幕間 狼王と狩人
「来てしまった……人の村に……」
森の中で見かけたあの人に会うためにここまで来てしまった。まぁ来てしまったなら仕方ない。あの人を探すとしよう。と思っていたのに
「何このいいにおい!こっちの方から……」
匂いの先では露店で鳥肉が焼かれていた。
「おっ、そこの別嬪な譲ちゃん!食いたそうな顔してんなぁ、1本いるか?」
「い、いいんですか?私お金持ってないですよ?」
「全然いいぜ!別嬪さんがいい顔で食べてくれりゃあ儲けモンだ。宣伝にももってこいだしな。ついでにリピーターになってくれりゃなおいい。ほれ、ちょうど焼けたぞ」
肉を焼いていたおっさんが串を1本渡してくれた。
「それなら遠慮なく……うわぁ、うまぁ!臭みもなくてコリコリした食感が楽しい。香辛料も程よく効いててお酒が欲しくなるこれ!」
(調理したお肉久々に食べた……うまぁ~)
「譲ちゃんいい食べっぷりだなって、その頭どうした?」
「ん?頭?」
頭を触ってみるとそこには人間にはない耳がついていた。
(やばっ!出ちゃってた!)
「いや、これは…」
「このクソガキがぁ!」
「ん?」
声のした方を見ると冒険者が子供を掴んで持ち上げていた。
「おじさん、お肉ありがとう。ごちそうさまでした」
「ちょっ、譲ちゃん!?」
「ご、ごめんなさい…」
「謝りゃ許されると思うんじゃねえぞガキが!」
冒険者が拳を振り上げる。
「やめろこの馬鹿!」
「ゴペッ!?」
拳が子供に届く前に冒険者を殴り飛ばす。
「その子謝ってるじゃない!何暴力振るおうとしてるの!」
「な、何だお前!関係ない奴がしゃしゃり出てんじゃねえ!」
「何でそんな怒ってるのよ!」
「そこのガキがドロドロの服でぶつかってきて俺の服を汚しやがったんだよ!しかも飲んでたもんもこぼして服はずぶ濡れだ!だから仕置きしてやろうとしてただけだ!」
「そんなの洗えばいいでしょ。器小さ過ぎよ、どうしても殴りたいならあたしを殴りなさい。ちょうどあたしから殴った訳だし」
「殴られてえならいくらでも殴ってやらぁ!」
「殴られたくないわよ!」
「べへっ!」
襲い掛かってきた冒険者を引っぱたく。
「無抵抗で謝ってる相手を一方的に殴ろうってのが許せなかったのよ。そんなの、男を落とすだけよ。せめて殴るなら喧嘩相手にやりなさい。喧嘩なら気の済むまで付き合うわよ?」
笑顔でそう言うとなんか頬を赤らめながら顔をそらして「いや、もういいです」って引き下がってくれた。周りからは拍手され、その子供の親からはお礼を言われた。結局目的の人には会えなかった。
「今日も声をかけられなかった……」
後日、目的の人を発見した。だがいざ話しかけようとすると声が出ない。
話しかけられずに1ヶ月程経った。人に話しかけるのってこんな難しかったっけ?とか思うけど彼だからこそだ。他の人とは普通に話せる。躊躇してる間に冒険者達が群がって求愛してきた。正直彼以外に興味はないのであたしに勝てたら結婚してもいいと言ったら毎日寄ってくる。全員殴り飛ばしてる間に彼はまた酒場から出ていってしまった。
彼を追いかけて森に入ると彼が傷だらけで倒れていた。すぐ近くに銃殺されたワイバーンが落ちていた。ワイバーンにやられたらしい。
癒しの魔法はあまり得意ではないけれど、どうにか傷は塞がった。
「君は……助けてくれたんですか。ありがとうございます。」
「いや…追いかけたら倒れてたから…無事で良かったです」
「何故私を追いかけてきたんです?私が何かしましたか?」
「す、好きです!付き合ってください!」
「は?」
それから数ヶ月村で一緒に暮らしていると妙な噂が流れた。流行り病があたしがいた森の周りの村で起きている。冒険者があたしを怒らせたからだとかいう。あたしが病気を流行らせる呪いなんてかける訳がないから勝手に言ってるだけだろうけど、とりあえず調べたら森になってる薬草で治せるものだったから薬を作って配ってきた。あたしの魔力の影響で効果の高い薬草が育ってて良かった。
噂ではフットさんがあたしを倒して流行り病を収めた事になってるらしい。なぜそうなったのかはわからないけど、討伐隊も来るかもしれないらしく、村にいると迷惑がかかるので森に再び住むことになった。フットさんと二人きりで森の中での生活はとても充実していた。
ある日、とうとうその日が来てしまった。あたしの一族は死期が迫ると人の姿でいられなくなる。理性を保てなくなる。あたしは小屋を出ていった。
それから少し経って森の近くに置いてかれた赤ちゃんを見つけた。拾って育てる事にしたけれど、いつ理性を失ってもおかしくない今、いつこの子を食い殺してしまうかが怖かった。
段々と理性を保つのが難しくなってきた。力も衰えてきたし、この子もそれなりに大きくなった。フットさんに預ければ育ててくれると思う。勝手に出ていっておいて、身勝手な話だとおもうけど。
(困ったなぁ……)
小屋に向かう最中に冒険者に出くわした。かなりの実力者で、力の衰えたとはいえあたしと互角にやりあえていた。だがこの男のロウダスを狙った攻撃を庇って受けたのが致命傷だった。正直、その時の事はあまり覚えていないけれど、頭に血が上って男を八つ裂きにした気がする。あともう少しで小屋につく…
小屋の手前まで来てフットさんが出てきた。泣きそうな顔をしている。いや、少し泣いていた。いつか理性を失ってこの人を殺してしまうかもしれないと思うと怖くてこの人からずっと逃げていたけれど、意外と理性は保ってくれた。こんな事ならもう少し一緒にいたかったと凄く後悔してる。泣かないでほしいとも思ったけど、こんな何年も前に勝手に飛び出していったあたしの為に泣いてくれるのが少し嬉しかった。
「この子を…ロウダスを…お願い……」
「ルウ!……任せてくれ、必ず…いい子に育てる!」
出来れば……あの子が大きくなる所をフットさんと一緒に…見守り続けたかったな。
「ルウ?ルウ!目を…覚ましてくれ……ルウ………」
「……母?……死んじゃったのか、母は……」
「……君のお母さんは死んでしまった。彼女から君を託されたんだ。ロウダス、今日から私が彼女の代わりに君を育てるよ」
彼女に託されたこの子を絶対に守り通す、そう誓ったんだ。だってこの子は私達の子なんだから。
ランクロウ夫婦は互いに一目惚れだったそうです。




