1-4 ナツキとの就寝
再生後だからか、いつのまにか腐敗臭はしなくなっていた。
村の火が消えて、周囲は星だけが照らす夜の闇となった。
ナツキさんは、ポーチから小さな石を取り出した。
そして、綺麗な細い指の手で、ぎゅっと握って、ゆっくり開く。
すると、その石は白く眩く光り始めた。
「これ、光魔法石です」
その石の光は、周囲の木々をゆらゆらと照らしだす。
ナツキさんは、その石を手のひらでコロコロと転がした。
枝葉の影がコロコロと変化する。
この世界は、石や紙で魔法を発動するのか。
「今日は再生で疲れました。先に寝ますね」
彼女はおもむろに体育座りして、ポーチから何か取り出した。そして、再生したばかりの綺麗な足の先を掴む。
「再生した指の爪が思った以上に生えてきて。真夜中に爪切りは良くないんですが、再生後は柔らかくて切りやすいんです」
――パチン、パチン
彼女は手の爪も切った後、黒い円柱形のものが付いている飾り気のない首飾りを俺に見せた。
「この首飾り、マウスピースになるんです。私、歯ぎしり、すごくて。多分、大丈夫だと思いますが、寝ている間、うるさかったらごめんなさい」
「いや、気にしないでください。私もイビキがうるさいかもしれないので」
ナツキさんは微笑んで、
「寝床を作らないといけないですね。素材を集めてきますね。しばらく待っててください」
と言うと、光る石を手にしたまま、森の中に入って行き、消えて行った。
しばらくして、彼女は、毛布に似ている大きな葉っぱを数枚、その上に、丸く包まった草を手一杯持ってきた。そして、平らなとこにそれを敷き、簡易ベッドを用意した。
「この草、ベッドの素材に最適なんです。でも、あんまりなくて、1名分のベッドしかできません。虫とりさん、よかったら使ってください。私、ゾンビですので、硬くても気にしないです」
気を遣ってくれるいい子だ。いいや、ここはレディーファーストだろう。
「いいえ、ナツキさんが使ってください。私はスーツを使って、ある程度柔らかくできますので」
「いえいえ」
「いえいえ」
このやりとりを何回繰り返しただろうか。
ナツキさんは、少し恥ずかしそうに、
「それなら一緒に寝ますか? 私、ゾンビですけど……気にしないのでしたら」
と提案した。
おっと、ここはどうする?
ここですぐに了承すると下心あると見られるが、ここで断ったら、ナツキさん、ゾンビであることを気にして傷ついてしまうかも。そう、下心はないが、ナツキさんが傷つかないため。ナツキさんのためだと自分に念を押し、
「わかりました、むしろ、ナツキさんが良ければそうしましょう!」
添い寝することになった。そうなると、彼女のほぼ下着姿の格好が気になる。
「ナツキさん、寒そうなので、スーツを貸しましょうか」
「そうしたら、虫とりさんが寒いでしょう」
「でも、その格好じゃあ」
ナツキさんは、少し悲しそうな表情をして
「私、ゾンビになって、寒さをあまり感じないんです。虫とりさんは人間なので寒いと思います。ここの大きな葉っぱも使ってください」
あの葉っぱも俺のためだったのか。ああ、なんて優しいんだ。ゾンビなのに惚れそう。
「それでは、疲れてるので、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
ナツキさんは、マウスピースをつけ、寝床へ横になった。そして、光る石を再度握り、光を消した。俺もナツキさんの隣で寝た。
それから数十分、やはり、ほぼ下着姿の女子が隣で寝ていると考えると、俺の鼓動が。
俺には刺激が強すぎる。
眠れない……
向こうは眠ったのか?
「うぅん」
どうやら、寝返りを打ったみたいだ。
近くで彼女の寝顔を見ようと思って、彼女の方に身体の向きを変えてみた。
彼女はこちらに寝顔と谷間を向け、小さな寝息をたてていた。
谷間を見ると余計眠れなくなるので、俺は彼女の寝顔を見る。
(マウスピースを付けてるが、よく見るとアイドル並に可愛いな。ゾンビだけど。目も大きいな)
急に眼球が飛び出した。
(ゾンビだけど……)
俺は静かに眠ることにした。
**
うう、何か胸が苦しい。俺の上に何か乗ってる? 目がまだ開かない。柔らかいものが胸に当たってる。
「ナツキさん?」
何かの液体が口元に垂れた。
目がようやく開いた。
「ヒーーーッ!」
目の前にナツキさんらしき片目が飛び出たゾンビが、乗っかって俺を食べようとしている。だが、マウスピースのおかげで喰われてはいない。
うわあああああ、逃げないと。
ナツキさんを払いのけ、立ち上がった。が、腰が抜けそうになる。
なんとか、走った。いや、寝起きでうまく走れない。
なんとか、逃げた。後ろを見る。ナツキゾンビが向かってくる!!
……が、遅い。
あ、何かに引っ掛かっている。
コケた……
しばらく、様子を見てみる。
あ〜あ〜言ってるなあ。
動きは遅そう。少し高台に登り、休むことにした。
**
2〜3時間ぐらい眠っただろうか、高台の下までナツキゾンビが来ている。
だが、それ以上来そうにない。
俺は、近くの枝でナツキさんをおちょくって遊んだ後、眠くなってそのまま眠った。
【ゾンビコンピューター(ぞんびこんぴゅーたー)】
コンピューターウイルスなどにより、外部の攻撃者に乗っ取られたコンピューターのことです[W1]。乗っ取られたコンピューターは、それらでネットワークを構築し、DDoS攻撃(複数のコンピューターでサーバーに負荷をかけてサービスを提供できなくすること)などに利用されます。
ウイルスプログラムは、利用者に見えない形で実行され、乗っ取られたことに気づかないことが多いと言われています。
物語では、ナツキはゾンビウイルスにより、ゾンビになり、ナツキが気付かない寝ている間、人食欲に乗っ取られました。
[参考文献]
Wikipedia:
[W1]: https://ja.wikipedia.org/wiki/ゾンビコンピュータ