狼王昔話
「今から4年程前、血塗れになった狼王がロウダスをうちに連れてきました。後に聞いた話だと、冒険者にやられたそうですね。元々弱っていたのに、近年はもう戦う力もあまり無かったのでしょう。もしくはかなり実力のある冒険者だったのか……。──狼王の傷は深く、既に助かる範疇を超えていました。ロウダスを私に預けてその場で息を引き取りました。ロウダスは人間を恨んでいましたよ。母親を死に追いやった、人間をね」
小屋を出てロウダスの姿を探すと、小屋の屋根の上で小鳥と戯れていた。
魔法で屋根の上に上がると一羽の鳥がショウの腕に止まる。
「──お前、悪い奴ではないな」
「そうかな?」
「鳥達が全く警戒していない。お前からは良い風の気配がするそうだ」
「──そうか」
ロウダスの隣に座り、空間収納から取り出したパンを鳥達に与えてみた。
「確か、ショウだったな」
「ああ。ショウであってる」
「それでショウ、何しに来たんだ」
「イブが言っていたが、森の周りには結界が張ってあって狼王を倒さない限り出られそうに無いらしい。しかも俺達四人の誰かが止めを刺さないと解けない条件付きだそうだ」
「俺の事は聞いただろう。お前達の為に戦う義理は無い」
「その話だけど、別にもう人間を恨んでないんだろう、ロウダス」
「……なぜそう思う」
「恨んでいる奴が俺達を助けれくれる訳無いだろう」
「あれは母が傷つくのを見たくなかっただけだ」
「だったら俺達を蹴り飛ばしてるだろ」
「………」
「狼王を蹴ったのはさっきの発言と矛盾してるよな?」
「……確かにあの時はお前達を助けようとした。あの剣士を蹴ろうとしたら確実に斬られていたからな、母を蹴るしか無かった。お前達を攻撃して、後でややこしくなっても困る。だけど、1番の理由は……傷つけて欲しくなかった、母に。生前母が好きだと言っていた人間を……」
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「放っておいていいんですか?」
「良いんだよ。ただ話に行っただけなんだから」
「ところで狼王堕としってなんだ?やっぱ狼王を倒したからそう呼ばれてるのか?」
それを聞いてロイドが急に笑い出す。
「な、何笑ってんだよ。なんもおかしな事言ってないだろ!」
「あーっ、わりぃ。おかしな事は言ってないんだがな、その呼び名はやっぱ笑えるわ」
「知ってる人はあまりいないですから笑われる事もあまり無くなったんですがね」
「ライガ、1つ勘違いしてるがな、別にこのおっさんは狼王を倒してねえ、鎮めただけだ。まぁそれも合ってねえがな」
「どういう意味だ?」
「あの昔話はな、一人の狩人が狼王のハートを撃ち抜く話だからな」
今から30年以上前、伝説の魔獣が住み着いたという噂が流れた。ジェヴォーダンの獣、その咆哮は聞くものを震え上がらせ、その瞳は見つめた者を決して逃さず、その脚は1日で三千里を駆けられると言われる程速く、口から吐く息吹は一息で山一つを崩し、ドラゴンですら爪の一振りで八つ裂きにされるという。
その噂を聞いた冒険者達が名声欲しさに戦いを挑みに行ったが、帰ってくるものは武具はボロボロ、帰ってこなかった者も多い。帰った者は皆口を揃えて「あれには関わらない方がいい。」と言っていた。
そのうち、魔獣は狼王と呼ばれ、近隣の村では流行り病が発生した。そしてそれは狼王が怒り、病を広めたのだと言われ始めた。そんな噂が流れては近隣の村は勿論、国としても一大事。国を挙げて討伐に向かおうとした。だがそこで聞こえてきたのが一人の狩人が狼王を屈服させ、流行り病の被害も無くなったという噂。現地に赴けば狩人に従う狼王がいたという。それ以降は狼王は大人しくなり、あまり荒らさなければ森林の中に入っても襲われる事はなくなったが、あまりに度が過ぎれば再びその怒りに触れる事になるだろうと言われている。
「今王国なんかで調べたらこんな感じの昔話が聞けるだろうよ。だが本当はな──惚れちまったんだとよ、このおっさんを。べた惚れだったらしいぜ、四六時中離れなかったらしいからな」
「あの狼に懐かれたのか~、大変そうだな」
「そこも少し違う。そもそもジェヴォーダンの獣は厳密にはモンスターじゃねえ。あの姿が有名で危険度が高すぎるからSSSランクなんてついてるが、あれは魔人で普段は人型だ」
「魔人ですか。魔界と行き来する方法があまり無いので見た事はなかったけれど、あれがそうなんですか。」
「普段は人型だが満月を見るとあの姿になるんだ。」
「彼女はいつでも変身出来ましたけどね。──彼女は人が好きで良く近くの村に正体を隠して遊びに行ってました。度々出てくる獣耳で大半の人は気づいていましたが。見目麗しく、口説く男性も大勢いました。そんな彼等に彼女は自分よりも強い相手と寄り添うと言い、挑んでくる猛者達を全て蹴散らしました。彼女より強くなる為に武者修行に出る人もいましたね」
(帰ってこなかった冒険者っていうのはそいつらか)
「私はただの狩人、冒険者程の力は無く、はっきり言って高嶺の花でした。遠目から見て、いつもの様に狩りに出かけました。その時は運悪くはぐれのワイバーンに襲われて、倒しはしたものの重傷を負ってしまったんです。その時に彼女に助けられましてね」
「ワイバーンってBランクだよね」
「ワイバーン倒せてただの狩人はないだろ」
「私を追ってきたらしくて、なぜ追ってきたのか聞いた時に告白されましてね。どうやら以前私を見た時に一目惚れしたらしく、村に来ていたのも私を見に来ていたそうで」
「それでついた呼び名が狼王堕とし。冒険者達がつけたらしいな。狼王を組み伏せた英雄は、実際は狼タラシの色男だったわけだ」
「それと同時期に流行り病が起こりました。他の村が彼女のせいだと噂を流しましたが、その病を治す薬をあの森林から取って来て調合し、全ての村に配ったのも彼女なんですよね」
「その手柄を全てあんたが貰ったと。最低だなあんた!」
「勝手に噂されたんだから仕方ないでしょう!その後暫くは一緒にこの小屋で暮らしていました。ですが彼女は10年程前から次第に体調を崩し、ある日突然姿を消しました。森林内にいるのはわかっていたのでずっと追い続けましたが、追いつく事は出来ませんでした。それから数年後、ロウダスを預けて亡くなったのはさっき言ったとおりです。これが昔話とその後の話ですよ」
(語り部)
「実は彼女、魔界では結構な地位にいたらしいけど、とある事情でこっちに来たらしいよ。因みに名声欲しさに挑んだ冒険者もちゃんといたけどコテンパンにやられたそうだ。1日で国1つ滅ぼせる存在に1パーティで挑んでも勝てなくて当然だと思うんだ、僕は。それを人型とはいえタイマンで倒そうとしてたんだから口説いてた冒険者はもっと愚かだよね」




