身体強化と出力調整
「ボーラ、もっと集中しろ。速度がバラバラだ、一定の速度を保て。アンとアニーはもう少し魔力量を増やしてやってもいけそうだな。プレイン、魔力が放出されてるだけで回せてねえぞ、押し留めろ」
次の日以降も魔力循環の授業が続いた。
「逃げながら全員の指導もちゃんとこなしてる辺りが余裕ありまくりって感じで腹立つぜ…」
「余裕が無けりゃあこんなやり方できないだろうよ。文句あるなら捕まえてみろ」
ライガとレイが挟み撃ちでレジルを追いかけるが飛び上がって簡単に躱される。
「お?」
視線の先にはロウダスが飛びつこうとしてきていた。
「空中なら逃げられない筈」
「そうでもないぞ」
身を捻ってロウダスの手を避ける。着地と同時にショウが駆けてくるが、着地点にショウが到達するまでにレジルは横に移動できる。
(先生の動きをよく見ろ、移動先に先回りしなきゃ追いつけない。移動する方向がわかれば…)
身体強化を目に集中し、移動する方向を見極める。
(出力を上げた身体強化をずっとし続けるのは負担がかかる。ロイドさんが言ってた、ずっと力を込めておくのは大変だって。刀だってそうだ、振るときにだけ力を込めた方が振りやすい。一瞬だけ、踏み込む時にだけなら負担は少なく済む。出力の切り替えが上手くできないと身体強化自体が上手くいかなくなるけど、これなら!)
レジルがショウを躱そうと横に移動しようとした瞬間、踏み込み時に身体強化の出力を上げ、普段以上の速度でレジルに手を伸ばす。だが…
「残念、時間切れだ」
授業終了のチャイムがなり、レジルが宙に跳んでショウを躱す。
「あと少しで触れそうだったんだけどな…」
「出力の切り替えはなかなか難しいだろ、良く出来たな。これなら明日からはもう少し難易度上げても良さそうだ」
「げぇ、まじ?」
ライガが心底嫌そうな顔になる。
「それじゃあ各自、自主鍛錬も怠るなよ」
そう言ってレジルは訓練場から出ていった。
「身体強化の出力調整、まだ上手くはいかないな」
「俺なんかできねえよ。上げても継続し続けられねえし、結構疲れるしよ。元に戻そうとして身体強化きれてコケたしな」
「明日からは難易度上がるらしいね、今でも追いつけないのに」
「俺達も出来るようにならなきゃついていけないな」
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「走り込みが足りないんじゃないか?少し身体強化の出力を上げただけでへばったりして。まだ走って追いかけてるだけだぞ」
フローヴァに叱咤され、ショウ達が項垂れる。あれ以降、より速度が上がったレジルに追いつくことが出来ず、身体強化の出力調整を試みながら走り続ける日々だった。
「出力調整出来るようになってきただけ、マシだろうが…」
「これを戦闘中にやれなきゃ意味がない。それも魔法を使いながら。今のままじゃあ使い物にならない」
「でも前より出来るようになってきてるのは確かだからね、そのうち普通に出来るようになってくるよ」
イブにフォローされながら訓練場を出ていく。
訓練場を出て訓練着から着替えて帰る支度をする一同。
「明日はダンジョン行くんだろ。モンスターとやれるのは楽しみだな!というか、どこのダンジョンにいくんだっけ?」
「確かダムダ炭鉱って言ってた」
ダムダ炭鉱、王都の北にある炭鉱で、かつては質のいい石炭が採れていたが、ダンジョンと化してモンスターが現れてからは怪我人が続出し、廃鉱となった。それでも石炭の質は下がるどころか、魔力の影響で上がっているため高い需要があり、依頼は絶えない。
「あそこはゴーレム系モンスターが出るんだったね。打撃に強いモンスターだけどライガは勝てるのかな?」
「勝てるわ!お前こそ体ひょろいんだから氷みたいに砕かれるなよ!」
ライガ達が言い争いを始める中、ショウは物思いに耽っていた。
「どうした、ショウ?」
「いや、俺達を連れて行ったほうが良いって理由って何だろうなって考えてただけだよ。ロイドさんはただの勘って言ってたけど、何かあるのかなって」
「聞いてみるか?」
「答えてくれないだろうなぁ、本当にただの勘ってだけで何もないかもしれないし」
明日のダンジョンにそれぞれの思いを馳せながら帰っていく。
(何も無い、それこそありえないかな)
イブも明日何が起こるかと期待と不安を胸にショウを追いかけていく。
(語り部)
「身体強化は魔力を込めれば込める程効果は上がる。そして量が増えるにつれ、求められる魔力循環の速度も上がっていく。当然、難易度も跳ね上がる。入れ物に入れた水をかき混ぜるのに似てるよ。半ばまで入れた水をかき混ぜる分には溢れないけれど、入れ物の上の方まで入れて勢い良くかき混ぜると溢れてしまう。でも勢いがないと成立しない。だから難しい。まぁ何度もやってる内に器が大きくなれば勢い良く混ぜても溢れなくなるだろうけど。ようは反復練習って大事だよねって事さ。




