侵入者と放課後デート
「流石だわ、ショウ!私の目に狂いはなかった!」
コレット達が試合場の出口でショウが戻って来るのを待っていた。
「ショウのお陰で儲かったから後でなんか奢るぜ!あと魔剣返すな」
ライガはショウが勝つのに賭けていたらしく、上機嫌だった。
「ありがとう。いい経験になったし、やれてよかった。次は魔剣無しでもリビングアーマーを斬れるようになりたいな」
歓声と共に見送られるショウとは裏腹に、エミールには嘲笑の声が上がった。
「一年坊主に負けるなんてな」
「しかもハンデありでだろ?」
「自分にならともかく、相手にハンデつけさせて負けるとか!」
「だっさ〜」
目を覚まし、試合場から立ち去るエミールの表情は屈辱と憎しみで覆われていた。
「ショウ・シュヴァルツゥッ……!!」
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それから1週間が経った今でもエミールは笑いものにされた。信用を失い、取り巻きもいなくなり、同じ貴族階級の生徒達にも見下された。
「くそっ!学院のゴミ共め……言いたい放題言いやがって!!!私より遥かに劣る蛆虫如きがぁっ!!」
手に持ったグラスを叩きつけ、踏みつける。だがその程度で怒りが収まることはなかった。
「ショウ・シュヴァルツ、奴のせいで私はっ……奴を叩きのめすにはどうするべきか」
自室で思考を巡らせているエミールがふと気づく。
「…窓を閉め忘れたか?」
いつの間にか開いていた窓を閉めようと外を見ると何者かがバルコニーに立っている。
「誰だ!ここがストレンジス家と知りながら狼藉を働きにきたのか!」
頭を布で覆った侵入者は人差し指を口に当て、静かにする様に促す。
「怪しい者に見えるだろうが、ご容赦を。別に君の命を取りに来たとかでは無いんだ。ただ、ちょっとしたお話をしにきただけなんだよ」
「話だと?」
布を巻いた顔の隙間から見える口の両端が釣り上がる。
「ショウ・シュヴァルツに勝ちたくはないか?」
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「ショウ!今日の放課後空いてる?」
「空いてますが、何か用事ですか?」
コレットの問いかけに答えると、コレットがにんまりと笑う。
「街に連れてって!」
「放課後は門から城まで馬車ですよね?」
「うん!だから連れ出して!」
「えぇ……お断りします」
「どうして!」
「どうしてじゃないですよ。俺が怒られてしまいます」
文句を言うコレットをどうにか宥めようとする。
「私、一度でいいから食べ歩きとかしてみたかったの。ショウなら騎士達に気づかれずに抜け出せそうだから……」
見るからにしょんぼりしているコレットを見てライガ達が助け舟を出す。
「別にいいんじゃねーか?放課後に少し抜け出すくらいなら俺達で誤魔化せるって」
「お茶会に呼ばれた事にすれば2時間くらいは稼げるよ」
「まかせろ」
「そうしましょう!これで怒られないで済むわ!」
行く気満々のコレットに気圧され、仕方なく承諾した。
「ありがとうライガ、レイ、ロウダス!」
この1週間でコレットの王女としての化けの皮は剥がれ、今や素の状態でいることが普通になった。気軽に話すショウ達の影響か、他の生徒も気後れする事なく話すようになり、クラスでも人気がでている。成績も優秀で教師からの信頼も厚い。
「それじゃ、よろしくね!」
「……まぁいいか」
『放課後デートだね!』
放課後に魔法で姿を隠しながら門の前の騎士達の横を通り過ぎる。
「本当に便利ねぇ、どうやってるの?」
「秘密です」
実際はイブに透明化の魔法をかけてもらっただけである。完全に姿を消すなどショウには出来ない。
「さぁ、タイムリミットがあるんだから早く行きましょ!」
「そうですね」
「それと、お忍びだから敬語はなしね。もう私も繕うの面倒で辞めちゃったし、貴方も普通に話しなさい」
「……わかった。それじゃあ行こうか、コレット」
「……う、うん」
紅くなるコレットの手を引きながら街へと繰り出していく。
街で色々と見て回っては目につく食べ物を買って食べていた。
「これ、ホットドックっていうの?美味しいわ!街には城では見ない美味しい物が沢山あるのね〜」
美味しそうにホットドックを食べるコレットを眺める。
「……な、何よ。大口開けて食べてはしたないと思ってる?これってこうやって食べるものなんでしょ?」
「そうだよ。ただ、取り繕わなくても気品を感じるというか、綺麗だなって思っただけだよ」
「……!ゲホッケホッ、な、なに言うの急に!」
「大丈夫か!?何か飲み物買ってくる!」
「あ、ちょっ……不意打ちはずるいわ……」
走っていくショウを見ながら頬が熱くなるのを感じる。そこへ、酔っ払った冒険者が近寄ってきた。
「なんだ〜お嬢ちゃん、1人でこんなとこいると危ねえ〜ぞ〜」
「余計なお世話よ。連れもいるわ!」
「連れなんて置いていって俺と飲まねぇか〜?お酌してくれよ〜」
酔っ払いの伸ばしてきた手を払いのける。
「や!」
「……何しやがるこのガキ!」
振り上げられた拳が当たる事はなかった。
「明るい内から酔いすぎですよ」
割って入ったショウが拳を手の平で受け止めていた。
「ごめんコレット、一人にして。これ飲んでて」
買ってきた飲み物をコレットに渡す。
「んだちび。騎士様気取りか〜?」
「なんとでも。俺達はそろそろ帰るので」
「おい待て…」
手を伸ばそうとする酔っ払いがつんのめる。いつの間にか酔っ払いの足元が凍っていた。
「なっ!おいこれ解きやがれ!」
「失礼」
「きゃっ!」
コレットをお姫様抱っこして空を飛ぶ。下からは子供に手を上げようとした酔っ払いへの非難の声が上がっていた。
「そろそろ戻らないとですよ、姫様」
「……ショウ、これからはさっきまでみたいに普通の話し方がいいわ。その方がいい」
「コレットがそういうなら」
王都を空から眺めながら学院へと飛んでいった。
(語り部)
「顔を隠した侵入者とか話なんて聞かずに人呼んだ方がいいと思うよね。呼ぶ前に殺されるかもしれないけどさ。それとこの屋敷、警備はしっかりしてるからくぐり抜けられるなら結構な実力者だと思っていいよ」




