vsガウル2
(俺では……勝てない)
壁に激突し、意識の飛びかける中、ロウダスはそう結論づけた。自身の攻撃を全て受けきり、その上で繰り出された一撃は想像を絶する威力を誇った。今生きているのは奇跡であると思える程である。
(意識が……)
気づいた時には先程までとは異なる風景の場所に倒れていた。何も無いそこはこの世のものとは思えなかった。
(俺は死んだのか……)
『死んでないよ~』
『!』
振り向くと、毎日見続けてきた人物が雲に乗って漂っている。
『オネイロス。俺は死んでないのか』
『そうだよ~、死んでたらここにはいないさ~』
間延びした声で喋るオネイロスが雲から転がり落ち、着地する。
『お前、立てたんだな』
『そりゃ立てるよ~、疲れるけど』
『それは良かったが、それより今の状況を説明してくれ』
『了解~。今僕達がいるここはロウダスの心の中の隔離空間で、ロウダスがあの虎君にやられてる最中に僕がここに呼んだ訳だ。これを君に渡す為にね』
オネイロスの手には黒い鍵。不思議な力を感じるそれをロウダスが受け取る。
『これはショウの言っていた……なら門もあるはずだが?』
『あるよ~、ここに』
オネイロスの手の先には広大に広がる空間だけがある。
『………』
無言で歩いていくロウダスの後ろをオネイロスがついていく。幾らか歩くと、何も無い場所で立ち止まる。
(何も見えないが、この鍵と同じ物をここから感じる)
ロウダスが手を伸ばすと、何かに触れた感触と共に巨大な門が現れる。
『今のロウダスなら見つけられると思ってたよ。後は門を開けるだけだよ~。そうすれば君は今よりも強い力を手にできる』
そう言って再び雲に寝転がるオネイロス。だが、ロウダスの手は動かない。
『オネイロス、この門を開けて力を手にしたとして、俺はあいつに勝てるのか?』
『ん~?無理じゃない?』
オネイロスは適当そうにそう答える。
『彼は凄く強いからね~、狼王の一撃も受けきっちゃうんだもの~』
『……そうだな。正直奴がどれ程強いのか、底を知ることすら出来ていない。これからどれ程の力を得れるのかもわからないが、それで勝てるとは思えないんだ』
頭を過るのは最後の光景。巨人と見紛う程の巨体が眼前を覆い、迫る腕は抗う気力を根こそぎ奪うに十分な絶望を孕んでいた。ロウダスは再びあの絶望と戦う事に恐怖を抱いていた。
『狼王はあんなのより強かったよ』
『……!』
『狼王の強さは彼の比じゃなかった。彼が本当の狼王の一撃を受けていたら肉片すら残らなかったよ。ロウダスの力じゃまだそこまで再現できないけれどね。このままあんなちっぽけなものを狼王の一撃だと思われちゃうのは僕はやだな~』
『それは……そうだな。母の名を貶める訳にはいかない』
未だ恐怖は拭えないが、立ち止まる訳にもいかない。止まっていた手は鎖を解き放ち、門を開ける。ロウダスの姿は黒き門とはかけ離れた強烈な光と共に消えていった。
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「馬鹿な……今の一撃でもう既に立つことすら出来ぬ程の損傷の筈だぞ……」
ふらつきながら立ち上がったロウダスの体から魔力が溢れだし、ロウダスの周りの景色が揺らめく。
「まさか…!おいみんな避難するぞ!!」
「え!?」
「魔力暴走を起こしかけているかもしれん!!」
入り口で見守っていた教師達が急いで隣の部屋へと避難していく。
「これ程の魔力、余力があるようには見えなかったが……何が起きた?」
不思議に思いながらも行く末を見守るつもりのガウル。だがここに割と慌ててる者が他にいた。
『これは不味いな~、思ったより魔力量が多かった。ロウダスどうにか抑えてー!』
ロウダスは気づいてからすぐさま魔力を抑えにかかったが、抑えきれない。許容量ギリギリの魔力をぶちまけないように留めてはいても少しずつ溢れ、ロウダスの周りの揺らめきが段々と広がっていく。
(魔力が……抑えられない!!このままじゃ戦い以前の問題、俺自身吹き飛びかねん!!)
すると、オネイロスがロウダスの後ろに唐突に抱きつく。
(な、何を…)
『仕方ないから少し力を貸すよ。暫く起きれなくなりそうだけど』
オネイロスの体から力が流れ、ロウダスの目の前には存在し得ない光景が流れた。
「これは……」
それはロウダスの母、狼王のかつての姿だった。狼王が一体の竜と死闘を繰り広げていた。辺りは戦いの余波で焼け野原と化し、正に地獄絵図。竜の炎と狼王の吐く光線がぶつかり合い、巨大なクレーターが出来た。永く戦い続けていた両者だが、時が経つにつれ、どちらが勝っているかが見えてくる。竜の炎を躱し、その喉元を噛み切り、竜の首を切り落とした狼王は勝利の雄叫びを上げた。
「これが……母の全盛期なのか?」
『そう、かつて起こった出来事であり、歴とした狼王の実力だ。これに比べたらあの虎君がいかほどのの物かといものだよ。君はこの力の一片を引き継いでいる。恐れる必要はないよ』
先程まで暴走しかかっていた魔力が抑えられ始め、安定していく。
(魔力は精神に左右される。精神が不安定だと暴走しやすい分、確固たる意思があればどこまでも強くなれる。後はロウダス次第~……)
オネイロスはロウダスの中に戻っていき、深い眠りについた。
「どうやら暴走は止めたようだな。それで、まだやれるのか?」
完全に魔力を押さえ込んだロウダスに戦闘の意思を確認する。
「ああ。あまり長くは保たないが」
「なら遠慮なしの一撃で終わらせてやろう!!」
一直線に近づき、上から叩きつけるように拳がロウダスに降りかかる。
「な…!?」
ガウルの拳が止められた。拳を止めたのは巨大な怪物の手。
「獣の宿り身・鬼」
それは東洋に語られる怪物。額に角を生やした異形。ロウダスはその異形の姿を全身に纏っていた。
「ふんっ!!」
「ぐぅっ!!」
ロウダスのパンチを受けてガウルが後退る。
「力は大した物だ。まるで本当の鬼のようだな」
「今まで一部しか纏えなかった物が全身に纏えるようになった。だがそれでもお前を倒すには至らないだろう」
ロウダスの力には自然治癒力を上げる効果もあるが、それでも元が重傷。これ以上は保たない。
「だからせめてこの一撃で、一矢報いよう」
駆け出すロウダス、その速度凄まじく、避けきる事は叶わない。
(元より受け切る腹積もり、全力で来るがいい!!)
両の腕を上下に構え、具現化するのは巨大な顎。
「これは……!?頑虎!!」
防御に全力をかける。
「狼王の牙は竜の鱗すら噛み砕く。獣の宿り身・狼王の顎!!!」
毛を固めたガウルの皮膚を容易く喰い破り、血を撒き散らす。技を繰り出したは良いものの、今の一撃で完全に体が動かなくなったロウダス。そこに近づくのは全身を血で濡らし、足を引きずりながら歩くガウルだった。
「……見事。狼王の力の一端を確かに垣間見た」
鍵をロウダスの手に握らせ、その場に座り込む。
「確かに今できる最高の一撃だった。だが……まだ母には遠く及ばないな……」
そこでロウダスの意識は途切れた。
獣の宿り身
ロウダスの新たな力。全身にオーラを纏い、オーラを猛獣やモンスターの形に変え、その力を再現出来る。発動している間、自然治癒力が上がり、戦闘継続しやすくなる。狼王の力はランクが高すぎる為、全身は再現出来ず、力も完全には再現出来ていない。




