天災
「あっ!このお花の根っこ、薬の材料になるんだよ!」
ユナが花を根ごと引っこ抜いて見せてくる。ショウは褒めていたがライガは若干引いていた。
「物知りだねユナちゃん」
「笑顔で花引っこ抜くの、どうかと思う」
フォレストウルフの襲撃の後も何度かモンスターの襲撃はあったものの、順調に進んでいた。
「おかしい……」
「何がです?」
木の実や薬草を回収しながら歩いているとロイドが神妙な顔つきで呟く。
「結構奥へ進んできたが他の冒険者に会わなかったよな」
「まぁ広いですからね、この森林。そこまでおかしな事ではないと思いますけど」
「それはそうだ。だが、人が通った痕跡も戦いの痕跡も無い。どちらかというともう王都側に来てるんだ、他の戦闘音が聞こえてもいいはずだ。だがさっきから聞こえてくるのは鳥の鳴き声くらいなものだ。たまたま他の冒険者がいない、戦っていないだけ、音を殺しての戦闘スタイルのパーティである、例外はいくらでもあるが……入る前から嫌な予感はあったからな」
唐突に現れた強大な気配に、全員が身構える。物凄い速度で近づいてくる気配。音が大きくなり、木々を薙ぎ倒してそれが姿を見せる。
「こいつは……」
どこの地域にも昔から語り継がれる物語が存在する。救世の英雄、おぞましき怪物、幻の秘宝、真偽は兎も角、多種多様な物語があり、この森林にも伝えられる昔話があった。
狼の王が住まい、厄災を振りまき、侵入する人間を八つ裂きにする。どれ程の冒険者が挑んでも帰ってくる事は無かったという。だがその話は一人の狩人が狼王を鎮め、人を襲う事は無くなったという。その狼王も最近は姿も見せず、既に死んでいる、もしくは元より存在しないとまで言われていた。
「話は聞いた事あったが、これは不味いな。狼王とは良く言ったものだ、こいつは魔界の夜を支配する一族の一つ、ジェヴォーダンの獣だぞ」
一軒家程の大きさの巨体、漆黒の美しい毛並み、爪は容易く人をバラバラに切り裂けるほど鋭く、赤い瞳は見た者全てを畏怖させる。
「死んだと聞いていたんだが、あてにならねえな。しかも完全体じゃねーか」
「ジェヴォーダンの獣、それって…」
「ああ、SSの上、神話級とも呼ばれるSSSランクモンスターだ」
目の前に現れたのは人が天災と呼ぶ存在だった。
王都につける気がしない旅路、急がば回れと言ってやりたい。




