもありますし。信頼を得られればもっと低くなりますよ」


 そういやナツキさん、経済学部だった。でもヤクザ用語は使わないで欲しい。


「それなら借りてみます」


 10万ぐらい大丈夫か。


 装備は何にしよう。ギルマス夫が何か持ってきた。


「あんちゃん、虫とりだから、これなんてどうか? 虫系モンスター専用装備っ!」


 いや、それ白の半ズボンに半袖、虫とり網に虫とり籠。小学生かよ。麦わら帽子いる? 流石に、同郷のナツキさんもアラサーに片足突っ込んだ男が、こんなん着たら引くでしょう。


「すごい! カッコ良さそう! 虫とりさん、体毛薄いですし、絶対似合いますよ!」


 何この高反応、あと、ギルマスの夫のドヤ顔が見える。異世界に行ってファッションセンス、おかしくなった? これは買う雰囲気か。断れなさそう。


「えーと、いくらですか?」

「虫とりなんて職業初めてみたし、在庫なくしたいから安くしとくよ。10キロバイトでどうだい?」


 これは交渉の場面か? 異世界といえば、値切り交渉も醍醐味。それなら、


「9000バイトでどうですか?」

「9キロバイトじゃなくて? 知ってるんだな。業界では1キロバイトが1024バイトって。仕方ない、俺からの先行投資ということで、9000バイトにしとくよ」


 やっぱりSSDやハードディスクなどの記憶媒体と同様に異なる換算方法があった。ギルマスが夫の背中を叩いて、


「この人、防具卸しの時に、これで痛い目にあったからね。金額が大きいほど差が出るから気をつけてね。メガバイトで5%近く差があるから。2の10乗の1024が1000に近くてね。知らない人を騙すために広まった業界慣行で、曖昧な時は明確にした方がいいよ」


 そうなのか。まあ、何はともあれ、交渉成功。こっち来てから、散々な目ばっかりだったけど、ようやく一つ成し遂げた気がする。


「何か訊きたいことある? 冒険者登録に時間がかかるから、その間、質問受け付けるよ」


「ギルマスは、こういう冒険者とのやり取りもやってるのですか?」


 俺は、ギルドが予想していたものと違ったので、つい訊いてしまった。


「若い受付嬢じゃなくて悪かったわね」


 ギルマスは低い声でそう答えると、俺をギロリと睨んだ。


 マズイ!

 失敗した!

 ギルマスを怒らせてしまった!

 値切り交渉がうまくいって、気が緩んだために……


 ギルマスと上手くやっていけないと、俺の冒険者生活ってほぼ絶望的じゃない?


 ど、どうすりゃいいんだ?


【フロッピーディスク(ふろっぴーでぃすく)】

 1990年代まで主要だった書き込める外部の【記憶媒体】(後述)で、1971年IBM社から初めて販売されました[W1][W2]。本来のフロッピー(Floppy)の意味は、「柔らかい」になります。サイズは、複数ありますが、最終的には3.5インチが主流となりました。保存容量も時代とともに増量されてきて、最終的には1.44MBが主流となりました。今だと、フルハイビジョン(解像度:1920X1440)の画像ファイルが一枚ようやく入るぐらいでしょうか。

 現在では、ほとんど見かけることもなく、生産も終了していますが、一部の公的機関をはじめ、レガシーシステムが使用されているところで、いまだに現役です。また、実物は見かけませんが、多くのソフトウェアで保存アイコンとして使用されています。



【SSD(えすえすでぃー)】

 ソリッドステートドライブ(Solid State Drive)の略で、データを保存する補助記憶装置(主記憶装置(メモリーなどCPUの計算に直接使用する記憶装置)以外の記憶装置)の一つであり、通常はフラッシュメモリが使用されます[W3][W4]。2022年現在、フラッシュメモリには、NAND型フラッシュメモリが使用されています。

 2010年代に普及が進み、後述の【HDD】にとって代わりました。HDDと比べ、高額でデータ保持期間は短いですが、静音で高速、省スペース・省電力であり、頻繁にアクセスする、OSがインストールされているドライブに最適です。

 USBメモリも同じく、NAND型フラッシュメモリを使用していますが、こちらはリムーバブル(取り外し可能)として認識され、使用されます。一方、SSDはOSをインストールするなど恒常的にアクセスする記憶装置として使用されるように設計されています。

 SSDのDの数は、HDDとは異なり、一つです。HDDと違い、記録先がディスク(円盤)ではないため、Dが一つです。



【HDD(えいちでぃーでぃー)】

 ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive)の略で、【SSD】と同じくデータを保存する補助記憶装置の一つで、プラッタと呼ばれる円盤(ディスク)にデータを磁気記録します[W5][W6]。HDDをエイチディーディーとは読まず、ハードディスクドライブもしくは、正式ではないですが、ドライブを除き、ハードディスクと呼ぶこともあります。筆者もその一人で、HDDと書いていても、ついハードディスクと呼んでしまいます。

 歴史は古く、IBMサンノゼ研究所の研究チームによって開発され、1956年に当時のコンピューターの部品の一つとして発表されました。50枚の24インチ(約61cm)のプラッタで構成され、3.75MB(1バイト=8ビット換算)を保存できました。

 それから75年以上たった今、100万倍以上で、手のひらに収まるくらいのハードディスクが、簡単に手に入るまで技術が進みました。

 このハードディスクの歴史は、有名な経営学者クレイトン・クリステンセンの名著「イノベーションのジレンマ」[1]でも紹介されるほど、変化に富んだものです。その著書では、経営では王道と見られる、既存顧客の声を聞いて、技術向上に励み、性能を向上させていた、市場を支配していた大企業が、技術が高くなく低性能だが、物理的サイズを小さくして、新たな使用方法を開拓していった新興企業に敗れるという歴史が繰り返されていることが示されました。

 HDDは、SSDに比べ、安価で大容量であり、故障してもデータ復旧しやすいため、データを保存するドライブに適しています。



【記憶媒体(きおくばいたい)】

 補助記憶装置によりデータを保存する媒体になります。上記のフロッピーディスク、SSD、HDDの他、DVD、USBメモリ、SDメモリーカードなども該当します。記録媒体とも言います[W7]。ただ、人によっては、読み書きできる媒体が記憶媒体、読み込みのみの媒体が記録媒体と使い分ける場合もあります。通常の使い方だと、記憶は頭に、記録は紙になるので、記憶の方が、忘れやすく、消え、簡単に変わるからでしょうか。



【キロバイト(きろばいと)】

 記憶単位「バイト(※1)」の千倍を表します[W8]。国際標準では、1キロバイト=1000バイトが正しいのですが、ウィンドウズをはじめ、メジャーなOSは従っておらず、業界慣行の1キロバイト=1024バイトが使用されています。

 サイズが小さい場合はそこまで問題ないですが、大きい場合、パフォーマンスの計測や記憶容量の余裕分の計算などに影響があるため、どちらの数値か気を付けなければなりません。


――――――――――

※1:0もしくは1の状態を表すビット(bit:binary digitの混成語)の集合で、国際標準で1バイト=8ビットと規定されています。歴史的には、8ビット以外を指すこともありました。バイトの綴り『byte』は、biteからきており、bitと区別できるようにiがyに変わりました[2]。



 物語では、このロジックで、ギルマス夫が過去に騙されたようです。



[参考文献]

[1]: Christensen, Clayton. (1997). "The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail". Harvard Business Review Press.

[2]: Blaauw, Gerrit Anne.; Brooks, Jr., Frederick Phillips.; Buchholz, Werner. (1962). "Planning a Computer System - Project Stretch". McGraw-Hill Book Company, Inc.

http://archive.computerhistory.org/resources/text/IBM/Stretch/pdfs/Buchholz_102636426.pdf


Wikipedia:

[W1]: https://ja.wikipedia.org/wiki/フロッピーディスク

[W2]: https://en.wikipedia.org/wiki/Floppy_disk

[W3]: https://ja.wikipedia.org/wiki/ソリッドステートドライブ

[W4]: https://en.wikipedia.org/wiki/Solid-state_drive

[W5]: https://ja.wikipedia.org/wiki/ハードディスクドライブ

[W6]: https://en.wikipedia.org/wiki/Hard_disk_drive

[W7]: https://ja.wikipedia.org/wiki/記録媒体

[W8]: https://ja.wikipedia.org/wiki/キロバイト


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