夢、腕試し
新年明けましておめでとう御座います。今年も良き年になってほしいです。なるべく更新していきたい。
(──また……この夢だ)
ある時から見るようになった夢。いつも木々に飲み込まれた村のような場所に立っている。かつて人が住んでいたであろう住居は大木によって崩れ、その木の枝には腹を貫かれた人の死体がぶら下がっており、草木の香りに紛れて死臭が漂う。太い蔓の先には、絞め殺された動物の死骸があり、蔓の先から血が滴っている。辺りに人の気配は無く、見渡すと遠目にもいくつかの死体が確認できた。
(そしてこの先に……)
森の中を歩いていくと段々と泣き声が聴こえてくる。声の元へ向かうと長い茶髪の少女が1人、座り込んで泣いていた。
(いつも同じ光景、気づけば森の中にいて、進むとこの少女が泣いている。そして彼女に近づこうとしていつも目が覚めるんだ)
少女に近づこうとするショウ。だが、今回はいつもと違っていた。
「──どうして……私は……皆を幸せに……」
少女は啜り泣きながら言葉を発する。そして近づこうとしたこちらに視線を向ける。その少女の顔にショウは見覚えがある。
「君は──」
ショウが声を発したと同時に無数の茨が少女を覆い、茨がショウの胸を貫いた。
「ッ!!」
『あぅっ!!?』
飛び起きたショウとのぞき込んでいたイブの額がぶつかり、額を押さえながらイブが蹲る。
(本当に死んだかと思った……)
貫かれた胸を確認し、安堵するショウ。そんなショウを涙目のイブが睨む。
『痛〜、急に起きたら危ないでしょ!』
「ごめん、思わず……おはようイブ」
『許す!おはよう!それよりご飯食べたら稽古場に来いってさ』
「わかった」
(あの女の子は……確かに……)
夢の中の少女の事を頭の片隅に置きつつ、洗面所へと向かった。
「今日から鍛錬始めるぞ、と言ったがその前に、お前に言っておくことがある」
食事を終え、稽古場にやって来たショウにロイドが真剣な表情を向ける。
「俺が剣でお前に教える事は無え」
「………は?」
「教える事は無いって言ったんだ」
「………ちょっと待って下さいね」
頭を抑え、気持ちを落ち着かせ、聞き返す。
「どういう事です?」
「そもそもイブの教えを受けている時点で俺が教える事なんざあるかよ。剣の腕は十分だろうよ、正直、お前は充分強い。お前ぐらいの年でそこまでやれる奴なんざそうはいない」
「……でも俺はまだまだ未熟です」
「当たり前だ、未発達の体、魔力の扱いもまだまだ拙い。何より、経験が足りない」
ロイドが木刀を片手に立ち上がる。
「ショウ、ちょっと剣出して構えろ」
刀を2本取り出し、構える。
「腕試しだ、今から1回だけお前を斬る。防いでみろ。剣は何本使っても構わねーぞ」
「わかりました」
(油断はしない、何処から来てもおかしくないつもりで……)
返事と共に放たれた殺気は、場の空気を一変させた。稽古場は静寂に満ち、先程まで聴こえていた鳥の囀り、微かに聴こえる風のそよぎ、揺れる木々のざわめき、その全てが止み、ただ心音だけがより強く聴こえてくる。
どれ程の時が経ったか、刹那が永遠に感じる程の緊張。動かば死──そう言わんばかりの重圧。体中を切り裂かんばかりに殺気が肌に突き刺さり、一気に汗が吹き出る。
(呼吸の仕方すら……忘れそうになる)
「いくぞ?」
直後、ショウの首が飛んだ。
(何が…いや、何故首が飛んだかより相手が何をするかを見定めないと)
首を飛ばされて尚、ロイドの動きを見定める事をやめない。
(やっぱり、実際は斬れていない)
斬られたと思ったのは一瞬で、ショウの首は胴体と泣き別れとはいかず、しっかりとくっついている。首を手で確認する暇もなく、先程まで数m離れた場所に立っていたはずのロイドが目の前に立っていた。
(正面!!接近する姿を追いきれない、まずい…!)
先程の光景がフラッシュバックし、咄嗟に首を庇う様に構えたが、木刀はショウの体を両断する軌道で振り下ろされ、ショウに当たる直前で停止した。
「俺の勝ち。今のが戦場なら綺麗に真っ二つだ」
「―――参りました」
(手も足も出なかった。気も魔力も使ってなかったのに……)
ハハハッ、と笑うロイドからは先程までの殺気は感じられない。
「どうだ?首を飛ばされた感想は?」
「──死を感じる事はあっても首を飛ばされたのは初めてです。その瞬間は驚きましたが、終えてからは首を飛ばされた体験に少し心躍りました」
(しかし、今日はよく死を感じる日だな……)
「やっぱ何処か変わってんなぁ、驚きはすれど歓びはしねえよ普通。まぁいっか。──殺気で死を予期させる、こういう技術もある。モンスターとの戦いじゃあなかなか体験できることじゃあ無い。とはいえ、唐突に首が飛んでんだ、もう少し焦ってもいいんだがなぁ」
「死んだらそこまで、生きてるなら見ないと損でしょう?」
「可愛げがねえなぁ」
頭を雑に撫でられ、髪が乱れる。
「お前の強みは手数の多さ、それと対応力の高さだ。知識があれば対応策を考える事もできる。発想力があれば相手の意表もつきやすい。その為の知識、あとはそれを活かせるだけの身体能力と魔力操作の鍛錬、俺ができるのはそれくらいだな」
「つまり、剣以外なら教えられると?」
「まぁそういう事だな。ここまで来させて何も得ずとはいかせねえよ」
木刀で自身の肩をとんとんと叩きながらニィッと微笑む。
(良かった……急に何言い出すのかと思ったぞ。ちゃんと学ぶ事がある、俺はもっと強くなるぞ)
「それと1つ、お前に教えておきたい魔法がある」
「魔法ですか?」
「ちょっと待ってろ」
そう言うとロイドは稽古場から出ていってしまった。程なくして戻ってきたロイドは石と紙を持っていた。
「この紙に……ファイア」
指の先から小さな火を出し、紙の端に当てる。
「よく見とけよ。ここに石と炎がある、これにある魔法を使ってくっつけると……」
両手に持った石と燃える紙に魔力を込め、押し付けると、眩く輝き出す。光はすぐに消え、ロイドの手には火の消えた紙と石だけが残った。
「ただ火が消えただけのように思えるが、実はそうじゃない」
石を床に落とすと石が急激に燃え上がった。
「おぉ…!」
鎮火させた石を拾い上げる。
「これが結合魔法だ。2つの物質を結合させてそれぞれの力を引き出しつつ、別の物を作り出す事ができる。普通は武器が無いって時に今みたいにそこら辺の石に炎をくっつけて投げたり木の枝と鉄片混ぜて簡易的な鉄棒作ったりと困った時にあったら役に立つかもしれない程度の魔法だ。ただ、お前が使うなら話は変わる」
ショウの持つ魔剣を指差す。
「お前、今までいくつかの魔剣を組み合わせて威力を増幅させていただろう?」
「してましたね」
炎を風で増強したり、水に雷を流して感電させていた事を思い出す。
「この魔法を使う事でより効果的にそれができる。2本それぞれに使う魔力を1本に纏め、威力は以前より更に上がる」
「なるほど、確かに俺向けの魔法かもしれないですね」
「手札が増えるに越したことは無い。鍛錬の合間に練習してみろ。だが言っておくが、お前に限っては中々難しいと思うぞ?」
ロイドは含みのある笑みを浮かべた。
(語り部)
「僕に時間はあまり関係ないけれど、新年明けましておめでとう。初夢はどうだったかな?ショウの夢見は良いとは言い難かったけれど、いい夢を見れたなら良かったね。良くなかったなら、気にしなければいいんじゃないかな?因みに僕の夢見は良くも悪くもないよ、寝ないからね」




