相変わらずだな、ここは
意気揚々と帰路につくショウ達。間もなく夏季休暇だからか、他の生徒達の表情も概ね明るい。
「いや〜思ったより簡単だったな、試験!」
「それはそうだろう、まだ1年でそんな難しい内容をやるものか。難しめの問題もあったけど比較的簡単な方だったよ」
「よく言う、結果を見るまで不安そうにしていただろうに。良く出来たと言ったり駄目かもしれないと沈んだり、情緒が留守だった」
「うるせぇ、結果が良けりゃいいんだよ!!それより打ち上げしようぜ!」
呆れるレイとロウダスに騒ぐライガ。だがショウだけはどこか心ここにあらずといった様子。
「どうしたショウ?お前は結果良かっただろ?なんか悩み事か?」
「……いや、なんでも。あぁ、打ち上げなら先に帰っていてくれ。俺は行く所があるから」
そういうとショウは駆け足でその場を立ち去っていった。
「どうしたんだショウの奴?いったいどこに……」
「何か予定があったんだろうさ。ついていくのは無粋だよ」
「尾行なんてしねーし。それより今日は豪勢に行こうぜ!」
『豪勢に無礼講といこう!!なら胸ぐらい揉んでも』
『明日まで氷漬けと悪夢を見続けるならどちらがいい?』
『……良い夢見るのは駄目?』
『両方でもいいぞ』
『……黙りま〜す』
セクハラを許されなかったゼウスは静かにしょぼくれていた。
_______________________
「な、なんじゃ!?」
未だ日は高く、賑やかな街中。突如騒音と共に店の壁をぶち破り巨漢が飛び出してきた。巨漢の飛来する先を歩いているお爺さんは突然の事に躱すのは間に合わない。
「ひぇっ……!!?」
潰される覚悟をしていたお爺さんだったが、その身に巨漢が激突する事は無かった。
「大丈夫ですか、お爺さん?壁の破片とか当たらなかったですか?」
巨漢とお爺さんの間にはショウが立っており、巨漢を片手で受け止めていた。
「お〜、助かったわい少年。のしイカになるところじゃった!」
「ここを通る時は気をつけた方がいいですよ、よく物が飛んできますから」
「そうするわい!」
笑って立ち去っていくお爺さんを見送ると気絶している巨漢を持ち上げる。
「しっかし……相変わらずだな、ここは」
「店の外までぶっ飛んでいきやがったぜ!!」
「……あまり店を壊すなよ」
「わーかってるよ店主!負けたあいつにちゃんと弁償代払わせるからよ!!」
酒場は明るい内から多くの冒険者で賑わっていた。男が外に出ようとすると、子供が先程外に飛んでいった男を持って入ってきた。男の身長は2m近くあり、それを持ち上げる子供に酒場の冒険者達の注目が集まる。
「喧嘩するなら周りに気を配ってやれ。もう少しでお爺さんに当たるところだったぞ」
ショウが男を床に下ろすと、その喧嘩相手に文句を言い始める。
「わりーな、そいつが弱いくせに生意気だったからよ、殴ったら思い切り吹き飛んじまってな。今度は地面に叩きつけるわ!がっはっはっは!!」
「それと、ちゃんと店の壁の修理代くらいは払えよ」
「勿論だ、そいつがちゃんと払う」
気絶している男を指差しながらジョッキの酒を飲み干す。
「お前も払えよ。壊したのはお前だろ」
「あ〜?さっきからなんだガキ…?いちいち突っかかってきやがって。口の利き方もなってねぇ、ここは子供の遊び場じゃねえぞ?」
「大人なら修理代くらいしっかり払え」
「黙れガキぃ!!」
酔った男の振り上げた拳がショウ目掛けて飛んでいく。だが、拳の標的が消えた。
「あ、あり?どこいった?」
「舌噛むなよ」
「あがっ…?」
懐に入ったショウの回し蹴りが男の顎を打ち抜き、男の意識を刈り取った。
「2人の喧嘩で壊したんだ、2人で割り勘しろよな」
周りの冒険者から歓声が上がり、一際賑やかになった。気絶していた男が目を覚ますとショウを怒りの形相で睨みつける。
「クソガキィ……!!やってくれやがったな!!!」
再び拳を振り上げた男だったが、振り上げた拳が振り下ろされる事は無かった。
「これ以上恥の上塗りはやめろ。とっとと酒代と修理代置いて今日は帰れ」
男の腕を店主が掴んでいた。男の腕はピクリとも動かない。
「でもよ店主!こいつを殴らなきゃ俺の気が……ヒッ!!?」
「………」
殺気混じりの店主の凄みに気圧されて黙る男。そのまま代金だけ置いて飛び出していった。
「久しぶりだな、ショウ。お前がここに来るとは珍しいな」
「久しぶり、店主。子供だからね、用もなければ酒場には来ないよ」
何事も無かったように親しげに話してくる店主。ここでは喧嘩など日常的な為に壁に穴が開こうと誰も大して気にとめない。
「何か飲むか?」
「いや、人に会いに来たんだ、多分ここにいると思うんだけど。ここにロイドさんいる?」
(イブが探知したから多分いるだろうけど)
「ああ、あいつに会いに来たのか。あいつなら奥だ」
空間拡張された広い店内を奥に進んでいくと、既に何本かの空瓶が置いてあるテーブルでロイドが酒を呷っていた。
「よぉショウ、久々だなぁ」
「昼間から飲み過ぎじゃないですか?」
「お前が来そうな気がしたから飲みながら待っててやったんだろ?それで俺に何か用か?」
「単刀直入に言います、夏季休暇の間だけでもいいので、俺に剣を教えて下さい!」
周りで飲んでいた冒険者達は耳を疑った。近年、ロイド・グレイサーが弟子をとったことは無い。例え高名な剣士であっても全て一蹴されてきた。それをこんな子供が口にするのだから身の程を知れと言いたくなるほどだった。だがそれより衝撃的であったのは。
「おう、いいぞ」
ロイドが即答で許可したことであった。
(嘘だろ!?各国の腕のある剣士が志願しても相手にされなかったのに!!)
(他国の騎士団長とかSランク冒険者もいたのに……こんな子供がいいなら他はなんで駄目だったんだろ)
「ん?どうした?ぼうっとして。場酔いしたか?」
「いや、すんなり許可されたもんだから面食らっただけです」
「そりゃそうだ。お前は弟子の条件満たしてるし、俺もお前の事は嫌いじゃねえ。断る理由はねーよ。というか、イブはいいのかよ?」
『私が教えられる事にも限度があるからね。私、身につける事は出来ても教えるのはそこまで得意じゃ無いし』
「まぁ文句ねーならいいや」
「それなら……」
「ただし、条件が1つある」
「条件……?」
「夏季休暇、楽しみになってきたな!」
酒場を出たショウは来たる長期休暇に胸を踊らせていた。
「………まさかショウが……飲酒?駄目だぞショウ、酒は良くない!!」
たまたま買い出しに来ていたライガに酒場を出る所を見られ、誤解されたショウは後でライガに飲酒について諭される羽目になった。
(語り部)
「店主はロイド及びショウの両親達の知り合いらしく、ショウの小さい頃からの顔馴染みらしいよ。昔は傭兵をやってたらしいけど今は喧嘩の絶えない酒場の店主。現役退いた今でもかなり強いらしいよ」




