黒い箱、粉砕
周りを囲っていた黒い壁が突如砕け、生徒達が解放される。
「外に出られたのか…?てことは誰かが鍵を全部手に入れたんだな!」
「やっとモンスター達から解放された…」
だがそれと同時に目の前には新たな絶望が存在していた。
「きゃあああああああああああああっっっ!!!」
「な…なんでここに……ドラゴンが…?」
魔道具が消えたと同時にパニックに陥る。結界の外からもドラゴンの姿が確認され、騒動になっていた。
「おいおい、折角鍵を手に入れて解決したかと思ったらとんでもないのがいやがるじゃねーか……」
「あんなのどこから出てきたんだい?敵に従魔士でもいたのかな?」
「それよりショウが戦っている、助太刀にいくぞ」
『その必要はなさそうじゃぞ』
ライガ達も戦闘に参加しようとするが、ゼウス達によって止められる。
「あ?どういうことだよ?」
『上じゃ』
「上?上に何が……」
上を見上げると上空から巨岩がドラゴンの頭上に落下し、火を吐くドラゴンの頭を潰した。
「これ以上は死者が出かねないのでね、お開きとしよう」
上空からショウ達の前に降りてきたのは行方不明だった学院長だった。
「あの魔道具をどうやって!?あれは外からも内からも壊す事は不可能な筈……!」
「単純な話です、魔道具の耐久値を上回る攻撃をしただけですよ。頑丈ではありましたが壊せない程ではありませんでしたね」
「そ、そんな馬鹿な……ドラゴンの攻撃にも耐えると聞いていたが……」
学院長の解答に呆然とするエミールを尻目に、学院長がショウに話しかける。
「実に素晴らしい戦いだった。良く彼を生かしながらあの戦況を切り抜けましたね、ショウ・シュヴァルツ君」
「見てたんですか、学院長」
「ええ、全ての戦いをね」
「だったらもっと早く助けてくれても良かったと思うんですが?」
「それでは成長の機会を奪ってしまうでしょう?あんな状況はそうはないですからね、突発的な危機は良くも悪くも良い経験になった事でしょう。これでトラウマを抱える者もいるかもしれませんが。それに最低限の支援はしていました。死者が出ない程度にね」
先程まで満身創痍だった生徒達の傷が傷跡一つ残さず治っていく。ナウロに顔を焼かれた生徒達も元通りに治っていた。
「生命力が尽きぬよう最低限の回復と強化魔法による支援もしていましたし、本当に誰か一人でも死ぬような事態に陥っていたら介入しようと思っていましたが、それぞれの力で突破したのはやはり称賛に値いします」
微笑みながら称賛の声をかけてくる学院長に不満を抱くショウだったが、後ろの岩がぐらつくのが目に入る。
「学院長!!」
「流石ドラゴン、あの程度では潰れませんか」
「ゴルァァアアアアアアアアッッ!!」
岩を吹き飛ばし、起き上がりながら豪火を放つドラゴン。
「ファイアバースト」
学院長の放った炎がドラゴンの炎を押し返し、ドラゴンに直撃する。
「ゴルルルルルゥゥゥ……」
「竜の鱗は伊達ではありませんね、大して効いていないようだ。だいぶ相殺されてましたしね」
大したダメージを受けていない様子のドラゴンを見て興味深げに観察していた学院長に竜の尾が迫るが、透明な壁のような物に防がれる。
「大した膂力ですが、この程度なら問題ありませんね」
暴れ回るドラゴンの攻撃を防ぎ切る学院長。
「結界に強化魔法、回復も……学院長の魔法ってどういうのなんだ?それにさっきの炎の魔法、ファイアバーストって炎の汎用中級魔法の筈だけど、全くの別物だったぞ」
ショウは疑問に思いながら戦闘を眺めていた。手助けに入りたい所だが、今入っていっても足手まといにしかならず、学院長もそれを望んではいない。貴重な相手を観察している最中であり、楽しんですらいる。
「ゴルァァァッ!!」
「いかせないよ」
「ゴルッ!?」
飛び上がろうとしたドラゴンだったが、突如凄い勢いで地面に叩きつけられる。地に這いつくばるドラゴンの4本の脚を光の槍が串刺しにし、地面に縫い付けた。
「なかなか楽しめましたよ」
地面から岩の刃が生え、ドラゴンの首を分断する。先程まで暴れていた四肢は動かなくなり、竜の目から光が消えた。
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その日は休校となり、生徒達は皆帰宅させられた。学院側も報告やらドラゴンのせいで壊れた箇所の修復やらで忙しくなるらしい。
「エミール先輩、さっき別の力に頼る事の何が悪いって言ってましたよね。俺は別に、あの鎧の力を使う事を悪い事とは思ってませんよ」
「……え?」
呆然と座り込んでいたエミールが、ショウの言葉に思わず声が漏れる。
「与えられた力とか言ったら俺も人の事言えないですし。だから先輩があの力を手に入れた事は別に良かったんです。目的はともかく。ただ、力に呑まれたのがいただけない。どんなに凄い力を手にしても制御出来てなければ手に入れたとは言えないんです。力は制御出来て初めて自分の力って言えるんですよ。だから次は暴走しないよう頑張って下さい」
「いや……何の話をしているんだ貴様?」
「さっき俺が言ったことに怒っていたんで誤解を解こうかと。ようはあんな力使って暴走するくらいなら使わない方がいいし、使うなら使いこなせって事です。俺が強くて嫉妬したから今回の騒動を起こしたんですよね?だったら俺より強くなれるよう頑張って下さい」
目の前の後輩の言動に苛立ちを覚えはする物の、言い分は間違いでも無い。平民にハンデ付きで負けて追い詰められていたとはいえ、安易に胡散臭い話に乗って理性を失った。手を出さなければという後悔が込み上げて来る。
「……私は平民がつけあがるのが許せなかった。平民が自分に優るのが許せなかった。だが、今回の私は力に溺れて王女殿下に手を出そうとした。ましてや目の敵にしていた相手に助けられたとあっては自分で自分を許せん。だから今回は平民の貴様の話も自身への罰として聞き入れてやる。次は貴様を完膚無きまでに叩きのめす。私の力でな」
(王族の殺害未遂、罪は重いだろう。次などきっと来ないだろうがな)
そういうとエミールは駆けつけた王国騎士団に連れて行かれた。
学院長の魔法
領域
自身が定めた領域内での魔法の強化。設置型と展開型があり、設置型は広範囲を領域化出来、地形も自在。代わりに一カ所しか指定出来ず、別の場所に指定する際は解除しなくてはならない。展開型は自身を中心に一定範囲に展開する。円形にしか展開出来ず、効果範囲もさほど広くない。
(語り部)
「学院長が使っている魔法は全て汎用魔法だよ。領域はかなりの魔力消費と強化値がイマイチな魔法で、短時間優位になれる程度の魔法の筈が、学院長の膨大な魔力と汎用魔法の熟練度と領域自体を鍛え続けた結果、広範囲を守りながら攻撃出来て味方に各種バフと継続回復を施せるチートになってしまったんだよ」




