森からの脱出
「あなたは……」
「俺の事よりこの状況をどうにかしないとだろうよ」
斬られても再び生えて伸びてくる枝や茨。状況は謎の男が乱入してきただけで好転したとは言い切れない。
「貴方も……眠らないのね……皆幸福になってくれない……どうして?」
「さっきよりも勢いが増したな。とっとと切り抜けるぞ」
迫ってくる茨を切り払いながら撤退する。
『逃げて…誰も死なないで』
「……今のは、幸福の声?でも、雰囲気が違うような……」
『私はただ、皆が幸せになってほしかっただけなのに……』
茨の隙間から僅かに見えたのは、幸福の顔とその頬を伝う水滴。
(これはもしかして、幸福に寄生されたあの女の子のものか!……でも、今の俺には……)
「ぼさっとするなよ!道はつくってやるが自分の身はどうにかしろよ!」
前方を塞ぐ木々に向かって刀を構え、目に見えぬ程の速度で振り抜かれる。
「桜花!」
刀から発せられた斬撃は前方の木々を左右に割いて突き進み、斬撃の後に残る花弁の粒子は伸びてきた枝を切り落としていく。
「凄い……!本当に道が出来た」
『でも直ぐに塞がれちゃう、急がないと!』
「後ろの茨も勢いが増すばかり。火が多少効いてるみたいだけど完全には燃え落ちない。植物とは思えない火への耐久性だな」
『でもかなり本体からは離れたし、今の調子なら逃げ切れそう』
それから数十分走り続けると、茨の勢いも落ち、木々に襲われる事も無くなった。そしてさらに走り続けると鬱蒼とした森を抜け、何もない荒野へと出る。
「はぁ…はぁ…どうにか逃げ切れた……」
「良かったな、助かってよ」
赤髪の剣士が話しかけてくる。
「助けて下さってありがとうございました。それに、その子の事も。」
「ああ、この子は森の中で寝てたのを拾っただけだ。気にしなくていい。」
この男が肩に担いでいた女の子はショウ達が探していた拉致された子達の一人であるユナだった。
「この子の他には見ませんでしたか?」
「他は見てねえな。仮にいたとしてもまた戻って探すのは厳しいしな」
「この子を見つけられただけでも本当に良かった。それに貴方にも会えるとは思いませんでしたよ」
「おっ!俺の事知ってるのか?」
「剣士なら知らない方がおかしい。最強の剣士、王国の剣と呼ばれ、Dの侵攻における英雄の一人、ロイド・グレイサー」
「名声に興味は無いんだがな」
「俺の名前は……」
「ああ言わなくてもいい、あの魔剣達を見ればわかる。会いたかったぜ、ショウ・シュヴァルツ!」
幼女を担いで現れる謎のおっさん。状況が状況なら拉致した犯人の一人と間違われそうな最強剣士だなと思う。




