はじまり
「きゃっ!」
「子供が馬車の前に!」
女の子が一人、道に躓き、道行く馬車の前へと飛び出す。周りの人々も気づきはしたが助けに身を乗り出せば自身も巻き込まれかねない。皆の迷いは一瞬、馬車が女の子を引くまでも一瞬だった。その刹那の時に風が吹いた。風の吹き止んだ先には先程まで馬車の前にいた女の子と銀髪の少年が1人。
「間に合ってよかった。怪我はないかな、お嬢さん?」
「あ、ありがとうお兄…いたっ!」
「さっき転んだ時に切っちゃったのか。傷を洗って、ヒール!」
どこからか出てきた水で傷口を洗い傷に手をかざすと、光が溢れ、傷は綺麗に治っていた。
「わぁ…!ありがとうお兄ちゃん、もう痛くないよ!わたし、ユナ!お兄ちゃんのお名前は?」
「俺か?俺はショウ、ショウ・シュヴァルツだ。」
「ショウが来てくれて助かったな~。流石に助からねえかと思ったぜ」
「ショウちゃんは困ったことがあったらいつでも駆けつけてくれるからね~」
「ショウ坊!明日試験だろ、頑張れよ!」
「はい!それじゃあユナちゃん、俺はもう行くよ」
「うん!またね~ショウお兄ちゃん!」
その日の夜、夢を見た。今より少し小さい時のもの。俺にとっての始まり。
「君が望むなら、私が君を強くするよ。後は君の気持ち次第だけど、どうする?」
「俺は……強くなりたい」
そして俺は、この妖精の手をとったんだ……。
『──ョウ、ショウ!もう朝だよ!』
「………あぁ、おはようイヴ」
目を覚ましたショウの目の前では、宙に浮いている金髪長髪の小さな女の子がショウを揺さぶって起こそうとしていた。彼女の名はイヴ。訳あってショウと一緒に暮らしている妖精だ。
『ショウが完全に寝ているなんて珍しいね~。緊張してるの?今日の入学試験』
今日はショウが住む国、アヴァンテンド王国で最高峰の学院であるクラヴィス魔法学院の入学試験の日だった。クラヴィス魔法学院では7歳までに魔法の素質を見出した子供達が8歳になる年に入学する。
「そういうつもりはないんだけど…もしかしたらそうなのかもしれないな」
『気負う必要ないって!どうせ合格できるよ、ショウの実力ならさ』
(まぁ新しい環境、初めての同年代の子との交流もあるし…むしろ緊張ならそっちがメインかな)
「そうだといいけど」
『それより早く朝ご飯食べて準備しないと試験間に合わなくなるよ?』
「それは困る、とっとと着替えるか」
服を着替え、朝食を済ませ、試験の準備のチェックを済ませた。あとは向かうのみ。
「よし、行くか」
そう言って街に向かって走るショウの背中を押すように、風が吹いていた。
ショウは街の外に住んでいます。