急転
「魔道士の実技授業になんでランニングなんてあるのさ…。僕、後方支援型の魔道士なんだけどな」
「走り回れない魔道士なんてなんになるんだよ。冒険者にしろ、国に仕えるにしろだ。いざって時にモンスターから逃げられないなんて事になりたくなければ走るしかないだろ」
「そうだけどさぁ。……強化魔法使いたい」
「だらしないな…第一見てみろ、あの三人を。先頭をずっと走ってんのに余裕の走りだぜ。しかもずっとなんか話してるし」
「あの三人は異常なんだよ……」
クラスメイトの目線の先には授業開始からずっと先頭を走り続けている生徒が三人。
「それで?君達は僕が夜の外出を止められている事をいい事に二人で夜の街に出向き、人攫いに出くわして戦闘、手も足も出ずにあしらわれたけど、気に入られ、スカウトされたと」
「そういう事になるな」
「あまりにも軽率だと思うよ。相手が想像以上に強敵だったとはいえ、そうでなくても君達だけで人攫いを捕まえるなんて危険が過ぎる」
「お前が行けたとしても止めたか?」
「止めても聞かないだろうからついていっただろうね」
「どの口が言ってんだか……」
「このあとは駐屯地に行くんだよね?そのもらったカードも渡すんだよね?」
「そのカードの事なんだけど、この中に居場所が入ってるって言ってたけどどうやって使うんだこれ?」
虚無感からもらったカードをレイに見せる。
「これは魔道具の一種だよ。魔力を込めれば地図が出てくる。旅人の必需品だとも」
レイがカードに魔力を込めると立体映像の地図が出てくる。
「へぇ~、地図って紙じゃないのか」
「紙の物も当然あるけどね。色々と機能がついてる物もあって便利なんだよ」
『世の中便利になっていくのぅ。覗きにも役に立つものが増えているんじゃろうなぁ』
「買わせねーよ?」
地図を見てみるとある地点にマーカーがついている。
「ここがそうなのかな?王都の西側の森の中だね」
「お前らー!何魔道具使って遊んでんだー!」
「見つかってしまった。これは返すよ」
ショウにカードを返して走り続ける。
「全く。しかし、話してても他と距離が開く一方だなあいつら。ショウとライガはともかく、レイまで体力おばけとは……」
「お前、そんな体力あったんだな」
「ふっ、僕のブーツにはスタミナ増強の付与魔法がかかっている。僕自身のスタミナはカス同然さ!」
「自慢げに言うなよ」
「先生には伝えておくよ。ズルしてたって」
「走り続けていれば、体力はつくと思うんだ。だからそれまで待ってくださいお願いします」
「この見栄っ張りが……。バレても知らねえからな」
放課後、駐屯地へと向かう一行。
『まだ浮かない顔をしてるねショウ』
『自分の力不足が不甲斐ないだけだよ。被害者も助けに行けず、虚無感を捕まえる事も出来ず、相手の居場所がわかっていながら手出しもできない。本当に、不甲斐ない』
『いや、普通子供に誰もそんな期待しないよ?何もおかしくないからね?』
『俺がそう思ってるだけだよ、気にしないでくれ』
「もう少しで駐屯地だ。ちゃんとカードは持ってるよね?」
「ああ。と言ってもやつの言う事が正しいなら今日の内にはいなくなってしまう。行っても無駄足になるかもしれないけどな」
「あ、ショウ君。ちょっといいかな?」
振り返るとそこには一人の女性が立っていた。
「ユナちゃんのお母さん?何かようですか?」
「ちょっと聞きたいことがあって。昨日からうちの子が帰ってきてなくて、何か知らないかな?」
「え?いや、俺は知らないです」
「うちの子の友達に聞いても知らないって言うし、最近人攫いが出たっていうじゃない?だから心配でこれから衛兵さんに話を聞いてもらおうかと思ってたんだけど……」
三人に不安がよぎる。
「ユナちゃんはどこに出かけたかわかる?」
「友達の家に遊びに行ったんだけど夕方には別れたそうなの。でもその後は街でも誰も見てないらしいの」
「その友達の家ってどこにある?」
「確か……西区域の方ね」
「これは……」
「不味いかもな」
(あいつは人を入れられるような物は何も持っていなかった。だが実行犯と運搬役が別にいるならそれもおかしくない)
『イブ、ユナちゃんはネガティブシードにする条件を満たしていたのか?』
『満たしやすいとは思うよ。試すには十分なくらいにね』
「くそっ!」
その場から駆け出すショウ。ライガ達も慌てて追いかける。
「すみません、ちょっと急用ができたので失礼します!」
「娘を見かけたら教えてねー」
「必ず!」
ショウ達は西区域へと向かっていた。
『今から行っても手遅れだと思うよ。それに昨日も言ったけど虚無感が本気で殺そうと思えば多分今のショウ達じゃあっという間に殺される。それでも行くの?』
「見ればわかるだろ。もう迷わない、俺は行くぞ。二人はついてこなくてもいいんだぞ?」
「これで行かないは嘘だろ」
「戦力はあって困るものじゃないだろう?」
三人は全力で西門へと駆けていく。




